第五章 凍てつく窓際
かつてないほど激しい寒波が、街の灯火を凍てつかせていた。
カイは、ある地方都市の科学館で開催された公開講演会の控え室にいた。
窓からは、雪を孕んだ雲が重く垂れ込み、星空を完全に遮っている。
講演を終え、舞台袖に下がった彼の背中に、重い倦怠感が張り付いていた。
サインを求める長い列を捌き終え、ようやく手にした一杯の茶が、冷え切った指先に微かな熱を伝える。
「……カイ先生、お久しぶりです」
背後から届いたその声は、錆びついた扉が開くような不快な軋みを伴っていた。
振り返ったカイの視界に入ったのは、白髪の混じった一人の老人だった。
皺の刻まれた顔、古びた毛織の背広。
記憶の底にある澱みが、一気に表面へと浮上する。
その男は、かつてカイを「36」と判定し、将来の可能性を否定した中学時代の教師、谷口だった。
谷口の隣には、猫背で視線を泳がせる一人の少年が立っていた。
制服の袖は少し長く、指先は常に何かに怯えるように震えている。
その姿は、鏡を見るまでもなく、かつてのカイそのものだった。
「驚きました。あんな問題児だったあなたが、今や宇宙開発の第一線で活躍されているとは。教育という仕事は、本当に予測がつきませんな」
谷口の言葉には、感嘆の中に、隠しきれない嘲笑が混じっていた。
彼はカイを「成功した例外」として処理することで、自らの過去の判断を正当化しようとしていた。
「実は、この生徒のことで相談がありまして。彼は……シュン君と言うのですが、科学の才能はあるようだが、他の教科がさっぱりでね。あなたの成功体験を、彼に説いてやってくれませんか」
カイは黙って、シュンの瞳を見つめた。
そこには、自分と同じ「暗闇」が宿っていた。
だが、その闇は、谷口のような大人たちの言葉によって塗りつぶされ、窒息しかけていた。
教育とは、正解という名の枠を押し付けることではない。
不規則なノイズの中から、その子にしか聴き取れない旋律を見つけ出す手助けをすることではないのか。




