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第一章 暗闇の濾過

摩天楼の頂から、視線が地上へと降りていく。

幾千もの窓が放つ光は、まるで地上に落ちた星屑のようだ。

カメラがさらにズームし、一軒の古びたアパートの窓へと入り込む。

そこでは、一人の青年が複数のモニターが放つ青白い光に照らされていた。

部屋には、冷え切ったコーヒーの苦い香りと、サーバーの微かな駆動音が漂っている。

彼の名前はカイ。

かつて、数値化された社会の評価システムにおいて「落伍者」の烙印を押された男だ。

かつての偏差値は、わずか「36」。

それは、当時の彼にとって絶対的な重力であり、底の見えない暗黒星雲だった。

周囲の大人たちは彼を「読み書きの順序さえ危うい、空っぽの器」と呼び、彼は自らも、その評価という名の檻の中で呼吸を止めていた。

だが、彼は見つけた。

誰にも理解されない孤独な夜、古い天文書のページを捲る指先に、一筋の光が触れた。

それは「X線天文学」という、人間の目には見えない宇宙の激動を捉える学問だった。

可視光という安直な光を排し、高エネルギーの粒子が放つ悲鳴を数式で聴く。

そのストイックな世界は、社会から無視されていた彼にとって、唯一の対等な対話相手となった。

「……また、このパターンか」

カイの瞳には、波打つグラフの羅列が映っている。

彼の仕事は、膨大な情報の海から「意味」という名の真珠を拾い上げること。

かつて試験の解答用紙に記された低い数字に絶望した少年は、今、その数字の裏側に潜む「宇宙」を読み解く術を手に入れていた。

ブラックホールが周囲の物質を飲み込む際、断末魔のように放つX線。

その不規則な明滅から、天体の質量や回転を導き出す。

目に見えない光を、数式というレンズで濾過し、真実を抽出する。

その過程は、彼自身の人生を立て直す作業そのものだった。


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