お悩み相談室
ピコン─── K.ta『遥どうしたの? おれに個人的に話しかけてくるなんて、珍しいよね』
HAL.Ca『ああ、うん。滝にちょっと聞いてみてえ事があってさ』
K.ta『おれに聞いてみたい事? 何かな?』
ヘッドセットの向こう側にいるから、顔も見えねえし、これならちゃんと聞けるかな…?
この前、琢磨には相談しそこなったしさ。
うー。き、聞いてみるぞ。滝の考えを…
HAL.Ca『あのさ、滝って、恋人同士の接触について、どう考えてる?』
K.ta『……聞きたい内容があんまり具体的じゃないね。でもま、答えるなら当人達の問題なんじゃない?』
ち、違え…そうじゃねえだろ俺。
滝と彼方がどう接触してるかっつー問題なんじゃねえ、俺と弥勒の問題なんだろ?
なんかこの聞き方じゃ俺がデバガメっぽいじゃん!
俺別に滝と彼方のエピソードとか聞きてえわけじゃねえし! 違うんだよ滝!
誤解、誤解だから、怒んな。冷えびえとした声とか出して怒んな。
俺、滝が彼方と具体的にどうしてるかとかは別に興味ねえからっ。
「いや、違えんだよ…えぇと、その、だな。う〜…む〜」
俺はたっぷり時間をかけて、文章を練って、滝に聞きてえ事をちゃんと聞いてみようと、勇気を振り絞って正直に尋ねてみた。
「キスって、どこでしたらいいと思う? いつしたらいい?」
「……………えぇ〜…? それっておれに聞く事? 自分で考えなよ…」
「いやもう、俺ほんと分かんねえんだよ、滝…」
俺は、ここ最近ずっと自分に付き纏ってる悩みを、順番に喋っていく。
弥勒と遊びに行くたびに、キスしてえって思うのに出来ねえ。
弥勒とキスしてえけど、雰囲気とか、俺の都合とか考えてる間に、いつも何も出来ねえでいるっつー苦しみを順番に喋ってく。
グチグチとかなり愚痴っぽい感じだけど、俺も煮詰まってんだ、とにかく聞いてくれっつー感じで、ここんとこの事を滝に話す。
「何も出来ないって事は、まだ時期じゃないんじゃないの? 自分の都合が合わない間は待った方がいいとか」
「む〜、してえのは、我慢した方がいいっつー事か〜? 滝だったら待つのか?」
「おれだったら…おれは急ぐつもりないから、お互いが許される時期まで待って、自然な方がいいと思うけど?」
「許されるっていつだ〜? 結婚までダメか〜? う〜」
「落ち着きなよ、遥。別に急がなくても、弥勒は減ったりしないだろ?」
「だって…キスしてえ好きだって言われたのに、俺もそうなのに、キスしねえのおかしくね?」
弥勒はたしかにキスしてえの好きだって言って、俺も間違いなくキスしてえの好きなのに、キス出来ねえとか、すげえ辛いんだけど。
俺が辛えっつー事は、同じようにキス出来ねえ弥勒も辛えっつー事だぞ?
それはやだろ…なんとかしてえ案件だよ、それ。
「だから落ち着きなって。他人には目撃されたくないんでしょ?」
「……うん。俺、見せびらかす趣味はねえ」
「かと言って、2人きりになって、その先に進みそうな場所も困るんでしょ?」
「………うん。部屋とかは、弥勒に変な期待持たせちまいそうでやだ」
「だったらとにかく、その条件に当てはまる時以外は、無理しちゃよくないでしょ?」
「ムリ…?」
「遥がいいと思う条件でもないのに、それは明らかに遥が無理してやろうとしてるんだよ」
「俺、ムリしてるのか…? でも…そんな、俺の条件の合う事なんか…う〜」
ムリでもなんでもいいから、とにかく俺はこの辛え状態は抜け出してえんだよ。
頑張ってもキスが出来ねえんだぞ? ダメだろ?
良くねえ状態なら、ちょっとぐれえムリしてでも抜け出してえじゃん。
頑張って出来るならキスしてえだろ? 俺どうすりゃいい?
