第102話 全ての罪を懺悔しろ
★★★法王バイル視点です★★★
ワタクシは秘密裏に車を出して、隠れ家からマーシアハ教会の東京支部へと向かいました。
普段使っている高級車は目立つから使わず、大衆車に乗り、それを途中で何度か乗り換え、最後は徒歩で支部の裏口に滑り込みました。
「巫女様。お忙しいところ申し訳ありません」
そこで出迎えた信者が、恐縮した声でワタクシに頭を下げてきます。
「……構いません」
ワタクシは穏やかに答えました。
信者たちにはワタクシは今、大祈祷のために秘密の場所で神に祈りを捧げていることになっています。
どうしても連絡を取りたい場合は、飛ばし携帯に連絡を入れろと厳命していたのですが……
そのおかげで、こうしてチャンスを拾えました。
この行為は確かに危ないです。
そこは間違いありません。
聖戦士に見つかるリスクがあるから。
ですが、その小さなリスクでこのチャンスを逃すわけにはいきませんから……!
この1万年の悲願──陛下を、天魔王陛下の召喚。
その実現を……!
会議室に向かう廊下を、信者と2人で歩きながら
「よくぞ知らせてくれました。藍沢市子は神に愛されし女なのですよ」
ワタクシはその信者を労います。
ですが
「……あんなのが!?」
信者が信じられないという顔でそう言いました。
困惑があります。
ワタクシは内心でほくそ笑みました。
……この信者には真実など分からないわけだから、そうなるのが自然です。
ワタクシは
「驚くのも無理はありませんね。彼女は、藍沢市子は東京支部のホールで暴れ回り、たいがーやの羊羹だの、14才の男の子との結婚だのと喚き散らしていたそうですね」
信者が大きく頷き
「そんな下品な女が神に愛されし者なんですか?」
そう訊いてきます。
ワタクシは微笑を深めました。
「ええ。彼女は選ばれし者なのです。魂が底辺に居るからこそ、全てを救う資格を持つ。神の世界を簡単に考えてはいけないのです」
信者はドン引きした顔で黙り込んでいましたが、異議は唱えません。
この男はワタクシに心酔しているから、私の言うことを疑わないのです。
だから自分が理解できない何かの理由があるのだろう。
そう思い、強引に納得しているのですよ。
ワタクシは心の中で嘲笑います。
くだらない生き物め。
しかし……
お陰でこれでもう、この世界はナラッカのものですよ……!
そして会議室に到着しました。
でも、まだ市子は来ていないようで。
「彼女を連れてきます」
信者がそう言って退室していきます。
1人残されたワタクシは会議室の椅子に腰かけます。
静かな部屋の中、ワタクシは1人
「……陛下。もう1年程度お待ちください。……いよいよです」
そう、呟きました。
陛下の召喚が目前に迫っているのです。
この1万年の悲願が報われる瞬間が、すぐそこまで来ているのです……!
そのとき、ドアが開く音がしました。
ワタクシは顔を上げます。
ボブカットワンピースの綺麗な女……藍沢市子が入ってきたのです。
ですが、連れてきたのはさっきの高位の信者ではありませんでした。
男性信者1人と、背の低い女性信者、そして高身長の女性信者です。
3人とも制服の法衣を着ていましたが、フードで顔がよく見えません。
(……誰でしょうか?)
訝しく思いました。
何故同じ信者が連れて来なかったのか?
ワタクシに心酔している者の行動ではないのですが……
だが、今は市子が目の前にいることが重要です。
ワタクシは天京光莉の顔で、優雅に微笑みかけました。
「よくぞ決断してくれましたね」
ワタクシはこちらの味方になった彼女に、与える待遇を考えながら席を立って一歩近づき……
そのときでした
「玲瓏ーッ!」
市子を連れて来た3人の信者たちが一斉に輝きを放ったのです。
光が弾け、輝きの中から現れる3人の聖戦士……!
紫色。
青色。
そして赤……!
「……何ッ!?」
ワタクシは動けませんでした。
何故ここに、聖戦士が……!?
確か、念のため市子が通信機器を持っていないかを確かめさせたハズ……!?
来る前に、一応そういう指示を出したのですよ……?
そこで「そんなものは持っていませんでした」と確かに、確かに言われたのに……!?
一体、何故……!?
どうしてここに、聖戦士が居るの!?
まるでこっちの行動が全て筒抜けみたいじゃない……!
そして
「……お前の全ての罪を思い出し、懺悔しながら死んで行け」
驚愕に縛られるワタクシに。
紫色の聖戦士が底冷えのする声でそのとき。
ワタクシに言ったのです……!
処刑の時間だ。
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