共鳴
俺は、霊鋼の針を見つめていた。
細いが、確かに“在る”。
板とは違う。
木の板は、あくまで“道具”だった。
意味を持たせた物。
俺の意思を宿した物。
これは――違う。
触れているだけで、何かがざわつく。
霊鋼の表面に刻まれた、極細の文様。
それが、微かに光っている気がした。
「……どう?」
魔女の声。
俺は、針を持ち上げる。
軽い。いや、重さは感じない。
“抵抗”がある。
まるで、水の中に手を入れているような。
空気じゃないが何かに、触れている。
『な』
『ん』
『か』
『ち』
『が』
『う』
魔女が頷く。
「共鳴してるのよ」
共鳴。
「霊鋼はね、魂の揺らぎに反応する」
針を、指でなぞる。
「あなたの存在に、干渉されてる」
俺が?
「逆もまた然り」
……またか。
「使えば使うほど、馴染むわ」
嫌な予感しかしない。
「ただし」
魔女が、少しだけ真顔になる。
「削れるのは、向こうだけじゃない」
俺は、針を見る。
さっきも言ってたな。
「魂に触れる道具ってのはね」
魔女が続ける。
「持ち主の輪郭も削るのよ」
輪郭。
……俺の?
名前を思い出すのに、時間が掛かる。
あれと、同じか。
『つ』
『か』
『う』
『べ』
『き』
『か』
魔女は、肩をすくめた。
「選びなさい」
簡単に言うな。
使わなければ、守れない。
俺は、針を握る。
その瞬間に、ぴり、と。
微かな痛みが走った。
……痛み?幽霊の俺に?
針の先端が、淡く光る。
魔女の目が、細くなる。
「……早いわね。共鳴したお陰で、他人から見ればその霊鋼も見えないし壁とかもすり抜けられるわよ」
俺は、針を振る。空気を裂く感覚。
確かに、“干渉”している。
これなら――刺せる。
その時だった。
城の鐘が、鳴った。
ゴォン――低く、重い音。
警戒ではない。
異常。魔女が、窓を見る。
「……来たわね」
俺は、針を握り直す。
次は――これで。




