勇者の陰で俺は幽霊?
てか、何が起きた?
何処かに飛ばされた様な感覚は、あったが……
ん?
あの3人は店にいた女性達。
ここは……雰囲気的には城の中っぽいが……
高い天井。石造りの柱。赤い絨毯。
甲冑姿の兵士達が整列している。
この流れは、こっちに連れて来られて王族とのやり取りだな。
ほーれ!見ろ。偉そうな奴が出てきた。
金糸の刺繍が入ったローブ。王冠。
どう見ても王様ポジション。
「よくぞこちらにお越しくださいました。三人の勇者達!」
そのまんまだな。
やっぱりか。
店にいた三人は、少し戸惑いながらも前に出る。
周囲は歓声。勇者召喚テンプレ、ここに極まれり。
で?俺は?
視界が妙だ。
王座の間を、やけに広く見渡せる。
いや、広いんじゃない。
……上から見えている。
「え?」
玉座の間を俯瞰している。
三人の勇者を、王を、兵士を。
俺は――天井付近に浮いていた。
「は?」
何で俺は、皆を上から見れてる??
手を見ると透けている。
いや、手という感覚はあるが、輪郭が曖昧だ。
下に降りようと意識した瞬間、ふわりと視点が移動した。
……飛んでる?
一体どうなってるんだ?
冷静に考える。
ここの言葉は理解出来るし、文字も理解出来る。これは助かる。
異世界テンプレだが、言語チートはあるらしい。
三人の前に、水晶玉が運ばれる。
出たよ。
「どうぞ、お手を」
水晶が光る。
剣士。
魔法使い。
僧侶。
はいはい。まんまだな。
ステータス発表的なやつか。
王は満足げに頷き、周囲はさらに沸く。
「魔族を討ち滅ぼし、我らを救っていただきたい」
それで魔族と戦いってか……
本人達は、やる気満々だが。
まあ人それぞれだ。
俺なら絶対断る。
まずは勇者を讃えるのにパーティーか。
貴族達が集まり、楽団が演奏を始める。
ん?
俺は??
俺、完全に放置じゃね?
いやそれより――
誰も俺を見ていない。
兵士の前に降りて、顔を覗き込む。
反応なし。声を出してみる。
「おーい」
……無反応。
近くの貴族の肩を叩こうとする。
すり抜けた。
「うわ」
完全に透過。
他の人の周りをグルグル回ってみる。
やっぱり見えてないようだな。
魂の状態?なのか?
俺だけ別処理。
……巻き込まれ、ってやつか。
あの神様も言ってたな。
転移事故。勇者三人が本命。
俺は――余波。
声を張る。
「おーい!俺もいるんだが!」
虚しい。
言葉は空間に溶ける。
憑依?
ふと、酔って足元がおぼつかない兵士に近づく。
集中して入り込むイメージ。
……すり抜ける。
無理!
全然ダメ。壁も柱も、人も、全部すり抜ける。ここには魔法がある様だが、何も出ないし、ステータスも出ない。
さっきの水晶なら何か分かるか?
玉座の横を見る。
水晶は、厳重に箱にしまわれてしまった。
鍵付き。警備付き。
……無理だな。
「はは……」
笑いが漏れる。勇者は歓待され。
俺は幽霊。
チートもなし。
役割もなし。
んーまーあ……いいか……
と、思った瞬間。
ぞくり、と背筋に冷たい感覚が走った。
玉座の間の隅。
誰もいないはずの暗がり。
そこに――
俺を見ている視線があった。
黒いローブ。
長い銀髪。
その女は、確かに俺を見ていた。
そして、わずかに目を細める。
「……あら?」
小さく、口が動く。
「一人、多いわね」
俺は、固まった。




