第20話 これからは
「いや、すごいね。メチャクチャ驚いたし、ちょっと興奮した」
……さっきまで怯えてたのに。
俺があっさり勝ったもんだから、目を輝かせて市子は少し早口でそんなことを。
「あれ、何なの? 人間じゃ無いんだよね?」
「……ナラッカという名前の、バケモンだよ。あれを見てビビってしまったヒトの魂を吸い取る、人間の天敵だ」
正直、説明はしたくなかったけどな。
でも、この状況では言わざるを得ない。
……これからの市子は、他人がマジモンの人外である可能性を考慮する人生を強いられるのか。
怖いだろうな……
今は、聖戦士である俺が、あっさりナラッカを倒すところを見て舞い上がってるみたいだけどさ。
本来は、そんなめでたいものじゃないんだよな。
人に化けた熊やライオンが、人間社会に潜んでるんだぞ?
詐欺師や強盗も怖いけど、奴らは変身能力が無いもんな。
おそらく危険度はそんなに違わないかもしれないけど、恐怖の度合いが違うだろ。
……魔道具ってやつ、欲しいよな。
特に「魔鈴」っての。
前にタケルさんが使ってた、周囲にナラッカがいるかどうか確実に分かるアイテム……
だから
(なぁタケルさん)
心で呼びかけると
『魔道具が欲しいのか? ……分かった。明日店の場所は教える』
俺の言わんとすることを察して、先回りするようにそんなことを。
(ありがとう。良く俺の考えていることが分かったね?)
『……君は最終的に自分さえ良ければそれで良いって人間ではない。そこだけは理解しているから、予想はつくさ』
……そんな立派なもんでは無いんだけど。
単に、市子が「表に化け物が人間のフリをしてウロウロしているかもしれない」という疑念で、外に出られなくなる事態を防ぎたいだけで。
照れ臭かったから、俺は頭の後ろ、首のあたりを軽く掻いた。
次の日。
事務所で新聞を読んでいると。
「おや?」
あの、問題のストーカー野郎・種田が、路上で死んでるのを発見されたという記事が新聞に載っていた。
小さい記事だったけど。
顔は知らんけど、名前が同姓同名だから多分そうだろ。
よくある名前でも無いしな。
記事によると「公園で倒れているところを発見され、病院に運ばれたが既に死亡していることが確認された」だと。
正直、何も可哀想だとは思わなかったけど……
(なぁ、タケルさん。ナラッカとの取引って実際はどうなんだ?)
俺はタケルさんに訊いたんだ。
あのナラッカ・バーレムは種田と契約を結んでいたかもしれない。
種田のために働いていたわけだし……
ナラッカと契約を結んだ場合、契約者の命がナラッカと連動するとか、そういうのあったりするんだろうか?
その手の話で、悪魔は召喚者に魂を売ることを求めるわけだしさ……
するとだ
『実際の悪魔……つまりナラッカとの契約は、契約者と結んだ約束を守る代わりに、こっちの世界への侵入を許可するというもので』
別にナラッカの命と契約者の命を一蓮托生にするというものではないらしい。
だからまぁ、俺がバーレムを倒したせいで死んだわけでは無いそうだ。
……仮に契約を結んでいたとしても。
その言葉に俺は少しだけ、ホッとした。
……人殺しは嫌だしな。
ここで第2章は終了です。
次回から第3章。
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