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スパ

「えぇ? マジ? ラッキー!」

「むむ? はるタソ何やらデカす声上げていかがしたなりか?」

「いや、パズルの懸賞が当たって、ちょっとビックリしただけだよ、彼方」


 俺が何の気なしに解いて送った数字パズルの懸賞が当選した…っつっても、残念ながらギフトカードやらの金券じゃねえぞ。

 肉とかの食い物でも、家電製品でもねえ。

 ただのリゾートスパのチケットだから、金額的にはちっせえんだけど、これどうする?


「む。なんとこれ、ペア2組様のチケットではなすか」

「そうなんだよ。父さん母さんにやるには、1組多いし、どうしようか?」


「ふむり。………はるタソ、かなタソとこれ、分けるよろし。ここなら水着デートが可能なり」

「え? マジ? ここただの温泉じゃねえの? 水着混浴っつー事か?」

「うむり。温泉スパリゾートアクア、ここの事であろ?」


 彼方のタブレット端末見せてもらうと、そこのサイトが開いてて、色々施設が紹介されてる。

 ふむ…ここなら水着デート出来るな。…弥勒の水着か。見てえ。見てえぞ。


 去年弥勒のばあさんち行った時に海はあったけど、バイトもあったし俺がヤケドするからって、結局1回も海で泳ぐ事はなかったし、俺も彼方も授業で水泳を選択するバカでもねえから、俺は弥勒の水着姿は見たことねえ。


