第15話 聖戦士の掟
『良いわけがない。ナラッカの存在は、弱き人々には伏せられるべきだ』
即座にタケルさんの否定の言葉が来た。
それはまあ、予想してる。
だから
(ナラッカのことを伏せたまま、聖戦士の力を明かすことはできるだろ)
別に俺の聖戦士の力は、ナラッカの説明をしないと理解できないわけじゃない。
決断のときに出る電気信号の余波が見えるとか、動きを注視するとスロウになるとか、写真記憶とか。
実演して見せればいいだけだ。
『それはそうだが……何のために明かすんだ?』
タケルさんは困惑してて、俺はそこに
(カメラ由来の能力についての可能性だよ)
答える。
……俺は、成り行きと自分の思いつきで
限定的な読心
超動体視力
写真記憶
3つ、認識してモノにしたけど。
市子に能力の内容を明かせば、もっと増えるかもしれないだろ。
俺と違う発想で考えるわけだし。
そして。
俺は、市子だったら秘密を守ってくれると信じている。
『能力を増やしたいのは……この事件が分からなくなったからか?』
俺の説明に、タケルさんがそう訊ね
俺は
(ああ)
心で頷いた。
……目の前に、理不尽に晒されて苦しんでいる女性がいるのに。
救える力を持ちながら、救わない。
そんなの……おかしいだろ。
俺はそう思うんだ。
だけど……
『僕が死ぬ羽目になったのは、上位ナラッカ・将軍ベルゼブの見ている前で、戦いに紛れ込んで来た幼い少年を庇ってしまったからだ。ベルゼブを倒すことを投げ出して』
タケルさんは、自分が戦死するまでの経緯を語る。
『そのせいで、僕は弱き人々を人質に取れば、攻略が容易な聖戦士であると見做され、現実負けた』
……なるほど。
一般人にも分かるように言うなら、テロリストとは取引をしない。
そんな感じだろうか?
それは1回取引してしまうと、取引目的の犯罪を誘発するから。
人質だとか、破壊活動だとか。
これに通じるものがあるのかもしれないな。
『僕と同じ失敗だけはするな……いいな?』
俺は心で頷く。
分かった。
聖戦士の戦いに影響が出るようなことはしないさ。
「なぁ市子」
ちょっと唐突だな、と思いつつ
呼びかける。
「なあに御幸君?」
彼女はコーヒーの入ったマグカップを持ったまま振り返る。
インスタントコーヒーを淹れに行っていたのだ。
俺はそんな彼女に
「……実は、ひょんなことからスーパーヒーローに変身する能力を身に着けたんだよ。俺」
そういう言い方をした。
するとまあ、予想はしてたけど
「……はぁ?」
何言ってんの?
エイプリルフールはもう過ぎたわよ。
そう言いたげな顔で俺を見た。
……当たり前だよな。
だからまぁ
俺はそれ以上説明はせずに
胸ポケットから仕事道具の愛用デジカメを取り出し
「玲瓏」
変身ワードを口にし。
聖戦士の鎧を召喚。
輝きの中。
市子の目の前で、俺は聖戦士の姿に変身したんだ。
果たして能力は増えるのか?
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