夜デート
本日5話目です
明日からは通常の毎日更新です。
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
「ねえねえ遥くん、これおススメだからさ」
「ほんとおススメ、絶対一回観てみようよ」
「だから、あっち行けって言ってるだろ? おめえらのおススメなんか観るわけねえし」
せっかく伊東藤本とクラスが離れたっつーのに、麻生武藤の団子頭とくせ毛ヘアのコンビの猛攻にあってるっつーかわいそうな俺。
こいつら理系の成績で迷惑かけてこねえけど、趣味がオカルトとホラーっつー俺の嫌いなジャンルで、しかもおススメしてくる。
これはこれで、迷惑極まりねえコンビだよ。
彼方が聞き付けたら絶対やな事なるから、おめえら頼むからあっち行っててくれって。
ったく、他のジャンルの映画なら、こいつらのおすすめもけっこう趣味がいいんだけど………ホラーはやだ。
「むむむ? 麻生武藤、そのおススメ、かなタソに教えるよろし?」
「彼方ちゃん観てくれる? 呪餐 悪魔の宴。ホラーとサスペンスだよ」
「遥くんにも観させてよ! 呪餐 悪魔の宴。スリルとミステリーだね」
「うひょ。何やらよろしタイトルではなすか。はるタソ、いっしょ観るなりっ」
「だから、俺はその手のやつはやだっつってるだろ? 観ねえって」
「あ、それけっこうオモロいって評判の映画やんけ」
「彼方が観るなら、おれもいっしょにその映画は観たいな」
「そいでは4名様、かなタソ映画鑑賞会にご案内なり〜」
「待て彼方、4名様ってなんだ! なんで俺と弥勒が入ってんだよ!」
俺が必死で抵抗してるにも関わらず、弥勒のバカが助けてくれる事はなく、むしろちょっと乗り気で映画鑑賞会する事にしやがる。
開催日時は土曜の夜、場所が俺んちでメシ食ったあとじゃ、どうあっても逃げらんねえっつー状態だ。
くそ、麻生武藤を恨んでやる。
「たまには彼方に付き合ったれって、遥。な?」
「むー弥勒のバカ。おめえは敵だ。俺をホラーで攻撃するようなヤツとはケンカだっ」
「そう言うなって。こんな理由でもないと、彼方と慶太は夜遊べへんやろ?」
「むー…そうだけど。むー」
「たまには夜もいっしょ遊びたいっちゅうのは分かるやろ? 彼方と慶太と遥の3人がよかったけ?」
「……4人がいい。でも、むー…しょーがねえ、付き合ってやる。むー」
むーだけど、しょーがねえから付き合ってやんよ。
彼方だってたまには滝と、夜いっしょ遊びてえっつーのは理解するしな。むー…
「ケンカはナシでやで? な?」
「うん。むーだけど今回はオマケしといてやる」
彼方と滝だけで、弥勒がいねえのはもっとやだから、今回はケンカしねえでいる。
彼方は弥勒がいねえでも、ホラー観るヤツだしな。
土曜の夕方、弥勒が家くるまでは俺も彼方といっしょ出かけて、時間になったら帰ってくる。
いつものパターンだ。
「かなタソ帰ったなり、ただいま3なり〜」
「俺も帰った、たっだいまー」
「おかえり、彼方、遥。お喋り会はどうだった?」
「花水木の絵が美しきだったなり」
「たんぽぽと水仙の写真も見せてくれたぞ。きれいだったな」
「また母さまも遊びくるよろし言ってたなり」
「バザーするから手伝って欲しいってさ」
「あらそう? だったら今度は母さんも行こうかしら?」
「俺ちょっと掃除機だけかけとくから、部屋に掃除機持ってくぞ」
弥勒がくるまでにざっと部屋ん中を掃除機だけかけとく。
特別片付けるわけじゃねえけど、これは気分の問題っつーやつだな。
