誕プレ
本日3話目です
「うーん…朝か。えへ。17歳の俺、誕生だな」
本日、俺は彼方といっしょに一つ年を取った。
17歳の俺、いい事がいっぱいありますように!そう願ってカーテンを開ける。
「はよー、母さん。あれ、父さんは?」
「今日は早く帰るから、父さん出るの早いって言ったでしょ」
「あの靴下臭すはテンション上げ過ぎなりよ。母さま、かなタソ大盛りなり」
俺の朝メシはわりと母さんの趣味で米が多いけど、コーヒーは欠かせないっつー謎仕様だ。
ま、トースト1枚だと足りねえけど。
朝から味噌汁、焼き魚、おひたし、だし巻き玉子をどんぶりメシで食わねえと、男子高校生は4限目終了まで腹が保たねえしな。
「あ、母さんが漬けたらっきょ、まだあったっけ?」
「酢漬けはこの前のカレーで品切れよ。塩漬けならちょこっと残ってるけど、今食べるの?」
「むー彼方が食ったんだろー。弥勒んち持ってこうと思ったのにー」
「ぷい。あれは我が家のらっきょなり。他所持ってくなす」
去年母さんが漬けたらっきょは、チャレンジメニューの中でも好評で、すげえうめえから弥勒にも食わせたかったのに…
「来月になったらまた漬けるから、2人ともケンカしないのっ。それよりこっち食べない?」
「だから、そのピクルスはいらねえってば! 父さん担当だ!」
「かなタソ髪の毛かわゆすせねばっ! さささっ」
しょーがねえから、心優しい俺は、妙に甘辛いピクルスを、1個だけ食ってやるけど、彼方はその間にさっさと洗面所に逃げてる。
この手の出来上がりが想像しにくい物は、ほんと失敗しやすいみてえで、母さんはこれで5回目の敗退中だ。
もう懲りろよ…
「うー…母さん、不味い……酸っぺえ上に砂糖甘えピリ辛っつーのは酷えからっ」
「文句ばっかり言わないの。これもだんだん美味しくなってきたでしょ?」
「ならねえって。せめて唐辛子か砂糖のどっちかがマシならともかく、両方はムリだ。不味いっ」
「母さん、だんだんコツが分かってきたから、次こそ絶対美味しく出来るわ。楽しみねー」
ほんと失敗に懲りねえ母さんだ。
俺もらっきょうみてえにうめえのなら文句言わねえのに、1回漬けると何日もあるから、もー…
俺が文句言いながらメシかっこんでたら、髪ちゃんとした彼方が、洗面所から出てくるから、さっさと洗面所使ってヒゲ剃る。
白いから目立たねえけど、俺も男だから、ちゃんとヒゲとかすね毛は生えてるんだぞ。
俺、胸毛はねえけど………むー、もうちょっと筋肉欲しいかも?
「はるタソ、お時間なりが、ご用意すんだなりか?」
「彼方もうちょい待て。ここ直んねえっ」
今日は2人だから、わりと余裕あるけど、これに父さんの出る時間が重なると、いつも洗面所争奪戦で戦争みてえな状態になる。
たいてい敗戦国は父さんだけど、時々は父さんが優先の時もある。
そういう時はたいてい、母さんからのおふれが出るけど。
歯磨きしてヒゲ剃って顔洗って寝癖直したら、上着着てカバン持って彼方といっしょに玄関へ向かう。
「遥、これ持って行きなさい。塩漬けの方、弥勒くんにどうぞって」
「さんきゅ、母さん。弥勒、絶対喜ぶよ」
「むー母さま分けるなす。ミロクは市販品で十分なりっ」
母さんからもらった、瓶詰めの塩漬けらっきょもカバンに入れて、靴履いたら、学校向かって出発だ。17歳の俺、出動するぞ!