 いや、体育の着替えで、半裸は目撃したことぐれえあるけど、あくまでもそれは一瞬ぐれえだし、水着デート、してえ。絶対してえ。

 弥勒といっしょに風呂入るとかは恥ずかしいけど、水着だっつーなら別だ。

 それはすげえ楽しそうじゃねえか。是非とも行かねえとだ。


 しかし、俺らには大問題が一つある。

 俺も彼方も、中学時代のスクール水着しか持ってねえっつー問題だ。それじゃカッコつかねえ。


「水着はどうする彼方。スク水っつーわけにはいかねえだろ?」

「やはりここは、父さま出番でなすか? はるタソかなタソ、中間テスト頑張ったなり」


 こいつ、都合のいい時だけ父さまって呼びやがる……

 いや、彼方のこれは効果てきめんなんだけどさ。おねだりするならやっぱ父さんだ。




「父さま父さま、かなタソ欲しす物があるなりよ〜」

「お? 彼方がそう呼んでくれるのは久しぶりだなー。彼方の欲しい物って何かな?」


「かなタソ、はるタソ達と遊ぶするための、オシャレしたす〜。かなタソテスト頑張ったなり、ご褒美欲しす」

「そうかそうか。彼方も年頃だもんな。たまにはオシャレもしたいのか。そんなに高い物なのか?」


「のんのん。高すなす。かなタソお小遣いでは買えなすだけなり。父さま買って欲しす」

「父さん、俺からも頼むよ。お揃いっつーわけじゃねえけど、予算内でケンカしねえ約束するからさ」

「そうかそうかー。そんなに欲しくて仲良く買い物出来るなら、父さんも予算を都合しようかな」


「やったな、彼方! さすが父さんだ。やっぱ頼りになる!」

「うひょひょ〜い。父さま素敵なりよ。かなタソ感謝感激雨あられなり〜!」


 彼方に激甘な父さんは、久しぶりの彼方の父さま呼びにデレデレで、あっという間に俺らの予算を都合してくれる約束してくれた。




「ええっ! 彼方、スパで水着で遊びに行きたいの?」

「うむり。かなタソ水着着てのおデートしてみたすが、タキいかがなり?」

「もちろん行くよ。絶対行く。何があっても行くからおれ!」

「弥勒も来るだろ? 温泉だし、ガッツリ泳ぐわけじゃねえけどさ」

「もちろん行く。オレも何があっても絶対行くしな。うわーめっちゃ楽しみや」


 弥勒も滝もこんな感じで、2つ返事でOKしてくれたから、当日は俺んち集合で、4人揃って温泉スパリゾートアクアに出かけてく。

 つか、なんでたった1枚穿くだけで、人の視線が気になんねえようになるのかすげえ謎だ。

 すっ裸とさほど変わらねえっつーのにさ。


 ◆


「うひょ。タキいかがなり? かなタソ水着かわゆす?」

「彼方すっごいかわいいっ! 超かわいいっ! 世界一かわいいよ!」


 向こうで慶太が彼方を褒めまくって、狂喜乱舞っちゅうぐらい喜んどるけど、オレはちょっと褒める余裕があんまないかもしれん。


 遥、カッコ良すぎてヤバい。マジヤバい。


 服着てる時からスタイルええと思ってたけど、いや、着替えは見たことあるけど、ヤバい。

 オレんち泊まった時に、風呂上がりも見たし、でもそういう一瞬やないから、隣でずっとやし、ヤバい。

 ほとんど裸の遥ヤバい。


「すげえな弥勒。滝のテンション有頂天だ。あいつ鼻血吹いたりしねえよな?」

「ぉう。ォレもちょっとテンションぉかしなりそうゃ…」

「む。弥勒もか? 何だ? どっかにきれいなお姉さんか、かわいいギャルでもいたか?」

「なんでギャルとかお姉さんやねん。おまえやおまえ、あまりのカッコ良さにやられそうやしオレ」


 マジヤバい。全身がきれいっちゅうか、もはや芸術作品の域の美しさや。

 カッコ良すぎてあかんわこれ。マジで内側から光っとる。


「えへ。そうか? 弥勒もすげえカッコいいぞ。その水着も超絶似合ってる」


 その上そのかわいい顔でそんな風に笑われたら、洒落ならん…オレ、ちょっとマジで倒れるんちゃうやろか?

 これ耐えられるか?

 首元に光るオレのやったネックレスも、ダークグレーの短め丈のハーフパンツも、鬼似合ってるし、何もかもカッコええ。


 彼方の赤のビキニもそこら辺にいるアイドル顔負けやけど、遥はちょっとマジで桁違いや。

 かわいさもカッコ良さも天元突破しとる。

 世界一やないな。銀河一…いや、宇宙一の良さや。


 ちゅうか、あかん。めっちゃ見られてる。周り中からの注目の的やし、こいつ…


「ちょ、あかん遥。どっか、どっか浸かるで。慶太と彼方は一旦放っとけ」

「え、ちょ。弥勒? 放って行くっつーわけにはいかねえだろ…」


「ええから。ここでええから浸かれ。まず浸かれ。おまえは浸からんとまずい」

「む? ここ浸かるのか? だったら弥勒もいっしょ浸かろうぜ」

「…おぉう。浸かるわ。あいつらが落ち着くまで、とりあえずここ浸かっとくからな?」


 落ち着け、落ち着けオレ。遥は男や。

 …いや、オレにとっちゃ性別とか超えとるけど、男やし、いっしょに浸かるんはおかしない。


「ふぃ〜思ったよりお湯もちょうどいい温度だよな?」

「…せやな。熱くもなく温くもない、いい温度や。こういう場所、オレは初めてやけど」

「俺もだ。修学旅行ん時はみんなで風呂入ったけど、またなんかちょっと違えしな」


「…ちなみに聞くけど、琢磨はそん時、いっしょに入った…んか?」

「うん。3年時は同じクラスだったからな。修学旅行じゃ当然いっしょの班だったぞ」


 琢磨、おまえも大変やったやろな…これ同じクラスの男でも、けっこう心配やったんちゃうけ?

