第90話 私のヒーロー
★★★藍沢市子視点です★★★
小学生の頃の私の将来の夢は「漫画家」だった。
私は漫画の絵が上手かったんだ。
家でテレビを見て、人気漫画のキャラクターをノートに描いてるのが好きだった。
線を引くたびにワクワクして、色鉛筆で塗るたびに自分がすごい漫画家になった気分だった。
でも、それがある日クラスメイトにバレてしまったんだ。
休み時間に私が描いた「マコスネーカー」の絵を友達が見つけて
「すげえ! 市子、うまいじゃん!」
って騒ぎ出した。
私は褒められて気分が良かったから
「……マコスネーカーの絵をもう1枚描いてあげようか?」
そう、言ってしまって。
それが間違いで……
それから、毎日毎日、頼まれごとが始まった。
「市子、アユザー描いてよ!」
「吸血鬼ハンター舞のあのシーン描いてくれ!」
「マスクドライダーコックローチの変身ポーズ描いてくれよ!」
……人気漫画のヒーローやヒロインの絵をねだられるようになったんだ。
最初は嬉しかったよ。私の絵が認められたんだって、心が弾んだ。
放課後に友達の机にそっと置いて「どう?」って聞くと、笑顔で「最高!」って言ってくれるのが誇らしかった。
でも、だんだん様子が変わってきた。
頼む人が増えて、1日に何枚も描くようになった。
休み時間も昼休みも、放課後も、ずっと鉛筆を握ってた。
自由に遊ぶ時間がなくなって、家に帰っても宿題と絵で手一杯。
寝る時間まで削られて、疲れが溜まっていった。
それでも我慢してたんだけど、あるときリテイクまで出されるようになった。
「マコスネーカーの目はもっと鋭くして」
「舞の髪、もっと長く描き直して」
「コックローチの足、もっとカッコよくしてよ」
って。描いても描いても「違う」って言われて、終わらない。
ノートが破れるくらい消しゴムをかけて、指が痛くなって、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
追い詰められてた。
私は気が弱くて「嫌だ」って言うのが苦手だった。
なんとかリテイクだけは勘弁してほしいって思って、勇気を振り絞ろうとした。
でも、そのときだ。
クラスのリーダー格の男の子に「加須山さんには描き直してあげたのに? 俺にはしてくれないの?」って言われた。
加須山さんはクラスの人気者で、私も彼女には何度も描き直してあげてた。
それを盾にされたら、何も言えなくなった。
私の気持ちなんて誰も見てくれなくて、ただ「描け、描け」って言われるだけ。
私は泣きそうだった。
病みそうだった。
毎晩、布団の中で「もう描きたくない」って呟いてたけど、朝になるとまた同じ繰り返し。
だけど
そのとき、御幸君が助けてくれた。
ある日、教室で私がリテイクの注文にうなだれてると、御幸君が突然立ち上がったんだ。
ちょっと不器用で、いつも静かな彼が、珍しく大きな声を出した。
「描いてもらっておいて、やり直せって何様なんだお前ら? お金でも払ったのか?」
みんなが一瞬黙った。御幸君は続ける。
「本来は人にものを頼むときはお金を払うんだよ。タダでやってもらえるなんてうまい話はないんだよ。市子が優しいからって、調子に乗るなよ」
その言葉に、クラスの空気が変わった。
みんなハッとした顔をして
「ごめん、市子」
「確かにそうだな」
って謝ってくれた。
リテイクを言う子もいなくなって、私はやっと解放された。
私のピンチを、御幸君が救ってくれたんだ。
あのときの感謝は、ずっと忘れない。
だから今回も、御幸君は必ず来てくれる。
私はそう信じてる。
だって、御幸君は私のヒーローだから。
牢屋の中で、私は膝を抱えたまま鞄から手帳を取り出した。
ペンを握って、ページを開く。そこに文字を書いた。
「私の食事を配膳している人間の顔を念写して」
「マーシアハ教会のあの巫女はナラッカの疑いが濃い」
「私は大丈夫」
そこまで書き終わった後、私は横に別の字を書き足した。
「食事はまずいけど我慢してる」
「教会の話はよく分からない」
「私は元気」
──全く別の文章になるように偽装した。
もしナラッカに見られても、これなら意味が分からないはず。
でも、御幸君なら念写で最初のシーンを見れるから。
絶対に分かる。
私は手帳を閉じて、胸に抱いた。
「早く来てね、御幸君。私は信じて待ってるよ」
冷たい牢屋の中で、私は目を閉じて、そう呟いた。
マコスネーカーは、頭部がキツネのベノスネーカーを想像していただけると。
(本作がKanon二次だったときに、そういうものを出したのです)
読んでいただき感謝です。
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