遥と彼方の大作戦
伊東と藤本の試験対策に追われてたら、あっという間に10月の半ば過ぎになって、いよいよ季節が本格的に秋になってきた。
オレと遥との付き合いは、順調と言えば順調で、特に何事もなくまあまあ上手くいってる。
うん。何事もなく、や。ほんま、何にもないっちゅう、寂しい話なんやけどな?
夏にババアんち近くの海辺でキスして以来、チャンスらしいチャンスが全然ないから、1回もキス出来てへん。
「はぁ〜………」
「むひょ? いかがしたなりか? ミロク」
「いや、チャンスっちゅうのは少ないな〜と思ってな」
「むひょひょ? チャンス欲しすか、仕方なすのー。はるタソお呼ばれするはいかがなり?」
「いや、遥の家ではちょっと、な?」
「なんと、おうちでなすがよろしとは、贅沢者なりの〜」
「え〜? オレが贅沢なんけ?」
「うむり。贅沢者ミロクなり。はるタソお呼ばれがよろし」
「………ほな家呼んでもらえへんか、聞いてみるわ」
「うむ。ついでにタキも呼ぶがよろし」
「おまえ、オレの悩み聞くフリして、実はそっちが目当てなんやろ?」
「うひょひょ。たまにはよろしでなすか」
「まあ、たまにやったらええけど、彼方も時々は自分で誘えよ?」
「考えとくなり〜」
慶太にはいつも世話になってるから、彼方がメシいっしょに食いたいなら、協力せんわけにはいかんな。
そんなわけでさっそく、遥にそっちの家でメシ食えへんか、都合を聞いてみることにした。
「む。俺んちでメシか。たまにはいいな。母さんも喜ぶだろうし」
「おう。どうやら彼方が、慶太といっしょに晩メシ食いたいらしいし誘ってええけ?」
「なんだ。今回は弥勒が食いてえんじゃねえのか?」
「いや、オレも遥んちでメシ食いたいし、頼んでるんやけど、彼方もそうらしいって話や」
「そういう事ならかまわねえぞ? おれもちょうど家呼びてえって思ってたしな」
「? 珍しいな、遥がオレを家呼びたいて思てたんや?」
「うん。弥勒とちょっとやりてえ事があってな? ふふふ。当日が楽しみだ」
「?」
何をたくらんでるか分からんうちに、遥んちでメシ食う日がやってきて、慶太と2人で遥んちに向かう。
「は〜、嬉しいな〜。彼方が弥勒づてでも家に誘ってくれるなんて」
「そういえば彼方からメシ言い出したんは始めてやったっけ?」
「そうなんだよ。おれはいつも、弥勒のついでに呼ばれてただけだったからね?」
「家で映画いっしょに観た時は、一応彼方が主催やったやんけ」
「あれは彼方の観たい映画に、おれが乗っかっただけだから、誘われたのは始めてだよ」
「何にしても良かったやんけ。オレは遥の意図がちょっと分からんけどな」
「何かやりたい事があるんだっけ? なんだろうね?」
「分からん。なんなんやろ?」
遥の家に着くと、2人揃って出迎えもらって、遥がコーヒー入れてくれるっちゅうから、オレは先に遥の部屋行って待っとく。
広くはないけど、わりときちんと片付いてて、遥の性格が分かる居心地のええ部屋や。
「お待たせ、弥勒。前に言ってたコーヒーメーカーのコーヒーだぞ」
「おう。もらうわ。やりたい事ってオレにコーヒーを飲ませる事やったんけ?」
「そうじゃねえけど、飲んでみてえっつってたからな。うめえか?」
「豆挽いたわけやないクセに、なかなかええ味やんけ」
「だろ? 俺もその辺の紙パックよりうめえって思うから、いつもこれなんだよな」
しばらくそうやって、遥と2人でコーヒーを楽しんで、ところで本題のやりたい事ってなんやって聞いたら、こう言われた。
「カップここに置いてくんね?」
「? おう」