窓を開けて空気の入れ替えもしとくついでに、琢磨んちの方を眺めて見るけど、むー…やっぱ琢磨の部屋がどこか分かんねえな。
向こうから見ると分かりやすいって言ってたけど、こっちからだと分かりにくいらしいし、琢磨が俺の部屋見えるっつってから、もう何年もたつのにまだ見つけらんねえ。
ピンポーン───
見つからねえ琢磨んち諦めて、掃除機しまってると玄関のチャイムが鳴ったから、急いで玄関に向かう、弥勒と滝が並んで待ってた。
「タキいらっしゃいましっ。かなタソお部屋へどぞどぞなりっ」
「弥勒もいらっしゃいだ。お茶持ってくから、先に俺の部屋行ってて」
弥勒を先に俺の部屋へ行かせて、俺は冷蔵庫のお茶をコップに入れて持って2階に上がる。
ちょっとだけ弥勒をおもてなしだ。
「お待たせー。晩メシまでちょっとあるけど、何する?」
「せやな。もしよかったらやけど、こないだ言うてたFPSがやってみたいで」
「FPSか、いいぞ。PCゲーだし、ハマるとけっこう楽しいからな」
机の上のデケえPC起動して、ファンの回る音とともにお馴染みの液晶画面が点灯するなり、弥勒がビックリしたように言う。
「思てたより早いな。ついでにラップトップはやっぱ音がきれいや」
「スピーカー外付けだしな。早さは父さんの趣味だ」
「ふ。伊東藤本のためのフォルダがあるやんけ」
「む。作った問題捨てるの悔しいから、取ってあるんだよ」
手早くゲームを立ち上げて、弥勒に基本的な操作を教えてく。
ゲームパッド使っての操作だし、慣れればすぐに弥勒も楽しめるだろ。
ピコン─── K.anata『うひょ。初心者狩りしたす〜』
「K.anataてもしかしてこれ、彼方け?」
「その通りだ。あのヤロ、意地悪するつもりだな。無視だ無視」
「ええ? 返事はキーボードけ? ちょっと返したい」
HAL.Ca『初心者狩りはお断りやで。協力プレイやったらしたろ』
K.anata『むー少々揉んでやりたすだったなりが、仕方なすの〜』
「あ、向こうから招待きたじゃん。チーム戦だし試しにいっしょやってみるか?」
「おう。せっかくやし、一戦やってみるわ」
俺のアカウントは武器全種解放してあるから、弥勒に説明しながら好きな物選んでもらってみると、ふむ。サブマシンガンか。
「弥勒、その中だったら、これが初心者向けだな」
「これやな? オレ最前線やりたいし、あるなら近接武器も1個欲しいで」
「だったらこれとかどうだ? これはコンバットナイフだ。けっこう扱いやすいはずだぞ」
弥勒のメイン武器サブ武器、近接武器消耗品を選んで、彼方&滝と組んでいざ戦闘開始だ。
さぁ、向こうはどんな構成でくるかな?
滝と彼方の操作するキャラがいる部屋へ入ると……
あのヤロ火縄銃とか持ってやがる!っつー事は碌でもねえ事やるつもりだな?
「ちょっと待て! 弥勒、こりゃ罠だ!」
「は? 罠? なんの罠? どっかの強敵に当たったんけ?」
「違えよ。よく見ろ、味方の持ってる武器を! あいつら火縄銃選びやがった!」
「ちょ、なんで火縄銃? なんか聞くだけで弱そうやんけ!」
俺は慌ててヘッドセットを設定し直して、弥勒に聞こえる設定で味方…彼方と滝に通信を始める。
ピコン───『うひょひょ〜殺陣カーニバルするなりね〜』
『彼方てめえ、弥勒を勝たせねえつもりだな?』
『ええー? 人聞き悪いな、遥。これでも十分勝算がある装備だけど?』
『ちょ、分からん分からん。おまえらの会話が分からんて』
『大丈夫だよ、弥勒。勝算ある装備ではあるから、ただちょっとピーキーだけどね。さ、チーム勝利目指すよ』
騒いでる間にマッチングが終わって、攻略開始されてしまった。
