第52話 面白い話
「それは問題のヨウチューバー?」
傍で市子がマグカップでコーヒーを飲みながら訊いてくる。
俺は、ああ、って返して
「……なかなか聞き良くて、面白いな」
俺は別にオカルトマニアじゃないけど。
面白い。
声の感じに魅力があるんだよね。
無論、話も面白い。
『昔の日本では、お坊さんが精神科医の役割をしていたんですよ」
人の生き方に口を出す立場というのは、そういうことなんですね。
リスナーからの質問で、精神病に掛かって豹変した人が近所に居るんだという話が出て。
ブルル宮道が「だったら宗教関係者にお願いするのが確実かもしれませんね」なんて返しをしたんだ。
『えっ、宗教って』
『ブルルさんカルト?』
……コメントが流れていく。
するとブルルは
『別に私自身はそういうわけではないですよ。知り合いに居ますけどね』
にこやかに笑いながら
その流れで、さっきの坊さんの話をした。
そして
『昔だとそういう性格の豹変は、悪魔憑きって言われてたんですよね。なので、実際のエクソシストっていうものは、皆そういう精神病のスペシャリストなんですよ』
自信たっぷりに。
「へぇ、そうなんだ」
……コーヒーを飲みながら、市子は感心した声を出す。
その語り口に異常に説得力があったんだ。
だけど
『……違うぞ。それは決めつけだ』
俺の脳内で、タケルさんが鋭い言葉で否定する。
『あまりに強い人の念は、死んでもこの世に残るんだ。だから、本来の意味での悪魔祓いは実際に居る。僕は会ったこともあるしな』
(……そうなんだ)
知ってる人間にしてみれば、テキトーなことを言われると腹立つのは分かる気はする。
『ミユキ、君はどうだか知らないが……こういう、1例だけを根拠に全てを一元化するやり方は僕は好きではない』
……んん、確かにな。
なんかこの人、だから宗教関係者を頼るのは怖く無いんだ、って方向に話を持って行ってるしな。
『その手の相談ですごく頼れるのが……皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが……マーシアハ教会の牧師さんなんですよね』
マーシアハ教会……
家のポストに、布教ビラが入ってたことがある新興宗教だな。
教えへの入信を促す体験談に、確かに霊現象を解決して貰った、ってのが多かった気がする。
悪霊に苦しめられていた自分を、マーシアハ教会に救って貰えた、みたいな。
……嘘くせー、って思ってそのままゴミ箱に捨てたけどあのとき。
言われてみるとこの人、言葉巧みにそういう一般イメージを剥がしに行ってる気がするな。
この人自身は否定してるけどさ……
実際のところは、マーシアハ教会の信者なのかもしれないな。この人……
そして調査結果を報告書にまとめ。
依頼人の息子さんが夜な夜な親に黙って会いに行ってる人間は、人気ヨウチューバーのブルル宮道で。
息子さんは深夜の心霊オフ会に参加しているのが真相だったと報告。
ここから先は探偵の仕事じゃありませんので、あとは依頼人がなんとかしてくださいと言って来た。
報酬は1週間以内に振り込まれるという。
……終わった。
一仕事終えた後の飯は格別。
依頼人に報告を終えた帰り、行きつけの丼飯屋に入る。
昼飯だ。
ここ、値段手頃で美味しいんだよね。
「親父さん、親子丼頼む」
「あいよ」
カウンター席に座って、店主である親父さんに注文すると。
おや……? と思う。
割り箸がさ……箱に入ってんだよね。
前は箸立てに裸で立てて入れてあったのに。
今は黒い箸箱に入ってる。
……箸袋がついた状態で。
えっ、これって……?
「親父さん、なんで箸を変えたの?」
変化の理由が想像できなかったからそう訊ねると
親父さんは
「だいぶ悩んだんだけどね……ウチ、メイコ食堂のチェーンに入ることにしたんだわ」
俺の親子丼を作りながら、少し寂しそうな顔でそんなことを
メイコ食堂……?
あの、大手の……?
大手の傘下に入ると安心はあるが……
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