「はよー弥勒。今日はいい物やろう。母さん成功のらっきょだぞっ」
「お? らっきょうか、ほなカレーせんとな」
「彼方のお母さんって、らっきょう漬けたりもするんだ?」
「うむり。美味すだったのに、取られたなり〜」
「彼方は家でピクルスでも食っとけばいいじゃんっ」
「嫌なり〜。あのような不味し物、かなタソ食いたくなすっ」
「遥のおかん、ピクルスは失敗やったんや?」
「ヤベえ味だぞ。酸っぱくて砂糖甘え上に、唐辛子の辛さがケンカすんだからな」
「しかも瓶いっぱいあるなり。かなタソにあれは始末出来なす」
「彼方、挑戦には失敗も付き物なんじゃないかな?」
4人で喋りながら、校舎内を巡っていく。
今日は全校上げての健康診断? 身体測定? ついでに体力測定もか、そんな行事だ。
ジャージに着替えて、俺らはまずは身長と体重から測っていこうかっつー事にする。
各生徒が空いてるとこを回るっつー仕組みだし。
「む。178か、2センチ伸びたなっ」
「むむ。かなタソ153センチなり。少々の成長ね」
「慶太188か。もっとチビやと思ってたわ」
「さすがにもうあんまり伸びないけどね。弥勒もでしょ?」
「オレまた伸びた196やったしな」
「えー、弥勒はもう伸びんなよー。俺との差を縮めてこうぜっ」
「体重ならともかく、身長に向かってそんな事言うなや」
体重の方は、俺68kg、弥勒85kg、滝77kgで、彼方は極秘情報故、秘匿するらしい。
やっぱ部活やめたし体重増えてねえ。
もうちょっと筋肉が欲しいとこだし、まだ身長も欲しいから、ちょっと運動しねえとな。
身体も鈍ってるだろうし、ちょっと朝走ってみよ。
「お? 遥も朝走るんけ?」
「もっつー事は、弥勒は朝走ってんのか?」
「まあちょっとだけな。やっぱ鈍るん嫌やし、ちょっとはやらんとや」
「おれはジム通ってるよ。そんなにいっぱいじゃないけどね」
垂直跳び、懸垂、握力、上体起こし、前屈、遠投、肺活量、聴力、視力…相変わらず俺と彼方の視力はあんま良くねえけど他はOK。
内科的疾患も特になんもねえ、いたって健康的な状態だ。
つか、これで病気とか見つかる事って、やっぱほんとにあるのか?
「そりゃあ、やっぱりいると思うよ。問題ないって思ってるけど病気だったって子も」
「視力なんかは、意識してんと落ちたん気づかん事ありそうやな」
「なるほど。俺、視力は意識してるから、落ちたらすぐに気づくけど、普通はそうか」
「かなタソ達、元々お目々よろしなすからの。タキお目々よろし羨ましす」
「おれは1.0だし普通にいいけど、弥勒は視力1.2ってよすぎじゃない?」
「1.2…すげえ。俺には想像出来ねえ視界だろうなー」
「うむり。かなタソにそのような視力あれば、もはや白い死神シモ・ヘイヘなりよ」
「シモ・ヘイヘて…おまえはどこを目指してんねん?」
「ヤツはムーミン谷のゴルゴ妖精だし、彼方が目指すにはピッタリじゃん?」
「彼方の狙いは正確だけど、シモ・ヘイヘがこんなにかわいくはないと、おれは思うね」
彼方の好きなゲームはFPSだから、シモ・ヘイヘに憧れるのもムリねえな。
さすがにロシア兵4000人撃破っつーのはムリっぽいけど、普通に腕のいいスナイパーだし、彼方と組むと勝率が上がるんだよ。
ちなみに滝はアサルトライフル持って、スナイパー彼方を守ったり援護する立場でやってるけど、俺ならショットガンがいいぞ。
「へえ、FPSな。それオモロいんけ?」
「チーム戦とかはそれなりにな。俺はそんなだけど、彼方は滝としょっちゅうやってるぞ」
「遥は弥勒と家で遊ぶけど、おれと彼方が夜遊ぶなら、こういう風になるよね」
「うむり。タキ紳士なりから、夜かなタソ通信遊ぶするなり」
ひと通り測定が終わったから、一旦弥勒んちに遊びに行くぞ。
今日は平日だけど家で晩メシ食わねえと、誕プレもらえねえからな。
前日でもいいだろっつー俺と彼方の抗議を無視して、父さんと母さんが当日に渡すって聞かねえから…むー、姑息な手段取りやがって…
普段は俺、平日の夕方は弥勒に料理習ってるから、弥勒といっしょに晩メシ食うのが通常なのに、今日は家帰って晩メシ食わねえと。
「お邪魔しまーす」
「おう。コーヒー飲むけ?」
「飲む飲む。いっしょ淹れようぜ」
「いや、遥は部屋行って先座っとけや。オレが淹れるから」
「ん? そか? だったら先部屋行ってるな」
弥勒んちの二間続きの奥の部屋は、弥勒の寝室で、平日晩メシ食うだけの時はあんまここ入んねえけど、今日はこっちで遊ぶのか?
