入試休み
本日2話目です
今日は入試があるから学校休みだし、英会話の日でもねえから弥勒といっぱい遊べるな。
ピンポーン───…
「おう。いらっしゃいやで」
「えへへ。弥勒、今日はいい物持ってきたぞ。じゃーん」
「お? コーヒー豆け? ええな、豆挽いてコーヒー淹れよか」
弥勒んち行く前に、遠回りして買ってきたコーヒー豆を、2人で挽いてコーヒー淹れてみる。
コーヒーミルでカリカリやってると、ふわっと漂ってくるこの香りがたまんねえ。
「せやろ? 豆挽くのも、コーヒー淹れる時の楽しみの一つやしな」
「ほんと、コーヒー苦くて飲めねえっつーヤツは、これが楽しめねえって思うと、損してるよな?」
「せやな。紙パックのドリップも手軽でええけど、じっくり楽しむなら豆は挽かんと」
2人でゆっくりコーヒーを楽しむ素敵な時間。
俺んちではコーヒー好きなのは俺だけだし、弥勒がいっしょに楽しんでくれるのは嬉しいぞ。
「遥のおとんもおかんも、コーヒーは飲まへんのけ?」
「うん。彼方が好きなのは紅茶だし、父さん母さんはほうじ茶が好きなんだ」
「お茶も悪ないけど、オレはコーヒーのこの、豆挽いて淹れるっちゅう充実した時間には勝てへんって思うけどなー」
「俺もそう思う。コーヒーって手軽にもじっくりでも楽しめるから、すげえ素敵なのにな?」
「琢磨もコーヒーはイマイチやって言うてたもんな?」
「イマイチじゃねえぞ。琢磨はお子さまだから、コーヒー苦くて飲めねえヤツだ」
「こんなうまい物飲めへんとは、勿体ない話や。琢磨の分までオレらでいっぱい楽しまんとな?」
弥勒とは、メシの趣味がなかなかに一致するっつーのが嬉しい。
そりゃ細部はやっぱ違うけど、大まかな趣味がよく合う。
「弥勒は嫌いな食い物ってねえのか?」
「そらあるで。まず原色甘々なクッキーは嫌いやろ? それからデカいペロペロキャンディも苦手やな」
「俺もそれはどっちも苦手だ。俺が好きそうな食い物ではねえのか?」
「うーん…あ、1個だけある。漬物で奈良漬ってあるやろ? あれはどうもうまいて思えへんわ」
「漬物の中でも奈良漬だけダメなのか?」
「おう。他のは大抵大丈夫なんやけど、奈良漬だけはイマイチ得意やない」
「好きな人もいるけど、弥勒は苦手なのか。俺は特に奈良漬は苦手じゃねえけど」
「遥は何か苦手な食い物あるけ? 甘い物以外で」
「甘い物以外でなー。基本的には調理の仕方次第だって思うけど、あれはあんまかも。パクチー」
母さんがトムヤムクン作ると入ってるけど、俺はあの香草がどうにも好きになれねえ。匂いが強すぎる気がするんだ。
初めて食った時に比べたら、これでもずいぶん慣れてきたけど、自分から食いてえとは思えねえ食い物だ。
「ああ、あれは匂いがかなりきついからな。好き嫌いが人によって分かれるのは分かるわ」
「慣れればうめえって食えるのかもだけど、どうも苦手で、家で出てもあんま食わねえ」
「そうか。オレもパクチーは特に好きってわけちゃうし、遥も別に無理して食わんでええやろ」
良かった。弥勒が好きなら、ちょっとぐれえ我慢が必要だけど、弥勒も特に好きっつーわけじゃねえなら、無理して食いたくねえし。
「つか、弥勒は俺が甘い物あんま得意じゃねえの、気がついてたのか」
「気づいて普通やろ。普段遥って、自分から食いたがったりせんし、食うてもほんのちょっとやしな」
「うん。実はあんま甘い物は得意じゃねえ。でも、得意じゃねえだけで、嫌いっつーわけじゃねえんだぞ?」
「それも知ってる。普通に甘いジュースとか飲むし、時々はケーキも食うしな」
「えへへ。それでもバレてたのか。俺が甘い物得意じゃねえのはあんまバレた事ねえんだけど」
「でも琢磨とかは知ってるんちゃうんけ?」
「どうだろ? ちっせえ頃は普通に甘いおやつ食ってたから、気づいてねえかもしんねえ」
「そうなんや?」
「琢磨には甘いの苦手だろって言われた事ねえし、たぶん気づいてねえと思うぞ?」
「そんな事ないと思うけどなー。琢磨って人の事よう見てそうやし」
「たしかに、琢磨は人の事よく見てるな。よく見てねえと、あんな的確に人の嫌がる事言えねえだろうし」
「ほんまアイツは人の嫌がる事言うん上手やもんな〜」
弥勒はちょっとむーってしながら、熊殺しとか悪役って言われるのはやだって言うけど、あれでもマシな方なんだぞ?