 うちのクラスにも榎田がおるしな。


「いやもう、そん時は風呂で腕の太さとか足の太さとか比べて盛り上がってさ。みんなでこうやって腕とか足並べて遊んでさ」

「へ、へぇ…琢磨はやっぱサッカーやってるし、遥と比べても足太かったけ…?」

「そうなんだよ。俺はほら、あんま筋肉が太いタイプじゃねえだろ? 遥おめえ細えなって言われたぞ」


 仕方ない、そん時オレはまだ遥を知る前やから、仕方がないて、分かってても、嫉妬で焦げそうや。

 風呂で腕の太さ比べただけで…


「…オレの腕もけっこう太いやろ? ほら、オレガッチリタイプやしな…」

「弥勒はどこもかしこもゴツいもんな。なんかギリシャの彫刻みてえにカッコいいし」


「そうけ? …芸術作品みたいにきれいなんは…遥の方やろ?」

「ええ? 何言ってんだか。この世全ての男の憧れみてえな身体してるクセにさ。イヤミか?」


「イヤミて、そんなんちゃうわ。マジでおまえの全身はヤバいほどきれいやで?」

「えへ。きれいか…きれいもいいけど、弥勒は強そうでカッコいいだ。ハンマーユージローみてえにな?」

「ぷ。ハンマーユージローて、世界最強の男け? おまえの貸してくれたマンガのあれ? 葉巻き一気吸いの男?」


「そそ! 弥勒はああいう見ただけで強いって思うようなヤツ! あいつには誰も勝てねえぞ!」

「オレはそんな強ないけどなー。オレが走っても別にGPSが狂ったりせんで?」

「ほんとか? 実は狂ってるんじゃねえの? あ、車のGPSじゃなくて、軍事基地のレーダーが狂うのか」


「なんでやねん。オレそんな危険人物ちゃうわ。ステルス機が慌てて飛び出そうとするだけや」

「あはは。ステルス爆撃機が飛ぶって十分ヤベえじゃん、もーっ!」


 遥と喋ってると、いつの間にか、荒ぶってた気持ちが、嬉しさとか楽しさに変わっていく。

 オレを見て本気でカッコええて思ってるて伝わってきて、その気持ちにオレは応えたなる。

 強くて、カッコええ男になりたいって思うから、いくらでも頑張れるわ。

 オレはこいつの隣にいるのに相応しいヤツになるんや。何度も何度もそう決意出来るな。


「やや、はるタソ発見なり。ここ入ってたなりか。かなタソも入るなり」

「よっす彼方。滝は鼻血吹いてねえか? ちっとは落ち着いた?」

「慶太、おまえ湯に浸かって大丈夫なんけ? このあと色々あるんやで?」

「最初ちょっとまずいかもって思ったけど、たぶん平気じゃない?」


 ちょっと落ち着いてきた慶太と彼方も湯に浸かって、4人で並んでほっこり浴槽の広さを楽しむ。

 ジャグジーがええ感じや。




 室内高級プールみたいな見た目の大浴槽で、まったりジャグジーを楽しんだら、みんなで上がって移動しながら慶太と目配せする。

 濁り湯、濁ってるお湯行こ。平和なお湯行こ。

 身体とか、あんま見えへんとこがええっ。まったり平和に楽しむことが出来るし。


「む。ここもいいな彼方。なんかすげえ気持ちいいぞ」

「うむり。ミルク混ぜたお色のよで、何やらとても心地よす〜」

「はぁ〜ほっとしたわー…濁ってるっちゅうのはええなー」

「お互いほんっと、色々大変だよね。おれもまだまだ修行が足りないよ」


 水着着てても、温度は風呂で、すぐ隣に剥き出しの肩があると、それだけでもう色々ヤバい。

 何がヤバいてもう、ほんま色々やで。


 濡れた髪の毛も、それかきあげる仕草も、ついてる水滴ですらドキドキするし、プールやなくて風呂のせいか、その距離感にもドキドキする。


「ふふ。弥勒もちゃんと着けてるんだ、これ。やっぱすげえ似合ってるな」

「そうけ? そら嬉しい。おまえのそれも、めっちゃ似合てる」


 こうやって何げなく、オレの首元のネックレスに触れてくる遥の無防備さとか、もう、ほんまドキドキしすぎて、色々ヤバすぎや。

