第四章 一等星の孤独
冬の星座が天頂に輝く頃。
カイは、母校でもある大学の壇上に立っていた。
かつて彼を「教育の敗北」と呼び、視界の外へと追いやった教授たちが座る、その最前列で。
会場には、彼の配信を聴いて宇宙開発の門を叩いた若者たちや、地方の再生に命をかける篤志家たちが詰めかけている。
カイは掠れた声で語り始めた。
「宇宙は、不完全な場所です」
聴衆が息を呑む。
「ブラックホールは情報を飲み込み、宇宙は冷たく膨張し続ける。星は死に、銀河は散り散りになる。でも、その不完全な闇の中に、私たちはデータを、つまり『意味』を見つけ出そうとする。それは、私たちが不完全な人間だからです」
その言葉は、用意されたスクリプトにはない、彼自身の慟哭だった。
完璧なサクセスストーリーなど、この宇宙のどこにも存在しない。
あるのは、泥水を啜りながら、それでも光の方向を見失わないための執念だけだ。
偏差値36の少年が、NASAの門を叩き、ポッドキャスターとして世界と繋がったのは、彼が優秀だったからではない。
彼が誰よりも「暗闇」の恐ろしさを知り、そこにある光を一粒も漏らさぬよう、必死に濾過し続けたからだ。
講義を終えた後、会場を包んだのは、割れんばかりの拍手ではなかった。
ただ、深い、共鳴の静寂だった。
そこにいた人々は皆、自分の中にある「不完全さ」という名の宇宙に、カイの言葉が触れたことを感じていた。
カイは再び、夜の街へと踏み出していく。
寒気が肌を刺し、吐き出した息が白く凍る。
ポッドキャストの機材を詰め込んだ鞄は、かつてよりもずっと重く感じられた。
だが、その重みこそが、彼がこの地上で生き、不完全な誰かと繋がっているという「質量」の証だった。
「カイさん、次の国際会議のスケジュールですが……」
マネージャーの声に、彼は静かに頷く。
不完全な人間が、完全な真理を求めてもがき、歌う。
その営みこそが、カイにとって、何よりも尊い星雲のように見えた。
光と影。
数字と物語。
その狭間で、カイは今夜も、まだ誰も気づいていない星屑を数え続ける。
暗闇の向こう側で待っている、まだ見ぬ誰かのために。