「弥勒なんかまだマシだぞ? 足が太いの気にしてる女子に『よ、象足っ♪』とか言うんだから」
あれさえなきゃきっと琢磨はモテモテなんだろうけど、思いついたら言わずにいられねえヤツだから、しょーがねえんだけどな。
「そら酷い。女に向かって象足は酷いで。言われたら泣くやろ、それ」
「うん。言われた女子泣いてた。そうやって泣かせた女子は数知れずだからな。酷い時はビンタ食らったりしてたし」
「泣かせた女は数知れずっちゅうたら、なんかプレイボーイみたいやのに、意味は逆なんや?」
「そだぞ。俺も数学野郎だとか、天パだとか、色々言われた」
「えー、このクリクリの髪かわいいのになー」
「えー? この髪かわいいか?」
「かわいくて、遥によう似合ってるで。オレんち泊まった時とか、ここくるんてしてるのがええ」
「あー、ここな。ここはよく寝癖でハネるとこなんだけど」
「寝癖もたまにやったらかわいい。外で寝癖は見られへんから、貴重やし」
「外で寝癖なヤツはだらしねえヤツだろ」
「だから貴重やし、オレの気に入りなんや。あんま知ってるヤツがおらんっちゅうのがええ」
「でも天パって、髪伸びたら頭膨らむから、あんま嬉しくねえぞ?」
「彼方とか髪長いやんけ」
「彼方ぐれえ長えとくくれるけど、中途半端な長さだと、ぼわんって膨らむんだ」
「だからいつも、髪の毛はマメに切ってるんや?」
「うん。爆発した髪でいたくねえからな。弥勒は髪普通だから、そんな苦労なさそうだよな?」
「オレは慶太ほど真っ直ぐやないけど、まあまあ普通やしな」
「滝はすげえ真っ直ぐだよな。髪長えから手入れ大変そうだけどさ」
「アイツは人に髪触られんのが嫌いらしいから、しゃーない」
「む? 伸ばすのが好きなんじゃねえのか?」
「おう。散髪が嫌いやし、あんま切らんでええように、仕方なく伸ばしてるみたいや」
「仕方なくって見えねえぐれえきれいな髪だけど、そうだったのか」
「他人に髪触られると、ゾワゾワするって言うてたからな」
「ゾワゾワかー…俺は頭撫でられるのしょっちゅうだし、全然気になんねえけど、そういうヤツもいるんだな」
「遥の頭はオレにいっぱい撫でられてるもんなー」
「あ、撫でられてる」
「遥の頭は隙見て撫でんとやし」
俺、弥勒に頭撫でられて、ゾワゾワなるヤツじゃなくて良かった。
だって、弥勒に頭撫でられるのはこんなに嬉しいから、今さらこれがねえとか考えらんねえしなっ。
滝は頭撫でがダメでかわいそうなヤツっ。彼方、頭撫でるのけっこう好きなヤツなのにさ。
午前中ゆったりコーヒーでくつろいだら、昼メシは何作ろうかって弥勒と相談するぞ。
せっかくパタゴニアの料理教えてもらったからっつって、今日はウィルジニーに習った、エンパナーダを復習しようかってなった。
甘くねえパイやビスケット生地の中に、しっかり味付けしたおかずを入れて、包んで焼くんだ。
食べる時は手づかみで豪快に食えるし、向こうじゃこれがすげえうまかったからなっ!