 もはや攻撃の一種かっちゅうぐらい、心臓バクバクしててうるさいぐらい鳴るし、キスもしてへんカップルには、少々刺激強すぎる。




「彼方、喉とか渇かない? おれ何か飲む物買ってこようか?」

「うひょ。タキよろしのか? かなタソさっぱりお茶がよす」

「遥も、飲む物飲まんと脱水は怖いし、ちょっと買うてくるわ」

「じゃ俺、ポカリがいい。水分補給なら、やっぱスポーツ飲料だし」


 ここのチケット当てたんやして、言い訳して、慶太と2人で一旦離脱や。

 いやほんま、休憩せんと、こっちも色々持たへんし。


 もちろん危険やし、なるべく目立つ場所は避けて、スパの館内で着れる服も着せて、色々ちゃんと対策してからの離脱やけどな。


「はー…大丈夫け、慶太。オレかなり心臓とかヤバいけど」

「あんまり大丈夫じゃないかもね。刺激が強すぎて色々大変だよ」


 遥とオレはポカリ、彼方は麦茶、何かとじじむさい慶太は緑茶買うて、休憩用のラウンジに戻る途中、彼方と談笑する遥を眺める。


 うわ…めっちゃ絵になる光景やな。ヤバカッコええ。

 色のせいもあって映画やドラマなんかの陳腐な物やない、絵画的美しさがある。


 2人の向こう側の窓から差し込む柔らかい日差しすら、神聖な物に見えそうなぐらい美しくて、オレはちょっと息を飲んだ。


「彼方、お茶だよ。どうぞ。ここ大丈夫? 眩しくない?」

「ありがと3タキ。かなタソ眩しきへっちゃらなり」

「ポカリさんきゅ、弥勒。な、ちょっと休憩したら、あっちも行ってみてえぞ」

「ええな。ここほんま広いし、あれこれあってめっちゃオモロいよな」


 気楽なレンタルの館内着着ての、広々としたラウンジでのゆったりくつろぎタイムで、慶太と彼方のデート先聞いて情報交換する。


「へえ、そんなうまそうなカフェがあるんや? 遥、オレらもそこ行ってみよや」

「だな。カフェで俺が好きなのは、月島だ。あそこはコーヒーとガトーショコラがうめえぞ」

「タキ、コーヒー美味すカフェもたまにはよろしね。かなタソ行ってみたす」

「おれも行ってみたいよ彼方。場所はどの辺りになるのかな。よかったら詳しく教えて」


 慶太と彼方がいてよかったわ。

 遥と2人でここで遊ぶとか、絶対オレ確実に鼻血とか吹いて大惨事やったと思うし、ほんま助かった。




 ちょっと暗めの浴室でゆったり岩盤浴を楽しむオレら。

 薄暗いけど、寝転んでるけど、1人ずつ離れてて、仕切りもちょこっとあるから、ドキドキしつつも、わりと平和にくつろげるな。


「じんわりあったまるのが気持ちいいね、彼方。身体がすごくほぐれる」

「うむり。デトックスなりよタキ。悪しき物が出てくなり」

「ぽかぽかあったけえな、弥勒。この薄暗さだと俺、うっかり寝そうだよ」

「ははは。別にちょっとうとうとしてもええで? せっかくこんな気持ちええんやしな」


 薄暗いから遥が隣で身動きする気配に、めっちゃドキドキするけど、ちょっと離れてるから手を繋ぐこともないような、健全な空間。




 岩盤浴で火照った身体はクールサウナでしっかり冷ますで。

 こっちもライティングがふわんとオシャレで、ちょっと幻想的なとこやな。


「ふぃ〜ここはここで、何やらさっぱり涼しきとこで、気持ちよす〜」

「涼しいけど、全然寒いわけじゃないし、ほんと爽やかだね」

「気づかんと汗かいてるパターンやし、水分だけはしっかり補充しとけよ?」

「のぼせてひっくり返るのだけは、カッコ悪いし絶対避けてえもんな」


 屋外からの強すぎひん日差しと、足元からのほんのりとしたオシャレなライトの中、柔らかくて優しい色使いの空間で遥に似合うな。




 昼メシはワンハンドに拘って、ホットサンドに、ホットドックに、バケットピザに、ブルスケッタで、飲み物は健康的にスムージー。