「お待たせー、ケーキも持ってきたで」
「おぉう。ケーキか! そか。誕生日だしな」
「警戒せんでええ。そんな甘ないはずやし、食うてみ?」
「うん。すげえいちごいっぱいだなー…んっ! うめえっ!」
ひと口食ってみてビックリ。全然甘過ぎねえ、これは…ヨーグルトのムースが下に敷いてあるのか?
すげえさっぱりして、うま!
これなら家でケーキが待ってても、心配しねえで食えるぞ!
うめえ! すげえっ!
え? この辺にこんなうめえケーキって売ってたっけ?
「オレが作ったんや」
「マジ? すっげえうめえぞ弥勒 マジうめえ」
「せやろ? 果物たっぷりで砂糖かなり控えてあるからな」
「俺、甘えのそんな得意じゃねえけど、これはうめえっ! 弥勒すげえ、これ超絶好みの味だっ」
「そうみたいやな。おまえ砂糖系の甘さは得意やないみたいやし、これにしてん」
「すげえ嬉しいぞ、弥勒。よくこんなうめえの作れたよな。うまっ!」
俺がクリスマスに作った甘々ケーキと全然違え、すげえさっぱりなちょうどいい甘さの、いちごたっぷりな手作り誕生日ケーキっ!
「今までいっしょに食うてきた物を参考にしてみたんや。それとこれ、やる」
「ん! 誕プレか!? わーいっ。開けるぞ、弥勒」
まずは弥勒らしい力強い文字で書かれた“17歳 誕生日おめでとう 遥”のバースデーカードっ!
ヤベえ! 手書きのカードだ、嬉しいぞ! これも絶対大事に取っておこう。
クリスマスカードのデザインのカッコ良さとは違う、弥勒らしい手書きのカード。
俺、これ宝物にしようっと。
弥勒が頑張って書いてくれた、俺だけのための誕生日カードだ。
すげえ嬉しい。嬉しいぞ弥勒。
「おまえみたいに、めっちゃきれいっちゅうカードには出来んかったけど、精一杯頑張って書いたし受け取ってくれ」
「うん。ありがとな弥勒。弥勒の気持ちがいっぱいのカードだこれ。ノートの字よりすげえ上手じゃんっ」
「ちょっとずつ練習して、来年も再来年もずっと贈るから、上手になってくでオレ」
「うは。そりゃ楽しみだな! 俺も負けねえように、絶対カッコいいカード考えてやんよ」
プレゼントの包装紙を剥がしてみたら、ちっせえ箱の中身は、なんと男物のネックレスだ。
カッコいい、これ。シブい。イケてる。
「すげえ…カッコいい。超カッコいいぞ、これ! 今着けてもいいか?」
「おう。着けてみてくれ。それ絶対おまえに似合うから」
シンプルなプレートのデザインがカッコいいネックレスを着けてみると、なんか一気に自分がオシャレになった気がするな。むふっ。
「えへ。弥勒、これ似合うか?」
「めっちゃ似合う。思た通りめちゃくちゃカッコええで」
「さんきゅな、弥勒。すげえカッコいいぞ、これ。うわ…ずっと着けててえ」
「そんぐらいなら、着けてても怒られんと思うで。目立たんし」
「かな? ピアスとかじゃねえし、没収されたりしねえか」
「てか、出来るだけ着けててくれ。身に着ける物でそれ選んだんやし…実はお揃いや」
弥勒がシャツのボタン外すと、なんか似てるけど、ちょっと違えデザインの、こっちのもすげえカッコいいネックレスが光ってる。