「ラッキーやな。ムール貝のうまそうなんが売ってて」
「うん。わざわざデケえスーパーまで行った甲斐があったな」
「近くのちっさいスーパーには、ビスケット生地売ってへんて思うと、向こうじゃ材料の手に入りやすさが違うわ」
「だな。向こうじゃ売ってるのが普通な物でも、こっちじゃ手に入りにくい物いっぱいだ」
「逆もあるけど。味噌醤油は向こうじゃ手に入れにくいしな」
「味噌も醤油も、向こうじゃデケえスーパーでも、種類がちょびっとだったもんな」
「パタゴニアに行って、遥の食もワールドワイドに広がったな」
「ふふふ。明彦もウィルジニーも、メシうめえって言ってくれたから、もっと腕上げたくなったんだ〜」
うちの母さんと違って、気軽に台所使わせてくれたの、俺すげえ嬉しかったから、次2人にメシ作る時もいっぱい頑張ろうって思ったしな。
「遥がうちのクソ親どもを気に入ってくれたん、オレも嬉しいで」
「ん? 弥勒の親が俺を気に入るんじゃなくて、俺が気に入るのが嬉しいのか?」
「おう。どっちか片方だけでは仲良くするんが難しいやんけ。クソな親でも仲良くはして欲しいし」
「それもそだな。俺、弥勒の父さん母さんは好きだぞ。いっぱい仲良くしてえ」
「だから、遥も自分のおとんやからって厳ししすぎんと、オレと仲良うしようとしてるん邪魔ばっかすんなよ?」
「むー…そりゃ難しいぞ? 父さんの数学話は俺、いつもウンザリしてるからなー」
「オレにはああいう話、新鮮やし、あんま邪険にしたるなって」
「むー、しょーがねえ。もうちょっとだけなら、父さんの数学話も許してやろう」
弥勒と食うメシはいつでもうまっ。ビスケット生地がちょっと上手く包めてねえけど、それでもうまっ。
これもいつか上手に出来るように、いっぱい練習して、いっぱい弥勒とうめえ物食いてえっ。
「せやな。うまい物いっぱい、時々手抜き、たまには失敗したヤツも、遥とはいっぱいメシ食いたいわ」
「失敗はしたくねえけど、するだろうなー」
「お好み焼きグチャってなったり、牡蠣フライで中身弾けて、行方不明になったりな」
「むー。その2つは我が料理道の汚点だ。これ以上増やさねえよう、頑張る」
「ほな、今度昼メシ食う機会があれば、ホットケーキに挑戦してみるのもええな」
「む。ホットケーキも裏返すヤツだもんな? 次はグチャってなんねえようにするぞ」
「果たして遥に出来るかなー? ホットケーキもグチャってなったりして。ぷぷ」
「むーっ! そこは俺が上手く出来るように祈るとこだろ」
今度、甘くねえおかず系ホットケーキを焼いてみようって、具材は何がいいかって、2人で相談してく。
ツナもいいけどベーコンエッグもいいとか、明太子使って和風にしてみるのはどうかとか、チーズやジャガイモでガッツリ食うとか。
ホットケーキっつっても、合わせる具材によって、味が色々楽しめそうだなって。
「そだ弥勒。今度ちょっと買い物付き合って欲しいんだけど、かまわねえか?」
「かまへんで。どこ行くとか決めてるんけ?」
「一応は決めてる。俺、バレンタインにチョコもらっただろ? お返し買いに行かねえとなんだ」
「わざわざお返し買って返事するんけ?」
「うん。勇気出してチョコくれたのに、無視は出来ねえからな」
「っちゅうか、何組のヤツなんや」
「1年7組らしい。彼方が調べてくれたから、ようやく分かった」
「ああ、彼方て意外と女友だち多いもんな。年下やったんか」
