夜を飛ぶ魔女
ふぅ〜……。
如何にか、エリシアにバレずに木の影に隠れたぞ。
城壁の外。
窓から落ちた密偵のすぐ近く。
月明かりの下、植え込みの影に身を潜める。
いや、潜めている“つもり”だが。
エリシアの部屋の窓には、明かりが灯っている。
起きたか。
そりゃあ、あれだけ派手に音が聴こえりゃ〜。
まずい。説明出来ん。
指差し板で「密偵の頭かち割った」なんて言ってみろ。
確実に不審者扱いだ。いや、幽霊だから既に不審か。
とにかく――見つからなかった。
よし。助かった。そう思った瞬間。
「やったわね。ポチ」
背後から、声。
「ありがとう」
うお!!
俺は思わず振り返る。
銀髪。黒いローブ。魔女だ。
いつの間に。
「……驚きすぎよ」
いや、驚くわ。お前、気配とか出せよ。
魔女は、俺の横をすり抜けて、地面に倒れた密偵へと近付く。
フードが外れ、顔が見える。
若いな〜。表情は固まったまま。
気絶か……それとも。
魔女がしゃがみ込む。
指先を、そっと密偵の額へ当てた。
淡い光。
「……生きてるわね」
小さく呟く。
「このままにしておくのは、不味いわ」
そりゃそうだ。
巡回兵に見つかれば、騒ぎになる。
いや、既に騒ぎにはなるだろうが。
魔女は立ち上がる。そして、俺を見る。
「この下に落ちたのは、私が処理しておくわ」
処理、って。物騒な言い方するな。だが頼もしい。俺は頷く。
「あなたは戻りなさい」
魔女が空を見上げる。
月が高い。
「エリシア様には、内緒よ」
その一言と同時に、彼女の身体が、ふわりと浮いた。
「……は?」
ローブの裾が、風も無いのに揺れる。
足が、地面から離れる。
ゆっくりと静かに、そのまま、宙へ。
魔女も、空飛べるのか。
俺は呆然と見上げる。
密偵の身体が、見えない力に引かれるように持ち上がる。
一緒にふわりと。
「後は任せなさい」
魔女が、小さく笑う。
そのまま、闇の中へと消えていった。
……すげぇな。
俺はしばらく、空を見上げていた。
やがて、エリシアの部屋の窓に再び視線を戻す。
揺れるカーテンに明かり。
バレては無さそうだな。




