第114話 大いなる気づき
★★★闇闘士ゼイモン視点です★★★
ドカンッ!
事務所のドアが吹き飛んで、2人のナラッカと1人の中年女が入ってきた。
2人のナラッカはアスモス……その外見は牛の顔、羊の角、そして鳥の翼と蛇の尻尾を持つ怪人。
人間の考える悪魔のイメージにかなり近い連中だ。
人間の恋愛感情の機微に強いだけで、あとは少々腕っぷしが強いだけのノーマルクラス。
そして中年女は
見たことある顔だった。
三波さんを精神的に追い込んで退職させた挙句、再就職の邪魔をし続けたクズ女だ。
その理由がイカれてて「三波さんが美人だったので憎かった」だったな。
女は醜い笑顔を浮かべて
「あの女と弁護士が悪人です! 裁いて下さい!」
どうも女がナラッカ2人に嘘を吹き込んで、僕と三波を殺そうとしてるらしい。
……弁護士が悪を助ける偽善者で、悪魔の手先と考える人間は少なくない。
その関係でこの2人のアスモスたちは騙されたのか。
……馬鹿どもがッ!
「法を悪用シ、無実の人間ヲ苦しメタ罪を償うがイい!」
その2人はそれぞれ、僕と三波さんを襲おうとする。
……三波さんが恐怖で動けなくなりながら、僕を見て叫んだ。
「先生逃げて下さい!」
……彼女は自分を助けてくれた僕に、受けた恩を返したい。
給料は安くても良いから雇って欲しいと言って来て。
ずっと、僕に尽くしてくれる大事な人なんだ。
……見過ごせるわけがない。
だから
「お前たち僕を誰だと思っている?」
……決断したんだ。
僕は人間変身を解き、正体を現した。
黒岡修吾のスーツ姿から、闇闘士ゼイモンの黒い姿へ。
即座に加速を使用した。
三波さんを襲おうとした奴の背後まで1000倍速度で駆け寄って、そこで思い切りの裏拳を頭に叩き込んだ。
その威力でそのアスモスがぶっ飛び。壁に叩きつけられた。
そこでようやく、アスモス2人は僕の正体に気づいたらしい。
「ヒイイイ、ゼイモン様でしタカ! 申し訳ござイマせんデシた!」
2人は僕の名を叫んで怯え、非礼を詫びて。
逃げて行った。
……ナラッカ同士は基本的に人間体の情報が共有されていない。
ノーブルクラスはメンバーの人間体の情報は知っているが、ノーマルクラスは自分の主人のノーブルクラスの人間体が誰であるかくらいしか知らないんだ。
その理由は情報漏洩対策。
聖戦士に追い詰められたとき、命惜しさに仲間を売ってしまう者が出ることを恐れてのことだ。
……でも、今回はそれが裏目に出たみたいだな。
正体を現さざるを得なくなった。
僕がナラッカだってバレてしまった。
弁護士になるために相当勉強したのに、残念だよ。
もう、弁護士はやれないな。
……何故って、三波さんがここから去ることはもう確定してしまったのだから。
彼女のいないこの事務所で、弁護士をするのはもう悲し過ぎる。
そこに
「ひいいい! コイツもナラッカだなんて聞いてない!」
……僕の傍で、クソ人間が喚いている。
こいつが、筋違いの恨みを爆発させ、ナラッカを丸め込んで襲撃を掛けて来なければこうはならなかった。
……殺すか。
コイツは生かしておく価値が無い人間だ。
ちょうど、腹も減っているしな。
そう思いつつ、僕は問題のその先輩社員に目を向け。
プシュケーを吸って殺してやろうと手を伸ばした瞬間──
「……ん?」
急に、空腹が消えたんだ。
プシュケーを摂取してないのにだ。
……何でだ?
戸惑っていると。
「先生、実はナラッカだったんですね」
……穏やかで、敬意に満ちた声がする。
見ると、三波さんが僕に変わらない親愛の目を向けていた。
一体何故……?
わけがわからなかった。
だから僕はナラッカの姿のまま、彼女に訊いた。
「僕はナラッカだよ? しかも上位のナラッカ。いわば大悪魔だ」
怖く無いのか?
その意味で訊ねた。
だけど彼女は
ゆっくりと首を左右に振り。
こう言った。
「先生はずっと、私にとっては神様なんです」
神様……?
そこで僕の中に閃きがあった。
……ひょっとして……
僕らナラッカは、真の姿で神のように扱われると、空腹が消えるのでは……?
プシュケーを摂取しなくても、飢えが癒されるのでは……?
これは……
とんでもないことだ。
ひょっとしたら、僕が悩んでいたことが一気に解決する大発見かもしれない。
……陛下に。
陛下に拝謁し、直ちにこのことをお伝えしないと!
共存の可能性。
これにて第10章は終了。
次回から第11章です。
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