伊東藤本再び
「遥くーん、助けて〜」
「お願〜い、遥くーん」
「「あたしたち友だちでしょー?」」
「クラス離れたくせに、なんで俺を頼ってくんだよっ」
「だって、中間赤だったんだもん」
「誰に聞いても分かんなかったの」
「「次で挽回しなきゃなのっ! お願いっ」」
せっかく伊東藤本とクラスが離れて、胸を撫で下ろしてた遥に、再びヤツらの襲来が始まった。
どうやら中間考査で散々な点数やったらしく、期末まで悪いと夏休みに補習が決定してまうらしい。
授業中寝てたせいっちゅう自業自得やと思うのに、なんだかんだ言いながら、人のいい遥は結局2人を教えるハメになった。
「ったく、なんで教える俺らが出向かねえとなんだよ〜」
「しゃーないやんけ。あいつらでもさすがに特進クラスで、アホな質問繰り返すんは居た堪れへんのやろ」
「恥だって思うなら、出来るようなれよ〜…」
「あ、遥遥ー聞いてよー」
「おう。相沢久しぶり〜。元気してた?」
「元気元気〜っ! あたしねー、最近サッカーハマってんの! 知ってる? 成城高校」
「ん? あー強豪高校だよな。俺の中学の頃の親友そこ行ってるぞ」
伊東藤本に数学教えに行く途中で、久しぶりに相沢に声かけられた。
久しぶりの相沢は、なんとサッカーにハマってて、琢磨の高校を推してるらしいな。
「マジっ!? もしかしてサッカー部? 紹介してーっ!! あたし雨宮くんが超推しなのーっ!」
「そりゃ無理だ。あいつ今サッカーまっしぐらだし、彼女とかの余裕はねえらしいからな」
「告るとかじゃないんだよ〜っ! 握手っ! 握手1回でいいのっ!! 無理ならサインとか写真でもいいっ!」
どうやら相沢のヤツ、本気で琢磨を応援してるらしくて、必死こいて遥に頼み込んどる。
「写真っつっても高校なってからのはあんま持ってねえし、勝手にやるわけには…」
「じゃ中学時代の写真見せてっ! 親友なら持ってるんっしょ?」
「こいつ幼馴染やし、アルバムの中琢磨だらけやで」
「マジっ?! じゃあ部活やってる写真もあるよね?! 私生活はいいからそれだけでもお願いっ!」
「えぇ…」
「あたしマジで選手の雨宮くんの超推しなのっ! 前回の試合見た? あの1―1でスパーンって止めたとこっ!」
推し活やってるヤツ特有の早口推し語りに突入した相沢は、同志を見つけたとばかりに語る語る。
遥も自分の親友が褒められるんが嬉しいから、またそれに付き合って…
「あーっ! 遥くんこんなとこで油売ってる〜」
「あたしたちを見捨てて遊ぶなんて酷いよ〜っ」
「あー、すまねえ。相沢が俺の中学時代の親友推しだっつーもんだからさ」
「相沢さんの推し?」
「遥くんの親友が?」
「そうなんよーっ! もーちょーラッキーなグーゼンって感じ! 見てこれっ! カッコいいっしょー?」
雑誌を切り抜いたのか、ペラい色刷りの写真を大事そうにケースに入れて、嬉しそうに伊東藤本に見せる相沢。
そうか。アイドルっちゅうわけでもない高校生やと、生の写真も手に入れるんが大変なんやな。
「遥、事情話して聞いてみたったらどうや? 1枚くらい分けてもええかどうか」
「うーん。なんかキリなくなりそうで怖えんだけどなー」
「相沢やったら読モとかして騒がれる大変さも知っとるやろうし大丈夫や思うで。他のヤツやとオレも言わんけど」
遥との因縁抜きにしたら、相沢は常識的なええヤツやと思うし、出所は言わんようにして1枚キリなら大丈夫な気がする。
それに、想いが叶うかどうかは置いといて、別のヤツに目を向けてくれたんも嬉しいしな。
「だな。聞くだけ聞いてやんよ、相沢。ただしもらえても1枚キリだし、他のヤツにもらえるとは思わせねえっつーのが条件だけどな?」