しょーがねえから、出来るだけのアドバイスするしかねえな。
「弥勒、とにかくこの場からの離脱が最優先だ。出来るだけ彼方たちから離れるぞ!」
「お? おう。どっち向かえばええ?」
「ここからだと11時の方角だ。デケえ貯水タンクがそっちにあるから、走って向かうぞ」
「了解や。11時方向、目的地、貯水タンクやな?」
弥勒にまずは目的地を教えて、そこへ移動を開始してもらいながら、この戦闘を勝ち残るために気を付ける事を教えていく。
「弥勒そのまま移動しながら聞いてくれよ。今回のルールはチームの生き残り戦だ」
「おう。つまり、全滅した方が負けっちゅう事やな?」
「そういう事。んで、あいつらの選んだ武器っつーのが、火縄銃なんだが、ありゃ見てくれだけでな」
「火縄銃やし、やっぱ名前の通り、前時代的に弱いんけ?」
「逆だ。敵味方関係なくぶっ殺すジェノサイド武器なんだよあれは。使い方次第だけど強えのは確かだ」
「はぁ? つまり今は巻き込まれる地点からの脱出中っちゅうわけか?」
「そういう事だ。このフィールドだと、目的地の貯水タンクぐれえデケえ物の影じゃねえとダメだ」
「め、迷惑な武器選びくさってからに…ええやろ。頑張って生き残ったろやんけ」
『はるタソ〜まだなりか〜? そろそろ発射したす〜』
『こら、彼方。おまえらオレ初心者やのに無茶苦茶やで。あとで覚えとけよ?』
『よし、そこの建物の壁の下の方にあるトタン板引っぺがして隠れるぞ』
『了解や、ここ隠れたら…』
『むむ? おとと、手が滑ったなり〜』
『彼方てめ! 弥勒バカ、通信で彼方に動きがバレ…っ』
ちゅどーーーんっ!
まだこっちが隠れ終わってねえっつーのに、あのヤロ、ぶっ放しやがったな!
うわわわ。 爆風で紙クズみてえに吹っ飛んだぞ。
「あかんあかん! この赤いのライフゲージやろ!? 死ぬ死ぬ死ぬっ!!」
「まだ間に合う。トタン板がいっしょだし、それ捕まえて被ればなんとか!」
ちゅどちゅどーーーんっ‼︎
「あのヤロー連発しやがった! それてめえも自爆じゃんっ! チキショー!!」
「ええ? 敵味方区別なくて、そういう意味?」
俺と弥勒のキャラがくたばった後、すぐ画面中央にLOSEの文字が出て、今回の負けが確定した。
やっぱ勝たせる気ゼロじゃん!
『むひょー。残念無念、敗者なってしまったなり〜』
『敗因は迂闊な通信入れた弥勒のせいだねー』
『おまえらムカつくっ! ちょも一回や! も一回すんで‼︎』
そこからしばらく、俺と弥勒が奮闘するも、悉くやつらに邪魔されて、結局メシの時間まで、俺らのチームは1勝も出来なかった。
「ゲーム楽しかったねー彼方っ」
「うむり。面白すだったなりのータキっ」
「おまえらのせいでオレら全然勝てへんかったやんけ」
「そうだそうだ。なんで味方を全滅させる作戦立てるんだよっ」
「ふふふ。4人でずいぶんと楽しい事してたのね」
「いいなー、もうちょっと早く帰れれば父さんも入ったのに」
「ジジイが入ったら余計負けるじゃん。いつもすげえ下手くそなのに」
「靴下臭すも犠牲者なりたすだったなりか? かなタソにヘッドショットされたす?」
「滝くん弥勒くん! うちの子たちが酷いよっ! なんとか言ってくれないか?」
「彼方、ちゃんとお父さんって呼んであげようよ。ね?」
「遥も、おとんにもうちょい優しいしたれや」
6人でメシ食うのは何回かしてるけど、父さんは相変わらず、何かっつーとヘナチョコに懐いてきて、ほんとみっともねえよ。
母さんは母さんで、隙みちゃ滝と弥勒にビール勧めるしさ…
いや、2人とも今日は歩きだけど、大人としてそれはどうなんだよ?
