第三章 多忙という名の重力
だが、光が強まれば、その分だけ影も深く沈む。
サクセスストーリーの裏側で、カイの肉体と精神は、猛烈な重力によって削り取られていた。
空港のラウンジで仮眠をとり、タクシーの後部座席でデータを精査し、深夜のホテルで録音機材をセットする。
「孤軍奮闘」という言葉すら生温い、加速度的な日常。
彼は常に「期待通りのカイ」であり続けなければならなかった。
宇宙物理学において、青白く熱く輝く巨星ほど、その寿命は短い。
カイは自らを燃料に、時代の中心で輝こうとしていた。
完璧な解析、正確な未来予測、そして人々に勇気を与える声。
そのすべてを維持するために、彼は自分のための時間を、静かな呼吸を、そして人間としての「弱さ」を切り捨て続けた。
「……喉が、焼けるようだ」
収録を終えた深夜、スタジオの隅で彼は独り、冷徹な静寂に包まれる。
何万人ものリスナーと繋がっているはずなのに、マイクを切った瞬間に訪れる真空は、宇宙の果てよりも冷たい。
ビジネスでの裏切り、専門家からの嫉妬、そして「自分はただのメッセンジャーに過ぎない」という虚無感。
それらはすべて、ポッドキャストの明るい声の下に沈められた。
ある日、彼は鏡の中の自分を見て、戦慄した。
そこにいたのは、かつて偏差値36で途方に暮れていた少年ではなく、情報の激流に飲み込まれ、個体としての輪郭を失いかけた「観測機」のような男だった。
彼は誰よりも宇宙を語りながら、誰よりも自分の足元を見失っていた。
人には語れない苦労 ─── それは、成功の頂で「自分が消えていく」恐怖だった。
彼は自らを情報の翻訳者と定義していたが、その実、自分自身の悲鳴を翻訳する言葉だけは、どこにも見つけられずにいたのだ。




