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この恋のために2  作者: ひなた真水


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20/38

単発バイト

 ピロロピロロピロロピロロ───…


『もしもし弥勒? 久しぶりだね。今話せる時間あるかな?』

「慶太? どうしてん、携帯にかけてくるとは珍しいな」


『ちょっと頼みたいことがあってね。弥勒、遥といっしょに単発でバイトする気、ない?』

「? 単発バイトって、もしかしてホテルに欠員でも出たんけ?」


『そうなんだよ。人手不足の急遽だから、他にアテもないし…明日からなんだけど』

「オレはかまへんで? 遥にも聞いてみろや。たぶんええて言うやろうし」

『マジ助かる。頑張ってくれたら給料もはずむようにするよ』




 そんな風に慶太に頼まれて、突発的に慶太の親父のやってるホテルで、遥と2人、清掃のバイトをすることになった。


「うードキドキするな〜。俺上手くやれるかな?」

「出た欠員は1人やし、2人で頑張ればきっとやれるやろ」


「でもホテルの清掃だぞ? きっとすげえきっちりなんだって思うけどな〜」

「大丈夫や。教えてくれる人も付けてもらえるし、とにかく頑張ろ」


 慶太の親父がやってるホテル、『一望館ホテル』にやってきて、まずは教育係の坂上さんに挨拶する。

 きっちりした性格が顔に出てるっちゅう雰囲気の、真面目そうな女の社員さんや。


 その人に基本的な手順を習いながら、順番にチェックアウトの済んだ部屋を片付けていく。

 リネン変えたりゴミ片付けたり、風呂やトイレの隅々まで掃除せなあかんから、けっこう大変やわ。


 とにかく、汚れてへんでも一旦全部リセットさせるつもりで、全部きれいにするっちゅう精神で頑張る。


「弥勒、これけっこう大変な仕事だな〜」

「やな。普段使わん筋肉使てるっちゅう感じがめっちゃするわ」

「いい調子で出来てますから、頑張ってくださいね」


 朝10時のチェックアウトから、午後3時のチェックインの時間に間に合うように、ひたすら客室を掃除。

 夏休みで繁忙期のホテルやから、雑談する暇もないぐらい忙しく掃除して回る。

 あ、これ忘れ物や。




 午後3時、なんとか全部の部屋を掃除し終えて、2人でホテルの休憩室でぐったりと休憩をとる。


「いや〜、今回は緊張もあったから、ぐったりだよ俺〜…」

「オレもや。まさか風呂場の壁全部を、全部屋拭きあげるとは思わんかったしな〜」


「う〜、お疲れさまなり、はるタソ〜」

「いや、ほんと欠員が出た時はどうしようかと思ったけど、助かったよ」


 別で仕事してた慶太と彼方も戻ってきて、互いに戦果を褒め称えあう。

 さすがにこの2人は別の業務やっただけあって、オレらと違ってぐったり具合もけっこうマシや。


 そういえばスーツ着てる慶太見るのは、オレ初めてやな。

 けっこうしゃんとして見えるやんけ。

 彼方も着ぐるみパジャマやなくて、きちんとしたワンピース着てるし、ちゃんとした女子っぽいな。


「坂上さんが2人の事、褒めてくれてたよ。あの人けっこう厳しい人なのに」

「さすが我が弟なりと、かなタソも嬉しだったなりよ」


「やれるだけはやったから、褒めてもらえたのは嬉しいけどさ、マジか?っつーぐれえ大変だったぞ…」

「でも怒られるんやなくて、褒められたんは良かったわ。頑張った甲斐があるしな」


「あんな大変な仕事、ほんとに今日から1週間だけで良かったのか?」

「それ以内には補充の人を探す予定だから、平気だよ」

「ま、それ以降もっちゅうのは、五木梨があるからオレらじゃ無理やけど」


「うータキばあさま、かなタソも会ってみたすの〜」

「彼方には、おばあちゃんがこっちに来た時に会ってもらうからね」


「うひょ? かなタソ、タキばあさまに会えるなり?」

「秋頃には一度来たいって言ってるから、その時に会えると思うよ。楽しみだね」

「やっふい! かなタソもタキばあさまに会える、楽しみなりっ」


「良かったな、彼方。滝の親戚との初顔合わせじゃん」

「ほな未来の慶太の嫁として、しっかりババア孝行せんとや」


 慶太のババアは、慶太の事めっちゃ可愛がってるから、しっかり仲良うせんとやで、彼方。

 