「じゃ、ちょっとお邪魔しま〜す」
そんな事言いながら、オレの足と足の間に座って、遥が背中を預けるようにもたれてくる。
まるでオレが遥を、背中から抱きしめてるみたいな体勢や。
遥の体温すら感じるぐらい近いし、この座り方、めっちゃドキドキして嬉しなるな。
「うん、やっぱ予想通り! 居心地いいぞ、これ」
「ふ。やりたい事て、これけ?」
「うん。弥勒んちじゃ椅子だし、こうやって座るのは難しいだろ?」
「こらええ感じの座り方やな。遥をぎゅってしながら座れる」
「これは付き合ってねえとやらねえから、名付けて“恋人座り”だ」
「せやな。たしかに、これは付き合ってへんとやらん。めっちゃドキドキして嬉しなる座り方や。こんなん考えてたんや?」
「だって、なかなかぎゅってしたり、ちゅってしたりは出来ねえから…ダメだったか?」
その言葉で、遥もチャンスがないて思てたっちゅうのが分かって、オレはめっちゃ嬉しなる。
くっつきたいのは、くっつきたいて思ってたのは、オレだけやなかったんやって。
「あかんわけないやろ? オレかてチャンスないなーて思てたし、めっちゃ嬉しいで」
「えへ。思いついた俺、賢いだろー」
「おう。大事な工夫やな。やりたい事が出来るように、色々考えるっちゅうのは」
「弥勒、今度からは時々、この座り方がしてえぞ?」
「オレもしたい。オレ、いつでも恋人座りがええぐらい、気に入ったわ」
「む。いつでもはダメだ。メシ食うのはこれじゃ食いにくいしな」
「ははっ。たしかに、メシは食いにくそうやなー、でもこれめっちゃ嬉しい」
「えへ〜。弥勒、好きだぞ」
「オレもめっちゃ好きや。愛してるで、遥」
なんか甘〜い雰囲気で、脳みそ蕩けそうに嬉しいて、遥を後ろからいっぱいぎゅって抱きしめたる。
愛してる、嬉しいで、遥。
メシが出来て呼ばれてみると、相変わらずすごい品数や。ひーふーみー…8品は多いって!!
「母さんもーっ! なんでそんな張り切り過ぎが直んねえんだ? たまには我が家の普通も見せろよっ」
「いいじゃない。母さんの食べたい物がいいってリクエストだったんだからっ」
「母さま食いたす品、多すぎなり。かなタソも普通が見せたすよ?」
「は〜、これ全部がおかんの食いたい物け?」
「毎回ご馳走作ってくれて、ありがとうございます。お母さん」
「やあ、みんな来てたんだね。父さんすぐに用意してくるから、ちょっと待っててくれるかい?」
遥のおとんが着替えてくるんを待って、みんなで揃って手を合わせたら、オレはさっそく目の前のミモザのサラダに手をつけてみた。
うまっ。崩した玉子が具材と合って、シャキシャキなサラダ菜との絶妙なバランスでめっちゃうまい。
写真魔のおとんは記念写真撮って楽しそうやし、ここの食卓は賑やかでめっちゃ楽しいし、今日もメシがめっちゃうまい。
「うまいなーこれ。ローストポークうまいで、おかん」
「こっちのシチューも最高です、お母さん」
「いっぱい食べてね? この前の弥勒くんと滝くんのおかずのお礼よ。あそうだ、ビール飲みましょ。ビール」
「だから、高校生にビール飲まそうとすんじゃねえっ、ババア!」
「よろしではなすか、はるタソ。母さま、かなタソもおビール飲むなり〜」
「みんなで食べると美味しいねー。母さん、父さんもビール、もらおうかな?」
「ったくよ〜。ん! 弥勒、このゴボウサラダうめえぞ。食ってみた?」
「まだや。どれどれ? ん! こっちのサラダもうまいっ!」
「この里芋の煮っ転がし、香りは柚子ですか? 素敵ですね、お母さん」