 ラウンジのソファ席座って、4種類を分け合いながら、果物たっぷりなフローズンスムージーを飲む。

 オレはキウイとパイン。


「む。弥勒、このスムージーうめえ。ひんやりさっぱり、いちごとキウイ」

「お? こっちのもなかなかうまいけど、そっちもけ?」

「かなタソスムージーお色かわゆす〜。いちごピーチスムージーなり」

「彼方にはそういうかわいい色がほんとよく似合うね。おれのはピーチマンゴーだよ」


 砂糖系の甘さが得意やない遥も、こういうのならいけるからな。


 …得意やないっちゅうか、嫌いではないだけで苦手の域かもしれん。

 砂糖系のお菓子食うと、遥は必ず甘いて感想言うし、クッキーとかやと1個とかで、口ん中甘いし、もうええって言うからな。


 クリスマスケーキを、ワンホールで食ってみたいっちゅうような、夢溢れる事もやりよるけど、あん時も残さんよう必死やったし。


 でも嫌いではないから、たまに食いよるけど。

 甘さ控えめなオレのケーキとか、すごい喜んでたし、カフェでガトーショコラも頼む。


 コーヒーに砂糖は味変わるて絶対入れへんし、料理もいつも砂糖は控えめやけど、ゲーセンではコーラ飲まんとっちゅうしな。


 わりと日常的に、パックジュースのいちごオレとか飲む彼方とは、けっこう対称的な感じで、観察してると色々気づくしオモロい。


 食の好みでオレと衝突せんのは嬉しいとこや。

 オレも甘い物よりガッツリ食う系の方が好きやし、メシいっしょに食うても楽しいわ。


 しっかり躾けられてるから、どんなくだけた場面でも、行儀はええから、どこ行っても恥ずかしい事は絶対せんし、対応も柔軟や。


 ただマナーを知ってて、それを守ってるだけやなくて、丁寧に教えてこられた育ちの良さからくる行儀の良さっちゅうのかな。

 上品すぎて、手づかみで雑に食うのが出来んわけやなくて、手づかみで食う時も食い方がきれいで、見てて気持ちええ食い方をする。


 遥が育つ中で培ってきた良さを、いっしょにメシ食うたびに感じるから、何食うのもいっしょに食いたなるヤツや。




 昼メシ食うて食休みが終わったら、いよいよ本日のメイン、2時間貸し切り個室温泉の時間がやってきた。

 大丈夫かオレ、しっかりや。


「うわー、けっこう広いな。天井はあるけど一応外だし、すっげえ気持ちいいぞ!」

「広々よろしとこなりねー。お外からも見えなすでご安心なりっ」

「こ、ここは4人だけ…お、お風呂場に彼方といっしょ…だ、ダメだ…ちょっとまずい…」

「しっかりせえ慶太。スパや、プールといっしょ、いっしょやし。大丈夫やないのは分かるけど、気をしっかり持て」


 岩肌仕様な内装の、屋根はあるけど露天風呂風な、貸し切り温泉。

 頭より上には壁がないけど、植物がしっかり目隠ししてくれる。

 そこに4人だけ。


 他人の目線がない、貸し切り、風呂場、温泉、水着姿の遥、オレも慶太も、事実の情報だけでいっぱいいっぱいや。


「弥勒、早くいっしょ浸かろうぜ!」

「ここはスパ、ここはスパ、ここはスパ…浸かろか」


 最初から家族数人用に設計されてるから、狭くはない、狭くはないけど、よ、4人しかおらんっちゅう事実の破壊力が凄まじい。

 水着姿っちゅうても、遥は男なわけで、当然上半身は女と違て、裸なわけで、湯に浸かると、そこ以外水ん中で…あかん考えるな。


 事実とかビジュアルとか、受け止めるだけでまずい。

 あかんあかん。お、落ち着けオレ、無理にでも落ち着け、ここはスパや。スパ。


 遥といっしょの風呂浸かる事実が、脳みそ焼けるんちゃうかっちゅうぐらい襲ってくるけど、外側だけでもええから絶対繕え。

 頭爆発しそうなんは隠せ、遥を警戒させたり気分悪したないやろ?