 バイト代はけっこうオイシクて高額やったけど、その分ほんま大変な1日やった。




 今日の晩メシは疲れてるから、ニンニクの芽で元気はつらつなスタミナロールや。

 豚バラ巻いてジュージュー焼いたら、タレをまわしかけて完成やし、フライパンに慣れた遥とオレなら簡単なメニュー。

 付け合わせにエビアボカドのサラダとか、なすとゴーヤの味噌汁付けて、2人揃っていただきます。


「うまっ! うめえっ。これ元気の味がするなっ」

「やな。疲れた身体に効くわ、これ」


「ある程度は弥勒と毎日走ってたし、体力あるつもりだったけど、今日はマジ疲れたな〜」

「オレもや。久々にちょっと鍛え直す必要あるかと思うぐらいに疲れたわ」


「弥勒ってちっせえ頃にはガッツリやってたんだろ?」

「言うても基礎ばっかりやったけどな? クソ親どもの要望でやらされてた事やし」


「でも才能あるって言われたっつってたじゃん」

「まあな。このままやればええ感じに育つとか言われてたけど、格闘技に興味があるわけ違ったから迷惑やと思てた。でもちょっと、前やってたルーチンでもやってみよかな?」


「いいじゃんいいじゃん。俺にもそれ教えてくんね? んで、いっしょやろうぜ」

「でもだいぶ忘れてそうやし、人に教えるんはちょっと心配やなー」


「強くなるためじゃねえから、基礎だけでいいしさ」

「基礎は単純な動作の繰り返しやから、けっこう飽きるけど、それでもええなら」


「かまわねえぞ。体力っていくらあっても困らねえもんだし、出来るならつけときてえじゃん?」

「たしかに、体力はいくらあっても困らんし、いざっちゅう時、頼りになる相棒やしな」


 そんな話をして、遥といっしょに朝に走るついでに、昔やってたルーチンワークも加える事にする。


「教官だった人ってどんな人だったんだ?」

「元軍人でめっちゃ厳しいオッサンやったで。指導とちゃう事やったら、ノルマ倍にしてきよるし」


「うわ、軍隊式とはいえ、ノルマが倍はキッツいな〜」

「せやし訓練は指導の通りにやろうと、いつも必死こいてたわオレ」


 朝、メシ食うたらオッサンち行って訓練して、昼は訓練の一環としてメシの作り方教えられて、そのあと夕方までびっちり訓練やったしなー。


 無口で無愛想で、めっちゃ厳しいオッサンやったけど、なぜかチョコが好きで、時々チョコケーキ焼かせてくれた。


「む。意外にも甘いもの好きなヤツだったのか」

「おう。焼くのはチョコケーキだけやったけど、それ焼いた日は午後からゆっくりコーヒーが楽しめる日やったから、オレも楽しみやってん」


「実はそのおじさんなりの休日だったんじゃねえか?」

「はは。そうかもしれんな。そういや、日曜日に何してたか思い出せんし、休みやったんかもしれん」


 あれでオレ、コーヒーが好きになって、中国行っても自分で淹れて飲んでたな。


「チョコケーキは好きになんなかったのか?」

「3年間チョコケーキオンリーやで? さすがにオレは飽きた。ちゃうもの食いたいやろ」


「たしかに、3年間もチョコケーキばっかより、違うの食いてえな。その点、コーヒーは飽きねえか」

「おう。最近は紙パックばっかりやけど、豆の香りがええのを挽いて、ゆっくり湯沸かして淹れるんが、実は気に入りやねん」


「弥勒は豆挽いたりもするのか」

「一応な。オレ専用のコーヒーミルも持ってるし。遥もコーヒーは好きやろ?」


「好きだけど、俺は家じゃコーヒーメーカーに頼ってばっかだなー」

「クイズの懸賞品やったやつなんやろ? そんなうまいんけ?」


「特別うめえっつー事はねえな。でも、まあまあいいモデルだったみてえで、そこそこの味だぞ」

「今度家で遊ぶ時にでも飲ませてくれへんけ?」

「いいぞ。弥勒には俺のコーヒーメーカーで飲ませた事ねえもんな」


「琢磨にも飲ませてたんけ?」

「琢磨が飲むわけねえじゃん。あいつはコーヒー苦くて飲めねえヤツだし、いつもジュースだ」


「へえ、そうなんや? そういやゲーセンで遊んだ時に、わりとファンタっちゅうてたな」

「子どもだろ? 俺より誕生日早くてお兄さんぶってるけど、舌は子どもだからお兄さんじゃねえんだ」


「ぷ。遥はダンディなオッサンやしけ?」

「むー、俺はコーヒーが飲めるダンディな大人だ。オッサンじゃねえ」


 そうやって話しながら、今度は豆買ってきて挽いてみよかとか、色々相談していく。

 ちっさい約束と未来の相談が、オレと遥に明日を連れてくるかと思うと、なんか大事で愛しい時間や。


 明日もホテルで清掃のバイトやし、2人でしっかり頑張るで!!

もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ

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