午前四時のヘッドライト
はぁ〜……。
俺は四十代半ば。あと数年もすれば五十代だ。
転職活動に失敗し、正社員の道も閉ざされ、結局たどり着いたのは派遣。
だがそれも長くは続かなかった。
「経験者優遇」「即戦力求む」
そんな言葉ばかりが並ぶ求人欄を、どれだけ眺めただろう。
今は夜勤の飲食店。
朝まで立ちっぱなし。油と洗剤の匂いが染み付いた制服。
時給は上がった。だが物価も上がった。
結局、手元に残るものは何も変わらない。
いや、むしろ減っている気さえする。
ここは賄いが出るし、余った食材も持って帰れる。
ありがたい。ありがたいんだが――
その度に、胸の奥が少しだけ軋む。
「俺は、余り物を貰って生きてるのか」
そんな考えが、ふと頭をよぎる。
田舎でのんびり暮らす。
小さな家と、畑と静かな空。
そういう生活を夢見たこともある。
でも踏み出す勇気はなかった。
休みの日はネットで転生系を読む。
若返って無双する話。
チート能力で人生やり直す話。
俺も転生しねぇかな……。
なんて、四十代半ばの男が布団の中で妄想している。
情けない話だ。
時計を見る。
午前四時。
あと一時間もすれば、朝番のおばちゃん達が来る。
今の客はカウンターに三人。
いつもより入っている方だ。
……女性三人組?この時間に?
仲良し三人組か?
いや――
それにしても静かに食事をして居る。夜の仕事してる様にも見えんし。それとも終電を逃して、始発まで待ってる口か?
まあいいや。早く時間が過ぎねーかな。
その時だった。
ピカッ!!
店の外から、強烈な光。
ヘッドライト。トラックか?
気が付いたら真っ白な空間に俺とさっきのカウンターに居た3人の女性。
まさか、、、これ流れのパターンは?
あちゃー。マジに転生の流れか?しかもあの3人まで同じ空間に居るぞ?
と言う事は、そろそろ神様みたいなのが登場か?
お約束通りのパターンだな。
……なんて思った瞬間だった。
空間が、ぐにゃりと歪む。
白一色だった世界の中心に、黒い裂け目が走る。
そこから、ゆっくりと“何か”が現れた。
長い衣。人の形はしているが、顔が見えない。
いや、見えないのではない。視線が合わないのだ。
存在しているのに、輪郭が定まらない。
うわ、出たよ。マジで神様かよ。
「この度は、ご迷惑をお掛けしました」
低くも高くもない声が、頭の中に直接響く。
はぁ?
「あなたは本来、死ぬ運命ではありませんでした」
はぁぁ?
「異世界への転生事故に巻き込まれました」
俺は思わず叫んだ。
「巻き込まれて転生かよ!」
事故!?
俺、トラックに轢かれたんじゃなくて、異世界の事故!?
神様は、静かに頭を下げている。
「我々の管理不足です」
いやいやいやいや。
「ちょっと待て!管理って何だよ!俺の人生、そんな雑に扱われてんのか!?」
神様らしき存在は、わずかに沈黙した。
「補償は用意しております」
ほらきた。
お約束だ。
チートか?
若返りか?
貴族スタートか?
胸の奥が、わずかに高鳴る。
同時に、妙に冷静な自分もいる。
四十代半ばの俺だ。
もう、夢だけでは飛びつかない。
「……で?」
俺は白い空間の中心を睨む。
「俺は、どうなる?」




