第132話 天魔王神宮
国会議事堂の隣に、新たなランドマークが誕生していた。
天魔王神宮。
令和の世に、何百年ぶりかの神宮だ。
神宮ってのは神社の最高峰。
主に国として重大な意味合いがある神社にだけ与えられる称号なんだ。
この国は、ナラッカを神として祀るために、神宮を建立したんだよ。
国の本気度が伺えるってもんだろ。
鳥居をくぐり、石の参道を歩くと、奥に拝殿兼本殿が見える。
そこは、ナラッカの帝王シャイタンの「家」だ。
見た目は和風。
旧家の金持ちの屋敷って感じだ。
俺──瀬名御幸は、シャイタンに会うためにここに来たんだ。
神宮の境内は、意外と賑やかだ。
社務所では、巫女さんや神主さんがシャイタンのグッズをお守り感覚で売ってる。
シャイタンのミニフィギュアとか、団扇とか、クリアファイルとか。
あと、一応お守りも。
形式としては「お布施の見返り」らしいな。
売ってるって言ったらいかんらしい。
値札ついてるんだけどな。
多分、値札に見えるのは気のせいなんだ。
……どうみてもシャイタン様の公式ファングッズなんだが、それも気のせい。
参拝客が集まってる区画がある。
そこに向かうと、箒を持った金髪の美少女が掃き掃除していた。
白いセーラー服に、赤い瞳。
ナラッカの帝王、シャイタンだ。
「おお、ミユキよ。しばらくではないか」
シャイタンが手を止めて、ニッコリ笑う。
彼女を取り巻いて、写真を要望していた人々が、空気を読んだのか道を開けた。
俺はそれを横目で見ながら
「よお、シャイタン。調子はどうだ?」
俺が笑みを浮かべながらそう訊く。
それを目にして周囲の人間が「シャイタン様にタメ口って」「あの男、何者よ?」コソコソと何か言ってる。
まぁ、異様には見えるかもしれんよな。
そしてそれに応え、シャイタンは胸を張ってこう返す。
「今日も非常に快適だぞ! 一向に腹が減らん! 素晴らしい!」
シャイタンは戦いの後、自分の臣民に「人喰い禁止令」を出した。
さらに、この国の政府に「我々を神族に加えてくれ」と要求。
そしてついでに
「SNSで我の名を出して他人を脅す道具にするのは迷惑だ」
「民事不介入だ」
……とキッパリ言った。
その結果、魔女狩りみたいな風潮が収まっていった。
ナラッカが日本の神様の一種になるなんて、誰が想像したよ?
天津神、国津神、ナラッカ。
3つ目だけ名前がなんか変だけどな。
そんなことを考えてると、女子高生数人がドーナツの箱を持って駆け寄ってきた。
「シャイタン様、献上致します!」
「うむ、ありがたく受け取る!」
……大手ドーナツチェーンのオールドファッションだった。
老舗では無いんだ。
だがシャイタンは文句を言わず、箱を開けてドーナツを口にし、満足げに頷く。
……食べるんだ。
それ、1個100円くらいだった気がするけど。
「これは口当たりが最高に良いな!」
「ありがとうございます!」
女子高生たちは頭を下げて去って行った。
一瞬、この女子高生たち、ナラッカなんじゃ? って思ったけど、違うらしい。
シャイタン曰く「空腹を癒しに来るナラッカもいるが、ただの人間も多い」とか。
空になったドーナツの箱をゴミ箱に放り込むシャイタンの後ろで、今度は白人数人とアジア人のグループがお菓子持参で登場。
白人の持ってきたのは、極彩色のクリームケーキ。
アジア人の持ってきたのは、月餅。
(月餅って……確か中国のお菓子だよな?)
俺の頭に、チラッと嫌な予感が過る。
……これ、外国勢力がシャイタンを引き抜こうとしてるんじゃないのか?
作り笑いを保ちつつ、俺はグループをチラチラ観察。
白人はどこの国の奴らだ……?
極彩色のケーキはなんかアメリカっぽくはあるけど。
月餅の方は間違いない。包み紙に中国語が書かれてる。
「シャイタン様、是非ご賞味下さい」
……すごく流暢な日本語で、アジア人風のその背広の男は月餅を差し出す。
ゾッとした。
こいつら、本気で落としに来てる、って。
するとシャイタンは
「シェーシェーニンダニンウー」
……は?
聞き取れなかったけど、なんとなく中国語っぽい言葉で返したんだ。
そして白人には
「スパシーバザパダラ」
……こっちは全然分からん。
何語だ?
……ただ、1つ分かったのは。
ナラッカは多分、特殊能力で言語の壁のようなもんが無いんだということ。
でないとこれは説明がつかない気がする。
思えば、1万年も人類と隔絶してて、こっちに来ていきなりシャイタンが日本語を喋れたのもおかしいしな。
贈り物を差し出して来た男たちは、ギョッとしていた。
母国語で返して来るとは思っていなかったのか。
だがシャイタンはそんな男たちを他所に
そのままお菓子を受け取り、その場で食し
「うむ。美味い」
笑顔になっていた。
裏設定で、ナラッカは相手の言葉を外に出力しようという意志を感じ取り、意味を理解し。
同時に言葉を発するときに、実は発声していないというのがあります。
読んでいただき感謝です。
ここまでの物語が面白いと思って下さった方、是非評価、ブクマ、感想等をお願い致します。
(反響を実感できるのは書き手の喜びです)