第105話 天魔王降臨
『本当にご苦労であった。我はそなたのような家臣を持てて幸せである。……無理をするな』
会議室に響き渡る少女の声。
厳かで、どこか優しげだ。
その言葉に続いて
『解き放て』
「……解き放つ?」
何をだ?
俺は一瞬、戸惑った。
必死で頭を回す。
何をだ……?
何を解き放つって言うんだ?
だが
「……承知致しました、陛下」
バイルのその言葉で、俺は理解した。
その言葉に、覚悟を感じたからだ
(こいつ……天魔王シャイタンを召喚するつもりだ……!)
何!?
何でだ!?
市子に子を産ませて、その子のプシュケーを集めないと完全召喚は無理じゃなかったのか!?
だが、その疑問に答える間もなく、バイルが動き出した。
「&%$▼&#%〇★%#……」
表現しがたい発音で、何か呪文のようなものを唱え始めたんだ。
「瀬名さん! 今すぐバイルを殺してください!」
「そいつ、天魔王召喚の呪文を唱えてます!」
ガルザムとゼルノスの緊迫した声が同時に響いた。
その言葉で、俺の予想が正しかったことを確信し
「させるか!」
俺はメギドセイバーを振り上げ、バイルの首を一閃で刎ねた。
吹っ飛ぶ首。青黒い血が床に飛び散る。
だが──
その首は転がった後、宙に浮かび上がり
「&%$〇&#%&%$◇&……」
途切れずに呪文を唱え続けたんだ。
「まずい! このままでは詠唱が終わってしまう!」
ゼルノスが弓を引き絞り、紫色の炎の矢をその首に撃ち込もうとした。
……だが、一瞬遅かった。
「……&$&#!」
最後の一節と思える呪文を唱え終えた瞬間、バイルの生首が塵になって消滅したんだ。
そしてその場に、巨大なエネルギーの球が形成され始める。
「……これは!」
おそらく、バイルが今まで溜め込んだプシュケーと……そして、バイル自身の命のエネルギー。
その球の中央部に、ポツンと小さなものが出現した。
それがみるみる大きくなり、成長していく。
それは最初は赤ん坊の姿で。
エネルギー球から力を吸収し、急激に育っていく。
成長段階で、赤ん坊が女であることが分かった。
そして、人間年齢16才前後で成長が止まり、次に背中に純白の白鳥のような翼が形成され始めた。
「現状のエネルギーで、強引に召喚をしようというのか!?」
「させるわけには!」
ガルザムが蛇腹剣を、ゼルノスがメギドブラストの矢をエネルギー球に叩き込んだ。
だが、全て弾かれる。
「くそっ! あれはバリアか!?」
あの球は天魔王シャイタン降臨に必要なエネルギーであると同時に、守りの壁でもあるらしい。
(2人じゃ無理でも、俺のメギドセイバーならどうだ……?)
俺はそこに気づき、跳躍した。
エネルギー球の中で降臨しつつあるシャイタンに斬りかかる。
だが、一瞬早く──
球が破裂した。
孵ったのだ。帝王の卵が。
破水をイメージする水音を立て、球の中から帝王は飛び立った。
俺の一撃は空を切る。
シャイタンは俺の攻撃を回避したんだ。
シャイタンがその姿を現した。
1万年ぶりにこの世界に帰還したナラッカの帝王──天魔王シャイタン。
その姿は、以前見たメギドによく似ていた。
贅肉の全くない均整の取れた少女の身体に、大人びた美少女の顔。
長い髪。
だが、それはメギドの黒髪とは対照的に、白髪。
そして背中には6枚の純白の翼。
「……これが……ナラッカの帝王……!」
俺は息を呑んだ。
「……バイルよ……そなたの忠義、我は忘れぬ。よくやった」
シャイタンが優しく微笑みつつ、そう呟く。
そして、俺たちを見下ろした。
「……平伏せよ。帝王の帰還であるぞ」
その声は静かだが、圧倒的な威圧感が会議室を満たした。
市子が「御幸君……!」と小さく叫び、ガルザムとゼルノスが武器を構え直す。
「不完全な召喚だとしても……この威圧感」
俺はメギドセイバーの手刀を構え直した。
こいつはベルゼブやバイルとは比べ物にならない。
だが、逃げるつもりはない。
いや、おそらく……
逃げられない……!
目を見れば分かる。
コイツは自分の家臣を死に追いやった俺たちに、明らかに敵意を向けている……!
「天魔王シャイタン……! 俺たちが相手だ!」
そう言って俺はシャイタンを見据え、一歩前に出た。
法王バイル、主君を召喚して散る。
ここで第9章は終了。
次回から第10章です。
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