見えざる侵入者
密偵?……の様なのが入り込んで居るのか!?
城の屋根の上。一瞬だけ見えた、黒い影。
あれは偶然じゃない。
ルークの言葉に応じた。
つまり――共犯者。城内に。
「……これは不味い!」
思考が一気に現実へ引き戻される。
魔物被害の増加。交易路の混乱。
そして、王都からの使者。
全部が繋がっている可能性。
まさか――
暗殺とかする気か!?
エリシアを排除し、辺境の統治権を奪う。
そうなれば、王都から代行統治官を送り込む“理由”が出来る。
筋は通る。通りすぎるほどに。
「不味い……!」
俺は即座に魔女の部屋へ戻った。
扉をすり抜ける。
「どうしたの、ポチ」
魔女が顔を上げる。
俺は、指差し板を掴む。
『て』
『き』
『い』
『る』
『し』
『ろ』
『な』
『い』
『ぶ』
『に』
『あ』
『る』
敵いる
城内部にある
伝わるか?
魔女の瞳が、細くなる。
「……密偵?」
俺は、右手を上げた。
魔女の表情が、消える。さっきまでの軽さは無い。
「確信は?」
俺は、右手を上げた。
ルークの部屋。屋根の影。声。
魔女は立ち上がる。
「……面倒ね」
その一言。だが声は低い。
「エリシア様には?」
俺は、首を振る。まだだ。不確定。
それに――今、知らせれば混乱する。
魔女は、俺を見た。
「探すのね?」
俺は、右手を上げた。
「了解」
魔女は即答する。
「私は内部の結界を確認する」
結界?
「外部の侵入者を弾く為のものよ。破られていれば分かる」
つまり、城に入り込んだ経路が特定出来るかもしれない。
「ポチ」
俺は顔を上げる。
「無理はしない事」
……幽霊に言う言葉か?
その目は真剣だった。
「あなたは“消耗する”」
分かってる。
さっきの兵士の時の感覚。
あれが続けば――俺は、頷いた。
そして、部屋を飛び出す。
廊下。階段。屋根へ。
さっき影が消えた場所へ向かう。
夜風は感じない。空気が張り詰めている。
城壁の上。見渡す。誰もいない。
……いや。
いた。見張りの兵。だが――その背後。
一瞬だけだが影が、揺れた。
俺は、そちらへ意識を向ける。
黒。
フード。
城の構造を熟知している動き。
兵の死角を、正確に選んでいる。
プロだ!間違いない。
俺は、そっと後を追う。
音は無い。気配も無い。見えもしない。
幽霊である事が、今は最大の武器。
影は、城の内側へと消えていく。
その先は――
エリシアの居室がある区画。
「……!」
やっぱり、暗殺か。
俺は、さらに速度を上げた。




