第二章 共鳴する銀河
「こんばんは。今夜も、手の届かない場所にある『不思議』について話をしましょう」
深夜。
カイは別の顔を持つ。
防音材が貼られた狭い部屋でマイクを前に座り、世界中に向けて声を放つ「伝達者」だ。
最初は、砂漠で独り言を呟くような孤独な試みだった。
専門知識を持たない「素人」としての出発。
だが、彼には武器があった。
難解な特異点を「誰にも言えない秘密を隠す場所」に例え、宇宙開発の現状を「暗闇の中で手を伸ばす子供」と呼ぶ。
その比喩は、専門知の象牙の塔に閉じ込められていた光を、大衆という広場へと連れ出した。
配信を始めて一年。
カイの周囲の景色は、劇的に色を変え始めた。
深夜の独り言だったはずのポッドキャストが、巨大な磁石のように、本来なら交わるはずのない人々を引き寄せたのだ。
ある時、地方の小さな町から一通の連絡があった。
過疎化に悩むその町は、カイの放送をきっかけに、町の廃校を「星空保護区」の拠点として再生させるプロジェクトを立ち上げたという。
カイは、ただのマイクの前の男から、地域とビジネス、そして大学の研究室を繋ぐ「星座の結び目」へと変貌していった。
かつて「36」と笑われた男の言葉が、今や数億円規模の予算を動かし、人々の故郷を守るための論理となっていた。
カイのデスクには、二通の対照的なメッセージが届いている。
一通は、汚れた封筒に入った小学生からの手紙だ。
『カイさん、ぼくは学校のテストが苦手だけど、カイさんの話を聞くと、数字が星を数えるための魔法に見えます』
もう一通は、シリコンバレーの宇宙ベンチャーを率いる経営者からのメール。
『君が提唱した「宇宙天気」の解析手法は、我が社の衛星コンステレーションの防衛に不可欠だ。至急、アドバイザーとして契約したい』
小学生の純粋な憧憬と、ビジネスの最前線にある冷徹な計算。
その両極端な視点が、カイという媒介を通して混ざり合い、未知の角度から未来を照らし出していく。
彼は気づき始めていた。
専門家たちが忘れかけていた「驚き」と、素人たちが抱く「畏怖」の間にこそ、真実の宇宙が横たわっていることに。