「ふふふ。みんな美味しい美味しいって言ってくれるから、母さん作り甲斐があって嬉しいわ」
「いや〜、賑やかなごはんは美味しいね〜。彼方、こっちのお魚も美味しいよ」
「のんのん。かなタソ今はお味噌汁で忙しき。靴下臭すがそれ食うよろし」
「彼方、お父さんはちゃんと、お父さんって呼んであげなって」
やっぱ靴下臭いってあしらわれてるおとんを、慶太がフォローして懐かれるんも、最早すっかり通常運転やな。
「弥勒くん、弥勒くんはこの話知ってるかな? スコットランドの羊と言う話があってね?」
「ジジイ! そんな数学者ジョーク、ジジイ以外誰も楽しくねえから、やめろっつってるだろ!」
「いや、興味あるで、オレ。たまにはおとんの話も聞いたれや、遥」
「弥勒くんもいい子だね〜、うちの子になって、いっしょに数学を研究してみないかい?」
数学小話をしてくれるおとんと、それを諌める遥の取り合わせも、すっかり見慣れた感じで、賑やかで楽しい時間が過ぎてく。
おとん入れて男が4人もおるから、たっぷりあったメシが余るっちゅう事もなく、しっかり食い尽くして後片付けや。
なんかこの家の台所の食器の配置も、ちょっと分かってきた気がするな。
オレと慶太が洗って、遥と彼方がいつもの場所に片付けていくんやけど、コップはこことかこの皿はこっちとか分かってきてる。
この家にちょっとは馴染んできたように思えて、こそっと嬉しい事実や。
家事のプロの専業主婦みたいに、きっちり片付けっちゅうのはなかなか難しいけど、まあまあきれいっちゅうぐらいまで片付けて、お礼言うて遥と玄関に向かう。
「今日も楽しかったで、遥。オレんちでも恋人座りはしよな?」
「椅子でも出来るかな? ズリ落ちねえ?」
「ぎゅってくっついたら大丈夫やろ。きっとな」
「だったら弥勒んちでもやってみるか。帰り、気をつけろよ?」
帰る前に抱きしめたいけど我慢して玄関出て、てくてくと自分ちまでを歩いてくと、ふと、遥の感触を思い出して心が温かくなる。
腕の中の遥、かわいかったな。かわいくてカッコようて、たまらん愛しかった。
オレんちでもあの座り方はやろ。恋人座りはやらんとや。
それと、キスのチャンスはなかったけど、いっぱいくっつけたんやから、家に呼ばれる提案をしてくれた彼方に、後で礼も言わんと。
今後はますます、あいつらにも協力したらんと、借りばっかり増えるじゃあかんしな。
嬉しくて帰り道やのに足どり軽く、スキップしそうな気分で家まで帰った。
◆
「うーはるタソ〜、今日はいかがだったなり?」
「上手くいったぞ、彼方。そっちはどだったんだ?」
「かなタソもバッチリ成功だったなり。お手々繋ぐは嬉しきねー」
「そりゃ良かったな。滝はすげえ奥手みてえだし、おめえも大変だな〜」
「うむり。タキ紳士なれど、時々じれじれなってしまうなりからの」
「クリスマスにほっぺキスぐれえはするかな?」
「かなタソはクリスマスより、ホワイトデーがよろしがの」
「む? ホワイトデーの方がいいのか?」
「チョコお返しがほっぺキスは、乙女の夢でなすか? きっと天にも昇る夢見心地なり」
「なるほど、そういう考えもありか。じゃあバレンタインは気合い入れねえとな」
「うむり。はるタソもいっしょチョコ作るよろし」
「俺もか? 男が男にチョコやるっつーのはおかしくねえかな?」
「おかしくなす。はるタソもいっしょチョコ作るがよろし」
「なら、今年は2人で頑張って、手作りチョコで恋人のハートを射止めるか」
もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ




