第91話 待っていろ
<……信じてるから>
そんな声が聞こえた気がした。
その瞬間、俺は修行の完成を見た。
目の前で念動力で操った太陽光が一点に集中し、紙を発火させている。
『……わずか5日。念動力を2日と少し。さらに太陽光線を集中させて発火させる技術を3日か』
頭の中で、タケルさんの声が響く。
『……想像以上の成果だ。素晴らしいな、君は』
その声には掛け値なしの賞賛が混じっていて、まるで脱帽するしかないって感じだった。
ずっと俺と一緒にいるタケルさんでも、こんな反応は珍しい。
でも、俺は首を振った。
(時間を置けば置くだけ市子が危うくなる。グズグズしてられないだろ)
修行に没頭してた5日間、風呂にも入らず、髭も剃らず、ただひたすら念動力と向き合ってた。
顔を触ると、伸びた髭がざらつく。見苦しい姿だなって自分でも思うけど、そんな暇なかったさ。
だから
「ゼルノス、ガルザム。悪いけど髭剃りと風呂の準備頼む」
俺はそう、近くにいた二人に声をかけた。
ゼルノスが眉を少し上げて「随分とワイルドになりましたね」と軽く笑ったけど、すぐに頷いてくれた。
ガルザムは無言で動いて、カミソリとタオルを持ってきてくれる。
そしてガルザムのカミソリで髭を剃りながら、俺はタケルさんと次の方針を相談した。
(とりあえず、念写で市子の無事を確かめる。それから、市子が俺に伝えたいことを念写するつもりだ)
『おお……? 市子のメッセージを念写するのか?』
タケルさんが少し驚いた声を出した。俺は髭を剃る手を止めず、淡々と答えた。
(市子は何もしないで待ってるだけなんて、そんな振る舞いはしないんだ。あいつは可能な限り頑張ろうとする)
昔、そのせいで小学校のとき、嫌なことになったんだけどな。
俺は鏡を見ながら、小学生の頃のことを思い出した。
あの頃の市子は、漫画の絵が上手くてクラスメイトに頼まれまくってた。
毎日絵を描くことをねだられて、最初は喜んでたけど、だんだん追い詰められてた。
それがほっとけなかったんだ。
あのときから分かってる。
市子は我慢強いけど、無理してでも頑張っちゃう奴なんだ。
だから、今だって何かしてるはずだ。俺に伝えるために。
髭を剃り終えて、ゼルノスが用意してくれた風呂で汗と疲れを流した。
新しい服に着替えて、気分がすっきりする。
準備が整ったところで、俺はデジカメを取り出して
「玲瓏ーッ!」
変身した。
召喚された聖戦士の鎧が俺の体を包み、意識が研ぎ澄まされる。
目を閉じて、念写に集中した。
「市子……どこにいるんだ? 無事か?」
頭の中に映像が浮かぶ。
薄暗い地下室。石造りの壁と鉄格子。
市子が膝を抱えて座ってる。
青いワンピースが少し汚れてるけど、怪我はなさそうだ。
手帳を握りしめて。
これは市子の現在の姿。
取り敢えずは無事なのか……?
次に俺は、市子が伝えたいと思っていることを念写する。
すると、市子が手帳に字を書いた場面の映像が浮かび上がった。
手帳のページが映し出された。そこに書かれていたのは……
「私の食事を配膳している人間の顔を念写して」
「マーシアハ教会の巫女はナラッカの疑いが濃い」
「私は大丈夫」
次の映像で、その横に別の字が書き足されてて、全然別の文章になってるのも確認する。
……偽装してるのか。
さすが、ウチの事務所の腕利きの助手様だ。
言われた通りに念写して。
情報を拾った。
まず、市子に食事を持って来た男を念写した。
そいつから、そいつの持ってる情報を引き出す。
すると……
予想通りだったけど、鈴木社長関連。
鈴木社長の持つ、地方の別荘だ。
住所も割れた。
そして天京光莉。
マーシアハ教会の巫女。
こいつはナラッカなのか……?
ちょっと前までは、社会的地位のある人間だから疑いは持たなかったが……
今は鈴木社長の例がある。
……例外はあるんだよ。
そして俺は
(天京光莉はナラッカなのか?)
そのテーマで念写し
『……ミユキ?』
タケルさんの声がした。
だけど、俺は応えられなかった。
天京光莉の正体は……法王バイル。
ノーブルクラスのあいつだ。
あいつは、マーシアハ教会の中枢では、その名で呼ばれていて。
そして……
俺はアイツの所業を全て見た。
人間体と、ナラッカの姿が一致したせいだろう。
あいつは……1才くらいの子供たちを……
次々と……
親の前で……!!
俺の脳裏に、子供たちの最後の言葉が情報として駆け巡る。
まま!
こわい!
かあかあ!
おばけいやあ!
皆、すぐ傍にいる母親に助けを求めてた。
でも母親はそんな我が子を庇わずに、喜んでバイルに差し出して……
誰にも助けてもらえずに、餌になるために生まれた子供たち。
こんな死に方、許せるかよ……!
絶対に許せない。
必ず討伐する……!
重ねた罪を絶対に償わせてやるぞ、クソ化け物が……!
『ミユキ、どうした?」』
タケルさんが戸惑いの入り混じった声で俺に声を掛けて来た。
俺は
(……悪い。ちょっととんでもないものが見えた)
何が見えたのかは言わなかった。
どうせ結果は変わらない。
言うべきことじゃない……
だけど
将軍ベルゼブを倒したら、次はお前だ法王バイル……!
……必ず地獄に送ってやる!!
子供を殺す話って、必殺でもあまりやんないんだよね。
エグ過ぎるから避けてるのかな。
読んでいただき感謝です。
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