「いやだからさ、落ち着きなよ遥。つまりそれって、自分でOKって思える条件じゃないって事でしょ?」
「そう、なのか?」
「明らかにそうじゃない。おれも男だし分かるよ? かわいいって思うと色々想像するってのはある。でも無理はダメでしょ」
む。彼方をかわいく思って、滝も色々してえって考えることがあるのか?
ちょっと想像しにくいシチュエーションだな、それ。
その話聞いたらちょっと冷静になれたぞ。俺無理してるせいで困ってるのか??
「む。俺、ムリしてるのか?」
「してるでしょ。もし、おれだったら、それは相手に絶対させたくないね。まずOKだってお互いがならないのは嫌だ」
「なるほど、俺がOKじゃねえのか…」
ただ出来ねえだけじゃねえ、ちゃんと原因があって出来ねえだけで、原因さえ取り除けばキス出来るようになる、俺がムリしてる?
「そうだよ。条件は人によりけりだと思うけどさ、例えば弥勒が女性って立場だって考えてみて」
「弥勒が女子の立場? ふむ…」
「遥は高校生で、稼げるわけでもないのに、気軽にセックスを持ちかけていいと思う?」
「そりゃダメだ。責任持てねえ。相手がOKっつっても、ムリすんなだ…ぁ」
そうだよ、例え弥勒がOKでも、キスで子どもが出来るなら、気軽には絶対しねえ。
自分が稼げるようになる方が絶対先だよ。
俺はそうしてえっつー条件を、ただ満たしてねえだけっつー事なのか?
だからキス出来ねえだけで、条件さえ満たせばいいのか?
「そうだよ。相手だって、自分がいいと思えて、相手もいいと思う時じゃないと、絶対よくないって思うよ」
「そういう事か? 条件さえ合えばいいっつー事? 例えば稼げるまでムリせず時間かけるとか?」
「そうじゃないと、自分か相手のどっちかに、負担がかかると思う。違うかな?」
「だったら、さっき出た条件が、OKな場所行けっつーのが解決策か? でもそんな場所あるか?」
「探せばあるでしょ。雰囲気良くて他人のいない屋外くらい」
多少そこ行くまでに時間や費用はかかるかもしんねえけど、それも目標になるんじゃないかって、滝はそうアドバイスしてくれる。
「そこ行くために頑張るのか、いいなそれ。頑張る元気が出てきそうだ」
「遥が前向きになって何よりだよ。そういう時間こそ、付き合うには大切なんじゃない?」
「さんきゅ、滝。俺元気出たぞ。色々今後のために考えてみるよ」
「了解。それじゃおれ、彼方との通話に戻るね」
滝との通話を終了して俺はひと息入れる。そっか…俺のしてえ場所に行けばいいんだな。
してえだけじゃダメな時はそうするんだ。
自分のしてえ事が出来る条件を、ゲットするっつーのが大切なんだ。
もちろん弥勒がOKのための条件があるなら、それも満たそう。
自分がキス出来ねえ事に振り回されてたな、俺。
キス出来る場所探して、弥勒と遊び行こう。そんで弥勒とキスするんだ。
◆
ピコン─── Mrock「なんや慶太。この時間の通話て久しぶりやんけ。今日は彼方ええんけ?」
K.ta『いや、いい事聞いたから、せっかくだし弥勒に教えてあげようかと思ってね』
Mrock「ええ事?」
K.ta『遥の希望なんだけど、知りたくない?』
Mrock「遥の希望? 遥の事ならなんでも知りたいで。何ついての希望や?」
なんや久しぶりに慶太と通話をするな。
遥と付き合う前は、中学の頃の事とか、彼方通じて色々教えてもろたけど、今日はなんや?
