水面下
謁見の間を出た瞬間にエリシアの肩から、力が抜けた。
「……大丈夫ですか」
侍女が駆け寄る。
「平気です」
そう答えたが、指先はまだ震えている。
俺は、その隣にいた。
霊鋼の針を握ったまま。
守れた。政治は、これからだ。
夜。魔女の部屋。
窓の外は、月明かり。
魔女は机に広げた羊皮紙の上へ、細い筆を走らせていた。
「何してるんだ」
俺は板を指す。
『な』
『に』
魔女は顔を上げない。
「裏工作よ」
さらりと言うな。
「ルークは王都へ確認を取ると言った」
筆を止める。
「でも、本当に確認すると思う?」
俺は、少し考える。
……しないな。
『う』
『そ』
魔女が、にやりと笑う。
「そう。時間稼ぎ。次の手を打つ為の」
魔女は、もう一枚の羊皮紙を取り出す。
そこには、王都の紋章に似た封蝋。
でも微妙に違う。
『に』
『せ』
魔女は肩をすくめる。
「偽造とは言わないで“写し”よ」
……同じだろ。
「王都の別系統へ、先に報せるの」
別系統?
「第一王子だけが王都じゃないわ」
なるほどな。権力は一枚岩じゃない。
「ルークが監督官を送り込んだ」
「それは既成事実にしたいから」
魔女は封を押す。
「なら、先に揺らす」
揺らす?
「王都内の対立派に、“独断の可能性”を流す」
……火種か。
「疑念は、広がると面倒になるものよ」
魔女は立ち上がる。
「ルークは今、城内の空気が読めていない」
窓の外を見る。
「刺客は失敗」
「権限移譲も拒否」
「焦っているはず」
俺は、霊鋼の針を見つめる。
焦った相手は、危険だ。
「だから」
魔女が振り返る。
「次は、派手に動くわよ」
派手に?
「あなたも、準備しておきなさい」
霊鋼が、かすかに震えた。
共鳴。戦いは、もう裏側に入っている。