「約束死守するからっ! お願い! やったーっ!! アガるーっ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねそうな勢いで喜び勇んで走ってく相沢眺めてたら、昼休みが残り半分くらいに減ってたから、伊東藤本に騒がれてしゃーなしに今日もテスト勉強を教えにかかる。
「遥くん分かんないっ」
「さっそく分かんない」
「ノータイムで聞くんじゃねえっ!! せめて解こうとしやがれ! このばかタレどもーっ!!」
「おまえらそこは昨日解けたとこや。思い出す努力ぐらいせえ」
「え〜? そうだっけ?」
「こんな問題あった〜?」
「ノート見ろっ! 書いてあんだろ、ここにっ!」
「ん〜? これといっしょなの?」
「数字違うから気づかなかったよ」
「ぐんなり…」
「が、頑張れ。オレも協力するし、頑張れ」
行きつ戻りつしながら、亀より遅いスピードで2人の数学の勉強が進んでいく。
今回はまあ、期間にいつもより余裕もあるから、まさか赤取るっちゅう事はないやろうけど、それにしてもなんでここ受かったんか疑問やコイツら。
遥がおらんかったら絶対留年して卒業できんやろうしな。
「遥、ついでにオレも教えてくれ。ここなんやけどな?」
「ああ、そこはちょっと勘がいるんだよ。この文章に引きずられねえでな?」
チャレンジ問題解くオレにも、同じペースで教えつつ、自分はおとんからの出題もちゃんと解いていくし、実は教師とかなったら向いてるかもしれんよな、こいつ。
伊東やら藤本にこんだけ問題解かせられるんやし、優秀な教師になりそうやわ。
「むー、父さんのヤロー。またこんな問題紛れ込ませやがってー」
「ん? 変な問題でも混ざってたんけ?」
「ミレニアム問題なんか解けねえっつってんのに、毎回混ぜてきやがるんだよ」
「ミレニアム問題て、賞金かかってる問題やんけ」
「億単位の賞金かかってる問題なんか俺が解けねえって知ってるくせに、手ぇつけとかねえと拗ねるんだ」
「………手ぇつけるんや?」
「分からねえなりにアプローチした痕跡がねえのは、テスト後のご褒美に響くからな」
どうやらオレが思ってるよりも遥の数学的能力は、かなり高いらしいな。
まさか懸賞金かかってる問題に取り組んでるとは思わんかったわ。
親父さんもそんな問題やらせなや。
………ま、自分の息子が同じ分野で優秀やったら、嬉しなって色々やらせたなるんかもしれんけど。
クソ親もオレによう化石の掃除手順やとか、めっちゃ叩き込もうとしてきてウザかったしな〜。
そら高校生レベルのテストで百点以外あり得へんわけや。
伊東藤本の言う通り、ちょっと次元違うわ。
「あれ? 答えが合わな〜い」
「ほんとだ。なんでだろうね」
「ん? −の記号書いておいて足し算すりゃ合うわけねえだろ! 大バカやろーっ」
「あ、ほんとだ。よく分かったね」
「すごいね。さすが遥くんだよ!」
「おまえほんまサッと気づくなー」
「パターンが読めてきただけだよ…はぁ〜、コイツらに加減乗除を徹底的に叩き込みてえ〜」
「足し算ひき算ならちゃんと出来るよー」
「やればちゃんと答え合ってるでしょー」
「なら記号を間違えて計算したこの問題解いたバカはどこ行った?」
「次元の狭間?」
「隙間の妖怪?」
「頼むからその妖怪は二度とここへは出すな。単純計算で間違えてたら取れるのは部分点だけになる」
「それでも部分点くれる教師って優しいよなぁ〜。感謝しろよ、おまえらは」
「あと、字はもっと丁寧に書け。1だか7だか分かんねえ書き方してると、そこで間違う可能性大だ」
「遥くんの字って読みやすいもんねー」
「読みやすいから間違わないんだねー」
「言うてんと書け。7は7て分かるようにな? どっかに印入れろ。こことかでええし」
下校時間ギリギリまで2人の面倒見て、買い物してオレんち着いたら、普段ならとっくに食うてる時間やった。