「遥がキスしてもいいって場所の条件」
「頼む! めっちゃ知りたいそれ。頼む教えてくれ!」
「情報を教えるのはいいけど、こっちへの協力も欲しいな」
「なんや? オレ出来る限りの事は協力するで? どうせ彼方関係やろ?」
「去年に引き続き、今年も肝試し、頼める? 彼方が今からもう楽しみにしててさ」
「相変わらずおまえは手段選ばんなー。ホラー映画に引き続きか。ええけど、成功の約束はせんで?」
「それで十分だよ。こっちで作戦は練るから、協力だけでいいって」
「オレももし何か遥から聞いたら、慶太には絶対教えるわ」
「期待しないで待ってるよ。彼方は遥と違って、けっこう警戒心強いからね」
まあせやろな。
遥は琢磨が全力ガードしてたっちゅうても、全く女どもの暗躍知らんかったのに、彼方はほぼ理解してたらしいし。
聞くたびに女どもの悪辣さが分かって、オレちょっと女性不信に陥りそうなぐらいやし、それ肌で感じながら育ったと思えば当然か。
防犯ブザーは絶対手放さんし、一人で出かける事もほぼないぐらい、ストーカーとかも警戒しまくりって聞いてるしな…
遥と違て、自分がかわいく生まれたの分かってる分、それなりの苦労しとるヤツや。
遥はその分、のんびり育ったみたいやけどな。
「───なるほどな。他人のおらん雰囲気のええ屋外か」
「らしいよ。先に進むのはまだ怖いから、弥勒の部屋とかは躊躇するってさ」
「別にオレ、無理に押し倒したりせんのに、信用されてへんのやろか…」
「そういう問題じゃないんじゃない? 応えられないのに変に期待させたくないって言ってたよ」
「まあオレの部屋やと、雰囲気によっては、色々思てまうっちゅうのはあるか」
遥が想像せんでも、オレがするっちゅうのはあるし、さすがに部屋で1回でもキスしたら、次も絶対したなるっちゅうのは分かる。
でもそうか、遥、オレとキスしたいて考えてくれてるんか…嬉しいな〜。
これはオレも、気合い入れて考えて、キス出来そうな場所でデートせんとやっ!
「お互い大変だよね。相手にちゃんと合わせるっていうのもさ」
ヘッドセット越しに、慶太がちょっと苦笑の混じった声音で、そんな事を漏らした。
そっちも相変わらず苦戦してるみたいやな。
「まあな。おまえの方も相変わらずけ?」
「まあね。おれものんびりいかなきゃって覚悟はしてるけど、気持ちはどうしてもね」
「彼方は手強そうやもんな。なんか遥よりずっと手強そうな感じするわ」
「それでも、ようやく家に遊びに来てくれるようにはなったし」
「お? やっと慶太んち行ったんや? おばはんめっちゃ喜んでたやろ?」
「そりゃね。弥勒の言う通りだったよ。お母さんが一度お茶したいってのは、効果的だったね」
「せやろ? 異性の家行くっちゅうたら、やっぱ自分の身内見せるんが1番ええって」
そんでも、ほんまようやくやな。
家の前までは来ても、なかなか家に上がる事はなかったらしいし、やっと家に上げるん成功したか。
結婚を前提に付き合うてくれて、熱烈に口説いて付き合うて、何回もデート繰り返して、彼方の家でメシも何回か食うて、やっとや。
ここまで長かったやろ。よう頑張ったと思うわ、ほんま。
いや、慶太と彼方は、まだキスどころやないけど、そんでも偉いわ。
「ほんとでも、ようやくだ。それ以外は相変わらずだよ。平日はたいてい晩ごはんの時間までに帰るしさ」
「何か特別な機会がないと、平日は夕方までしか遊べんっちゅうのも、なかなか辛いよな」
「そうだね。女の子は仕方ないけど、旅行行ったりは出来ないし、羨ましくてしょうがないよ」
「オレもその分、機会があれば、何もなくても協力してるやんけ。遥がいっしょやと出やすいんやろ?」
「おれもそこは感謝してる。遥が男でほんと助かってるしさ。出来るだけ協力頼むね」
慶太とそれぞれのペースで、お互い上手くやって行こやて励まし合って、通話を切った。
ゆっくりでええ、オレも遥も無理せんペースで、ゆっくり、そんでじっくり、焦らんと互いの気持ちを育てていけたたらええ。
もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ




