第11話 そして日常業務
間男ナラッカ・アスモスを倒して1週間くらい経った。
アスモスは不穏なことを言ってたけどさ。
なんでも「天魔王」とかいう存在をこっちの世界に呼び込むとかなんとか。
タケルさんに確認すると、天魔王はナラッカの帝王で、魔界に引っ込んでからこれまで。
一度もこっちに召喚されたことが無いそうで。
その下に控えている上位のナラッカの強さを考えるに、もし召喚されたらこの世界の帝王は確実に天魔王になるらしい。
おそらく誰も倒すことはできないだろう、と。
……とんでもない話だけど。
だからどうしろと?
俺には俺の生活があるから、あてもなく動く余裕は無いんだ。
「んで、ストーカーを調べて欲しいんですね?」
「はい」
事務所にお客さん。
俺がメモを取りつつ、ローテーブルとソファという典型的応接セットで応対する。
市子はパソコンに向かって、同時進行で議事録を書いてくれている。
何でもこのお客さん、婚活パーティーで出会った男にストーキングされているらしいんだわ。
まぁ、言っちゃなんだが
されてもおかしくないかな。
お客さん……日向華さんは普通に美人だった。
年齢は20代後半くらいで、手入れの行き届いたロングヘア。
顔つきはやや童顔入ってるけど、大人の女性の風格はある。
でまあ、スタイルも良い。
……説得力はあるわ。
彼女は茶色の女性用スーツ姿で、目の前のソファに座って。
語ってくれた。
「婚活パーティーで出会ったときは問題ない人に見えたんですけど」
付き合い始めたら、徐々に束縛が酷くなり。
最終的に「僕が君の付き合う相手を選別するから知人のデータを全部出して」と言ってきて。
もう限界だと思ったので別れを切り出したら
デート代を返せだの、プレゼント代を返せだの言ってきて。
彼女は貯金を下ろし、それも叩き返した。
こんな異常な人とは今後一切関わり合いになりたくない、と思った一心だ。
そしたら……
家に猫の死骸が投げ込まれたり、職場に自分を名指しで変な勧誘の電話が掛かって来たり。
……駅の階段から突き落とされそうになったり。
どれもこれも犯人が分からないので、警察に言ってもせいぜい防犯方法のアドバイスだったり、パトロールの重点化くらいで。
被害届が出せない。
どうしようもなくて、毎日が恐ろしくてたまらない。
だから犯人を捜して欲しい。
そういう依頼だった。
……申し訳ないけどさ。
キターッ! って思ったよ。
絶対に証拠を集めて犯人を突き止めて、警察に突き出してこの依頼人を安心させてやる。
こういう仕事をするために、俺は探偵になったのだから。
そう、俺は決意した。
しかし
『……男の風上にも置けない男だな。自分のものにならないと理解したら、女性を破滅させようとするなんて』
俺の脳内で一緒に話を聞いていたタケルさんは、そんな俺とは対照的に。
普通に怒ってた。
……まぁこの人。
聖戦士の掟を破って弱いものを守ることを忘れなかったから。
それが原因で、命を落としてしまったような人だしな。
こういうの、普通に「許せない」で終わるよな。
主人公には表の仕事がある。
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