「遅くなっちまったから、急いで用意しようぜ」
「せやな。急ぎすぎて手ぇ切るなよ?」
「明日から1品ぐれえあいつらに持って来させるのもいいかもな」
「そらええ考えや。そんぐらいの対価はもらって当然な働き、遥はしてるし」
「弥勒もだよ。俺だけじゃ絶対脳の血管が保たねえとこだし」
「遥ほんまキレ散らかしてたしなー」
「言いやすいキャラだっつーのもあって、あいつらにはつい手加減なしに暴言いっぱい吐いちまうんだよ」
「ははは。あんだけ無茶苦茶言うのって他はおまえ、彼方ぐらいやしな」
「彼方はしょーがねえよ。俺がムカつくって分かってて、ムカつく事やるんだから」
「たしかに。彼方の場合は大抵彼方に悪気がある」
時間も遅いしって事で、簡単に炒め物とサラダと和え物と汁物を作って、遥といっしょに手ぇ合わせる。
ピロロピロロピロロピロロ ───…
「ん。悪い、琢磨からだ」
この時間やと、練習の休憩時間にかけてきたんやろ。
普段なら遥はとっくに食い終わって帰ってる時間やし、合わせよったっちゅうのが分かってちょっとムカつく。
ふん、残念やったな。今日はオレ横おるし、隙はないで?
「───そっか。さんきゅな。そいつにも言っとくよ、試合頑張るって言ってたって」
「───うん。絶対行ける範囲は行くから…うん。ん? おけ、弥勒」
「? オレ?」
遥に差し出された携帯とってみたら、ドスの効いた低い声で機嫌悪そうに『あんま遅い時間まで連れ回すな』て文句言われてしもた。
「事情がある日かてある。数学教えてくれて泣きつくヤツのせいなんや」
『……送る時、あんま飛ばして帰って来んなよ?』
「大丈夫や。違反なんか1個もせんぐらい慎重に送るから」
『言いたいことはそんだけ。遥に代わって』
そのあと、琢磨は遥に『小姑してると弥勒に嫌われるぞ?』とか注意されとったけど、あいつからしたら、小姑付きが嫌なら他所のヤツ選べやろな。
ピッ
「ったくもー、琢磨はどうも俺に過保護だ」
「しゃーないて。夜間の大通りはトラックとか走ることもあるし、普通に心配するもんや」
「自分はもっと遅くまで部活やってるクセにか?」
「視力のええヤツっちゅうのはな、おまえの見てる世界がどういうもんなんかを想像出来んねん。やから夜の方が危ない気がする」
「俺、夜は眩しくねえ分安全なんだけどな」
「オレも最初は中々羞明とか視力が悪いのについては、理解出来んかったし、しゃーない」
「弥勒もか?」
「おう。オレかてネットで調べたり、医学書読んでみたりでようやくやし」
「む。そんな頑張ってくれてたのか。俺全然知らなかったぞ? 医学書読むとか大変だっただろ」
「医学書はエンバーマー目指すオレにはわりと身近やし、大した事ない」
普通は暗い場所では物は見え難くて、明るい場所では見やすいもんやし、遥の居心地良さげな光量探すのにはかなり頑張ったもんやしな。
遥の方が彼方よりちょっとだけキツいみたいやし、遥と彼方でも羞明の度合いが違うらしい。
「でも送迎はやめる気ねえと」
「おう。オレの楽しみでもあるから、やめたないしな」
「楽しみなのか?」
「ちょびっとやけど、毎日ドライブ出来るんや。楽しみやんけ」
「そか。楽しんでるなら文句はねえぞ。俺もバイク乗っけてもらうの楽しいし」
停止線守って、信号守って、スピードもなるべく出さんように、安全に気をつけて短い距離やけど遥とドライブ。
背中でぎゅっと抱きついてくる遥の存在を感じる貴重な時間なんや。
オレかて男なんやから、雨降り以外の日はなるべくこれがええに決まってるやんけ。
エロいとか言うな。
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