 全力や、全身全霊かけて、絶対嫌な思いだけはさせんな。


「うひゃー、気持ちいいなー弥勒。これ父さんたちに譲らねえで正解だったよーっ」

「せやな。めっちゃええ…めっちゃええ体験や、これ」


「えへ。当選した時は俺、金券とかじゃなかったから、なんだツマンネって思ったけど、すげえ楽しいな」

「ほんま運がよかったよな。こういうのの応募はようするんけ?」

「マニアっつーほどじゃねえけど、月一ぐれえはな。今使ってるコーヒーメーカーも当たったやつだぞ」

「へえ。毎朝コーヒー飲んでる言うてたあれけ? 他はどんなんが当たった?」


「ギフトカード1万円分とか、掃除機とか、肉、果物もあったぞ。景品には旅行とかノートPCもあるけど、まず当たらねえな」

「そら高価な物は当たりにくいけど、遥の目当てはやっぱギフトカードやろ」

「当然だ。俺小遣いのヤツだし、臨時収入は狙っていきてえじゃん。でも食い物でもなんでも、当たると嬉しいけど」


 食う物が当たるとおかんが喜ぶて笑う遥が、めっちゃかわいい。

 親と、家族と円満なんが聞いてるだけで伝わってきて嬉しなる。

 見た目がええのは当然そうなんやけど、そこにも惹かれてるのはそうなんやけど、遥のこういうとこもほんまええ。

 漏れ出てくる性格とか、どんな風に物事を感じたり、何をするの選ぶヤツなんか、そんな1個1個がたまらん好きやって思う。


「うひょ。はるタソ〜お湯加減いかがなりか〜?」

「わぷぷっ! このヤロっ。水鉄砲かけるんじゃねえっ。仕返しだっ」


 彼方が寄って来て手で作った水鉄砲でお湯かけてくるから、遥は当然やり返して、遥王国と彼方帝国で水鉄砲の戦争が始まった。


 オレ、頭爆発しそうで存在忘れかけてたけど、慶太は…なんとか無事っぽいな。

 のぼせたり鼻血吹いたりはしてへんし、よかった。


「……ちょっとはマシけ? 慶太」

「あんまりだけど、彼方の恋人っていうこのポジションは、誰にも譲りたくないしね」


「うひょ。敵国発見なり〜。喰らえなりっ」

「ぷわっ! ちょムカつくっ。仕返しやっ。ついでに慶太も喰らえ! おまえも敵国やっ」

「わはっ。弥勒、同盟組むぞ、同盟! いっしょに彼方帝国やっつけんぞ!」

「もうっ! 彼方、遥と弥勒をいっしょにやっつけるよっ!」

「のんのんタキ。あれは、はるタソ王国とミロク共和国なりっ! かなタソ達の敵国なりよっ!」

「ほな、おまえらは彼方帝国と慶太連邦やっ! いくで遥! この戦争には負けられん!」

「がってんだ弥勒共和国! 勝ってここを俺らの領土にすんぞ!」


 水鉄砲での4ヶ国大戦争で、遥といっしょに領土をかけて戦うの、めっちゃオモロいっ。

 お坊ちゃん故か、慶太は水鉄砲が下手くそ。


「むー! タキ連邦もっと飛ばすよろし! これでは敗戦国まっしぐらなりっ!」

「ご、ごめん彼方。もうっ、なんでおれだけ逆から出るんだよ⁈」


「わーいっ! あの戦線は弱そうだぞ弥勒共和国!」

「隙だらけやな! おっしゃ! 今のうちに彼方帝国を討ち取るで!」


「わわわわっ! 大変なり! かなタソ帝国、四面楚歌なり! 同盟タキ連邦、助けるよろし〜!」

「おれの大事な彼方帝国に何するんだっ! 待ってて彼方帝国、今助けるからね!」


「遥、帝国言うたら、やっぱ悪やろ! 悪は滅ぼさんとや!」

「当然だ! 悪は帝国に決まってるからな! 悪の彼方帝国を打ち倒すぞ!」


 4人でお湯かけ合って、はしゃぎ回っても、貸し切りの個室温泉やから、誰の迷惑にもならんっちゅうのがええな。楽しっ!




 白いのと視力と羞明のせいもあって、あんま混み合ってる海水浴とかには行けへん遥やけど、こういう場所やったらいっぱい遊べる。

 工夫次第で楽しく過ごせるんやから、これからもどんどん工夫して、遥といっぱいいっしょに過ごすで!

もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ

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