拒絶
「本日付で、都市防衛権限の一部を――王都より派遣された監督官へ移譲する事が決定されました」
ルークの声が、謁見の間に響く。
護衛達がざわつく。
エリシアは動かないがただ、ルークを見ている。
静かに。
「臨時措置です」
続ける。
「エリシア様の安全を最優先に考えた、王都の判断となります」
最優先、ね。
俺は霊鋼の針を握る。
都合の良い言葉だ。
「既に監督官は到着しており、城門にて待機しております」
ルークが一歩、踏み出す。
「エリシア様には、ご承認を――」
「お断りします」
被せた。一切の間を置かずに。
ルークの口が、僅かに止まる。
護衛達も、息を呑んだ。
エリシアは、玉座に座ったまま。
だが、その背筋は伸びている。
「……殿下?」
「この都市の防衛権限は、私に与えられたものです」
静かな声だが、はっきりと。
「それを移譲する理由はありません」
ルークの目が、細まる。
「昨夜の侵入事件をご覧になったでしょう」
淡々と返す。
「エリシア様の命が狙われている以上、指揮系統の再編は妥当かと」
「ならば」
エリシアは言う。
「その侵入者は、誰の指示だったのですか」
空気が、凍る。
ルークの表情は変わらない。
ほんの僅かに、視線が動いた。
「……何を仰っているのか」
「地下に、遺体があります」
嘘じゃない。
「尋問は出来ませんでしたが」
声が低くなる。
「自害しました」
護衛がざわめく。
ルークは、沈黙する。
「侵入者は、城内の構造を熟知していました」
エリシアは続ける。
「単独犯とは思えません」
一歩。言葉を、重ねる。
「それでもなお、王都の監督官に任せるのが最善だと?」
ルークの顎が、僅かに動く。
「……エリシア様」
声が低くなる。
「それは、王都の判断です」
逃げたな。
「ならば」
エリシアの瞳が、鋭くなる。
「正式な王命をお持ちください」
昨日と同じ言葉。意味は違う。
「書状には、移譲の“決定”とありますが」
羊皮紙を指す。
「“命令”とは書かれていません」
……やるな。
ルークの沈黙が、数秒続く。
やがて深く、一礼した。
「……承知しました」
顔を上げるとその目は、冷たい。
「では、王都へ確認を取らせて頂きます」
踵を返し扉へ向かう。去り際に、言った。
「殿下のご決断が、賢明である事を祈っております」
その声には、祈りは無かった。
扉が閉まる。
静寂。
エリシアは、ゆっくりと息を吐いた。
手は、震えていた。




