第103話 お前はただでは倒さない
とうとう法王バイルを追い詰めた。
会議室の中央で、紫色の髪をした美しい教団の巫女……天京光莉の姿をしたものが、驚愕で目を見開き、動けなくなっている。
何でだ? って顔だ。
秘密でこっそり東京支部に戻った瞬間に、狙い澄ましたように聖戦士の襲撃が来た理由が分からないらしい。
ざまあみろ。
俺は心の中で呟いた。
このときを待ってた。
この瞬間のために、聖戦士の組織を総動員して、東京支部だけを無力化させたんだ。
他の信者たちは今、危なすぎてとても表に出せない専用の魔道具──人を一瞬で眠らせたり、記憶を改竄したりするえげつない道具類で強引に黙らせてる。
場所がこの東京支部に限定されてるからこそできる力業だ。
脳裏に、こいつのせいでプシュケーを奪われ、殺された幼い子供たちの最期の泣き顔が浮かんだ。
「まま」
「おかあさん」
「かあかあ」
幼い言葉で母親に助けを求め、叫ぶ声が、頭の中で響き続ける。
同時に、凄まじい憎悪と殺意が吹き上がってきた。
胸が熱くなって、どす黒い力が噴き出して来る。
……お前だけはただでは倒さない。
やったことを思い知ってから、死んで行け……!
「……全部バレてんだよ。ネタバラシは地獄でベルゼブ相手に聞いてみろ。2匹で考えれば分かるかもな」
念写のことは絶対にバラさない。
万一を考えれば当然だ。
俺の仕事の探偵業で学んだこと──油断は破滅を招く。
浮気調査で見た事例が頭に残ってる。
配偶者の能力を舐めて、どうせ気づくまいと言わなくていいことを言い。
そのせいで気づかれて破滅した。
そんな調査対象がいた。
俺はあの馬鹿野郎と同じ轍は踏まない。
こいつがどうやって罠に嵌ったのか、知る必要はないんだ。
それを知るのは地獄に行ってからで十分だ。
「何が地獄ですか! くだらない人間の分際で!」
そこで法王バイルが叫んだ。
最後のあがきで見苦しく惚けることはしないらしい。
ここまで追い込まれたら無駄だと自覚してるのか、正体を隠さず現した。
その輪郭が黒く染まり、美しい女の姿から、異形の醜い姿に変異する。
……猫とヒキガエルの中間みたいな悍ましい姿。
猫の毛皮を持ったヒキガエル。
飛び出した目と、異様に大きな口。
それが法王バイルの真の姿だ。
「ノーブルクラスを舐めるなッ!」
一撃を入れて逃げる気か、早速棘の生えた舌を伸ばしてきた。
それでぶっ叩こうとする速い動き。
だが──
ヒュン、とすかさず
ガルザムの蛇腹剣がそれを阻止した。
鞭のような鋭い刃が舌を斬りつけ、青黒い血が飛び散る。
「ギエエエエエエ!!」
悲鳴が会議室に響いた。ガルザムの聖戦士としての能力が、完璧に発揮された瞬間だ。
今、バイルは凄まじい痛みを感じている。
だけど、バイルはそこで戦意を喪失しなかった。
猫と蛙の中間みたいな、爪のある蛙に似た手を俺たちに向けて、稲妻を放ってきたんだ。
バチバチと音を立てて放射される電撃。
広範囲に及ぶその電撃放射が会議室を照らす。
だけど、牽制だ。
市子を巻き込まないための小細工だろう。
奴は出入り口に向けて跳躍した。
この隙に逃げる気だ。だが──
そこにゼルノスのメギドブラストの矢が複数飛来し、バイルの足を貫いたんだ。
「グエッ!」
撃ち落とされたバイルが、床に倒れた。
そこで俺は駆け寄り、バイルの腹を思い切り踏みつける。
ゴリッと骨が軋む音がする。
右手にメギドセイバーを発動させながら。
紫色に輝く手刀……!
「勝負ありだ。腐った化け物」
そして俺は法王バイルに、その死を宣告したんだ。
追い詰められた法王バイルは……?
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