第19話 大丈夫だ市子
「キッ、キサマッ! 聖戦士だったのかッ!?」
バーレムはパニックを起こしているようだった。
自分が狩る側だと思ってたのかね。
……残念だったな。
まぁ、全く予想してなかったんだけどな。
とりあえず
「市子、下がってろ」
タケルさん曰く、ナラッカが人間からプシュケーを吸い取るには、獲物の「恐れ」と「接触」が要るらしい。
だから、触られなければ市子は殺されない。
だけど市子は
「まっ、まさかアレと戦うの御幸君!? 無理でしょ!? 逃げよう!」
激しく動揺してる。
……キッチリ恐れてて、今アイツに触られたら市子は終わるな。
俺は
「大丈夫だ市子」
手で彼女を制し
「勝つから」
そう言い置いて俺は立ち向かう。
三つ首の怪物に。
「おのれ小癪な! 返り討ちにしてやるッ!」
「聖戦士など、恐れるに足りんわ!」
「どの頭が本体か分からんだろう!?」
……3つの首が代わる代わる喋る。
えっと
そこでタケルさんから解説が入った。
『バーレムは3つある頭のうち、1つが本物で、その位置は個体ごとにバラバラだ。本物以外の頭は人間で言えば手にあたる』
なるほど……
バーレムの頭を殴っても、それが本物じゃ無ければ頭部への攻撃じゃなくて、手を殴りつけたのと大差ないダメージなわけか。
それはマズいな。
俺は3つの頭を見る。
うち、1つが青い稲光を発した。
右腕だった位置の、竜の頭が。
俺は突っ込む。
……脳があるから、本物なんだよな。
一瞬後、本物の頭以外が吹雪のブレスを吐き掛けて来る。
輝く凍結ブレスが俺の居たところを凍てつかせるけど、俺は本物の頭に突っ込んでいたため当たらない。
本物の頭に接近した俺は、左鉤突き、右アッパーを叩き込む。
こいつには関節技を掛けられないから、しょうがない。
剛の技で攻めるしか
「グアッ!」
怯むバーレム。
俺は
「……何故ストーカー野郎の手助けをした? 金が目的か?」
一応、訊ねておく。
このまま一方的に倒すだけでは何も分からないしな。
俺の言葉にバーレムは
「……所謂悪人の望みを叶えてやれば、世の中が乱れる……!」
「乱してどうする?」
俺は逃げようと動く本物の頭に追い縋り、さらに突きを打ち込もうとしたが
「……知れたことだろ!」
そこでバーレムの勝ち誇った声。
「この国を地獄に変えて、天魔王陛下にお越しいただくに相応しくするんだよッ!」
また、天魔王か……
不安が搔き立てられるけど、具体的にどうすればいいのかが浮かばない……
……なっと!
俺は思い切り横っ飛びに跳躍した。
そこに浴びせられる吹雪のブレス。
……残りの頭が背後から、俺を狙っていたんだ。
さっきの話はこのための囮だったというわけか。
まぁ、俺には決断が見えるから、効果は薄いけどな。
「御幸君!」
俺がブレスを浴びそうになったから、市子から悲鳴に似た叫びが上がった。
大丈夫だ。
躱されたブレスは、そのままバーレムの本物の頭を直撃する。
だが
「うわっ!」
驚愕するだけで、ダメージを受けている風ではない。
ひょっとしたら冷気に耐性があるのかもしれないな。
……まあ、関係無いけど
俺が跳んだ先。
そこにはバーレムの胴体があった。
……頭は3つあっても、ボディは1つなんだよな!
俺はバーレムの正中線上に、拳を連続で叩きこみ
「アガアアアアア!」
バーレムの悲鳴を聞きつつ、最後にその腹に思い切り蹴り込みを入れた。
「グオオオオオ……」
数歩、退き。
動きが止まる。
……今だ!
俺は胸の結晶に意識を集中する。
……俺の事務所に依頼にやってきたあの人……日向さんを想像して。
高まるエネルギー。
ナラッカを討伐する意志……!
『やれ! ミユキ!』
タケルさんの声。
俺は心で頷いて
「メギドブラスト!」
宣言と共に。
胸の結晶から、ナラッカを滅殺する紫光の槍を撃ち出した。
それはバーレムの胴体を貫いて
大きな風穴を開かせる。
アア……アアアーッ!!
その瞬間、ナラッカの絶叫が響き渡り
大穴の空いた胴体がガクリと膝を突き
倒れ……
爆発した。
光はあるが、衝撃の無い爆発。
何が爆発しているのか良く分からないけど……
俺は変身を解除し
「……な? 勝っただろ?」
後ろで俺を見守っていた市子にそう告げて、被っていた愛用の帽子を被り直した。
これでヒロインにもナラッカを説明しなきゃならなくなったね。
読んでいただき感謝です。
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