「うん。気持ちを受け取れねえ時は、チョコがいいらしいから、チョコ買って返そうと思ってるんだ」
「へえ、気持ちが受け取れへん時はチョコ返すんや?」
「チョコをもらって、同じチョコを返す事で、気持ちは受け取れねえってするんだって」
「なるほどなー。お返しの物によって、意味が決まってるとは、なんか女子っぽいイベントやなー」
「弥勒はけっきょくお返ししねえのか?」
「返事はちゃんとしたから、それだけでええかと思てたわ」
「む? ホワイトデー待たねえで返事したのか?」
「おう。1ヶ月待たすんもあれかと思て、次の日にサクッと断ったで」
「そっか。次の日ならタイミングは悪くねえけど、俺が送り主知ったのって、昨日だったからな」
「日にちたってる場合はホワイトデーまで待たせた方が、中途半端にならへんから、ええかもしれんな」
「うん。待たせて期待させたって泣かれたりしねえか、ちょっとドキドキするけどな」
「大丈夫やろ。学年もクラスも書いてへんかったんやし、返事にそんな期待してへんと思うで?」
「だったらいいけどさ。女子の泣くツボってどこにあるのか分かんねえから、怖えんだよ」
「そうなんけ? 意味分からんことで泣かせたりした事があるとか?」
「あるぞ。落とし物だぞって声かけたら、いきなり泣かれた事があったしな」
「泣くような落とし物て………一体何拾ってん?」
「女子がよく持ってそうなポーチだった。ひったくるみてえにされて、泣きながら逃げられて、ショックだったんだぞ?」
落とし物だぞって声かけたら振り返った女子が、ひったくるみてえにポーチ取って、真っ赤になったと思ったら泣いて逃げてった。
俺、意味分かんねえで、あん時はポカーンだったからなー。一体何が悪かったのやら。
「あー… それ、あれとちゃうけ? 生理用品やったとか」
「む。そりゃ女子にしたら、男子に拾われたら泣くほど恥ずかしいな」
「でも、生理用品やったら、遥が拾って良かったと思うけど」
「良くねえ。そいつ泣いて逃げてったんだぞ?」
「拾ったんが琢磨やった時の惨事を考えると、被害が少なかったと思うけどな」
「………たしかに。琢磨に拾われてたら、しばらく学校来られねえようになってたかもだ」
「やろ? その女にとっては不幸中の幸いやったんやって」
「だな。琢磨だったらポーチの中身見られてたかもしんねえし、俺で良かったと思う事にする」
もし琢磨が拾ってたら中身見るだけじゃなくて、そのあとしばらくは『やぁ、今日は落とし物してねえか?』ぐれえ言いそうだしな。
あいつはどうも、そのあたりのデリカシーがねえっつーか、隙見ちゃ女子に意地悪言わずにはいられねえヤツだからな。
弥勒の事も、ヒールとか凶悪関西弁とかゴリラとか撲殺ブルーとか、酷え事ばっか言ってるし。
「オレの事はほんま、名前でちゃんと呼べやっちゅうぐらい、適当なあだ名で呼びよるよな?」
「悪いヤツじゃねえんだけど、思いついたら言わずにいられねえみてえだし、大目にみてやってくれよ」
「まあ、ちょっとはムカつくけど、悪いヤツやないんは知ってるし、大目にみとくわ」
「そか。弥勒が心広くて良かったぞ」
弥勒とメシ食いながら、いっぱい話す。デケえ事もちっせえ事も、色々いっぱい。
弥勒とメシ食うたびに、話すたびに、俺は弥勒を好きになって良かったって思うな。弥勒、大好きだ。
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