「滝くんも弥勒くんも、せっかくだからビール飲みましょ」
「だから高校生にビール勧めんじゃねえっての! ババアっ!」
「わぁ、お母さんいいんですか? ありがとうございます」
「いつもありがとうな、遥のおかん。いただきます」
「むひょ。かなタソもおビールいただくなり〜」
「いやあ、家族が増えたみたいで、ほんと楽しいねー。そうだ、みんなで写真撮ろうか」
「もーまた写真かよー。ビール飲んでる証拠写真とか、ほんとに撮る気か? むー」
「はるタソ、お写真はいつもの事なりよ、気にするなす」
母さんの作ったメシを6人でいっぱい食ったら、キッチリ後片付けをやってから、リビングで集まっての映画鑑賞会開催だ…
「む。何故ここに靴下臭すがおるなりか?」
「こらこら、彼方。お父さんだけ仲間ハズレはよくないって。ね?」
「そうだそうだ。彼方これはみんなで観るもんだろ? 父さんもいっしょ観せるんだっ」
「遥のおかんはこういうの全然平気なん? 意外と強いな」
「うふふ。我が家で苦手なのは、うちの人と遥の方なのよ。女って強いものよ」
「遥、頑張るんだぞ。父さんも頑張って観るからな?」
始まった映画はもう、初っ端から映像が怖え…音楽もヤベえ…うー我慢だ俺…ここで一人だけ逃げるっつーわけには…うー…
パチン───
「わぁっ! な、何すんだ⁈ 誰だ電気消したのはっ⁈」
「やあねえ、驚きすぎよ、遥。母さんこっちの方がいいんだもの」
母さんのバカ…急に電気消したら、誰だってビックリするに決まってるっつーのに!
むー余計怖え…何か出そうな雰囲気が余計…
み、弥勒どこだ…? 横いるな? ちゃんと横いろよ? 絶対どっか行くなよ?
うー怖え… だ、大丈夫、画面から出てこねえし。
ぎゅぎゃぎゅぎゃぎゅいぃいいぃーーーっ!
「ぎゃあぁああっ! び、ビックリした…ビックリし、した……」
「遥、大丈夫け? まだ前半やで?」
も、もう、何かあるたび怖え…登場人物が笑うのすら怖え…
こっち見んなもー怖えから、この女優の顔怖え…もゃだ…怖え…う〜…
「わっ!」
「「わぁああああーーっ‼︎」」
「か、彼方てめ…っ、急にデケえ声出すんじゃねえっ! バカやろ!」
「ビックリしたー、ビックリしたよー。か、彼方は父さんの心臓壊す気かい?」
「くすくすくすくす。あなたってばもう、驚き過ぎなのよ。彼方のやりそうな事じゃない」
「大丈夫け? 遥もしっかりせえよ?」
「う〜…弥勒。もゃだ…俺ゃだ〜…う〜…」
「うひょ。タキ、かなタソ大成功だったなり〜」
「すごいね彼方。今のはタイミングバッチリだったよ」
半泣きの俺と父さんをおちょくりながら、彼方はホラー映画を観て楽しんでやがる…
くそぅ…彼方のデートのために頑張ってるのに。
と、こっそり弥勒が、俺が余りにも怖がるせいか、手を繋いでくれた。
…よかった、弥勒の手で、ちょっと怖えのマシんなった。
えへ…弥勒と手ぇ繋ぐの、嬉しいぞ。
なんか、ちょっと勇気が湧いてきそう…な、気が、する…だけかも…う〜やっぱ怖え…う〜
ラストシーンで主人公が呪い殺されて、むしろちょっと安心したぞ、俺。
…これでもう誰も死ぬことねえ…よかった…やっと終わる…
そして呪餐は、あなたのもとへ ─── 届く…
「ちょちょっと待て。最後なんだ? 最後すげえ怖えっ! ダメだ俺、今日絶対寝れねえこれっ!」
「大丈夫や。おまえの部屋に何も来たりせんから、どうもないって」
「うひょー。よろし最後だったなりのータキ」
「ホラー映画と言えば、このあと味の悪さが醍醐味だよね」
「かかか母さん、窓の鍵はかかってるかな? なななんだか急に心配に…」
「あら、心配なら、ちょっと見に行ってきてくださいな、あなた」
へっぴり腰で窓の鍵の確認させられてる父さんと、涙目の俺に、楽しげな彼方と母さんと滝と、平気な顔の弥勒…くそぅ…う〜
ほんと酷え目に遭った…ホラー映画とか大嫌いだよ…むーっ。
もう当分、滝と彼方の夜デートの協力なんかやってやんねえからなっ。
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