「えぁ? ……でもちょっと違えぞ? 似てるけど?」
「全く同じっちゅうのやと、オレと遥、両方に似合うデザインがなくてな。同じメーカーので探してん」
「そっか〜…2個も買ったら、すげえ高かったんじゃねえのか?」
「そこはやりくりしたで。予算決めて、その中から探したから、高い物やないけど」
「高えのじゃねえっつーのが嬉しいぞ、弥勒。俺が似合うの、弥勒も似合うの、そん中から探してくれた。そんでカッコいい」
その気持ちが嬉しい。
色々見て探さねえと、こんなカッコいいネックレス、見つからなかっただろうし、弥勒の頑張りが嬉しいぞ。
嬉しいな、すげえ嬉しい、弥勒の気持ち着けてるっつー感じすんのが、なんつっても一番嬉しい。
これがもし、カッコよくなくても、嬉しいのに、こんなカッコいい…ヤベえ嬉しい。
嬉しくて、俺の頭、なんか茹だりそうに嬉しい。
誕生日のカード1枚だけでも全然満足なのに、こんなに頑張ってくれた……
嬉しい、弥勒、大好きだ。大好きでいっぱい好きだ!
「これ出来るだけいっぱい着けるな。んで、いっぱい大事にする」
「そうしてくれると嬉しい。めっちゃ似合うしそれ」
「弥勒、この気持ちは表現してえ。ぎゅってしていいか?」
「おう。オレも抱きしめたい。誕生日おめでとうさん、17歳の遥」
弥勒とぎゅって抱きしめ合うと、やっぱすげえドキドキして、嬉しいと好きでいっぱいになる。
弥勒が大好きだ。弥勒、さんきゅな。
「やっぱデケえなー弥勒は。俺の腕からはみ出る」
「遥もちっさい事はないやんけ。わりと身体はしっかり筋肉ついてるし」
「まあな、卓球部の元部長さんだから。明日から朝走り込みして、俺もっとマッチョになる予定だし」
「部長やったのに、なんで部活やめたんや?」
「まず卓球部じゃモテねえって思ったのがデケえな。高校生なったら彼女欲しかったから、モテそうなのやろうって」
「モテそうなやつ? バスケとかやるつもりやったとかけ?」
「バスケは俺ムリ。コートの中わちゃわちゃするし、見分けつかねえで敵にパスするやつはダメだろ?」
あの時はまだ高校生なったばっかで、新しくなんかやろうって、部活とかバイトとか、色々探してた時期だったんだよな。
弥勒がもし、転校してくるのがもうちょっと遅かったら、俺はきっと何か別のことやってて、弥勒に料理は習わなかっただろうな。
「そうやったんや。遥がなんか選ぶ前にオレが間に合ってよかったわ」
「ほんと、弥勒ナイスタイミングだったぞ。おかげで弥勒をこんな好きになれた」
「オレはあん時からもう好きやったけどな。ほんま上手い事口説けたで」
「な、なんだってー! 弥勒もう好きだったのか? 俺見てそっこーじゃん!」
「ぷくく。遥は全然気づいてへんかったみたいやな。ま、最初はオレも自分の気持ちに戸惑ってたけど」
「転校初日から全て弥勒の策略だったのか。やられたー」
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