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第二話 過去と女装の理由

現キルクバーム国王には昔、一つ年下のとても優秀な弟がいた。当時王太子であった現キルクバーム国王は自身よりも次期国王としての素質がある弟を疎ましく思い、やがて自身を脅かす脅威として認識した。現キルクバーム国王は自身の立場を守る為、金で暗殺者を雇い弟を事故に見せかけ暗殺した。自身を脅かす弟を暗殺した事が露見しなかった為に現キルクバーム国王は慢心し、やがて堕落していった。その結果、現国王は酒と女に溺れ、キルクバーム王国の国庫を浪費し、逆らう者は次々と処断して行った。現在のキルクバーム王国は滅亡の一歩手前なのである。


 しかし、国王が暗殺者を雇い弟を殺した事を知っている人物が一人だけいた。それはキルクバーム王国の現宰相メーアルア公爵である。


 宰相は当時、王太子の側近兼友人として現キルクバーム国王に仕えていた。国王としての素質がお世辞にもあるとは言い難い王太子に友情はあれど忠誠心などと言うものは元より抱いてはいなかった。だがいつも通り現国王の補佐をしていたある日、現国王が弟である第二王子を暗殺した証拠となる契約書を発見した宰相は国の現状も相まって現国王を見限り、国を建て直す為の謀反を企てる事を決めた。


 そんな時、伯爵令嬢である従妹がある一人の()()()を連れて自身の屋敷へと訪れた。従妹は第二王子の婚約者でもあった為、第二王子が亡くなってからは塞ぎ込み領地で静養していると聞いていた。そんな従妹が子供を連れて自身のいる王都にきた事に疑問を抱きつつも長く静養していた従妹と再会した。そして従妹が第二王子の生前、婚前交渉により第二王子との子供を妊娠していた。当然、婚前交渉は良くない事なのだが………。その事実を聞かされた宰相は驚愕したのと同時に一つの考えを思い付く。それは第二王子の子を育て、本人の意思と素質があったならばこの子を旗頭にクーデターを起こすというものである。もちろん、宰相は強制はしなかった。だが、第二王子の子は齢十に満たないにも関わらず宰相が考えていた以上に聡明だった。本人に直接『王になる気はあるか』と問えば、はっきりと『ある』と答えた。それならばとその子を引き取り、王に第二王子の子と露見し自身の新たな脅威として目をつけられぬよう鬘を被り、女装をする様に命じた。表向きは宰相が孤児院から引き取った才女『セルミア』として公表した。まさかその後、現王太子の婚約者となるとは宰相も思っていなかったが………。これが『セルミア・フォン・メーアルア公爵令嬢』という架空の公爵令嬢が産まれた理由である。


 そんな訳で、実際は『セルミア・フォン・メーアルア公爵令嬢』などと言う令嬢は存在しない。そしてこの事はセルミアが学園を卒業するまでの間に宰相に賛同し、クーデターの起こす事を決めた貴族達には既に知らされている。その貴族達の中にはハースフェルト子爵もいる為、娘であるレイリネアも当然知らされているはずなのだが………。彼女はセルミアを()()()()として認識しているようだ。だが、この展開はむしろ好都合だとセルミアは内心ほくそ笑む。実はこの会場内には現キルクバーム国王も居るのである。今この場であと一押しとなる言葉をアイルヴァルトから引き出せれば王太子は廃嫡。この国では女性に継承権は与えられていない。これはこの国の法で決まっていることだ。現国王の子は数人いるが、王太子であるアイルヴァルト以外は全員女性である。つまり、唯一の後継者であるアイルヴァルトを失えば王家の正当な後継者は居なくなる。現王家を崩す足掛かりとしては最適だ。などと考えながら自分に出せる一番女性らしい声で口を開く。


「殿下のご意思は承知致しました。ですが、この婚約は王命により結ばれたものです。陛下はこの事をご存知なのでしょうか?」

「そ、それは………。」

「もし陛下の承諾なく婚約を破棄すると仰って居るのならば、それは国王陛下に逆らっているのと同義です。まさか聡明な王太子殿下に限ってそのような事はありませんよね?」


 そう確認すればアイルヴァルトは図星なのか、目に見えて焦り始め目を泳がせる。そんなアイルヴァルトをセルミアは更に追い詰める。


「あら?殿下、先程から何やら焦っておられる様ですが如何なさいました?もしや、陛下の承諾なく婚約破棄をなさると仰ったのでしょうか?」

「ぐっ………。そ、そんな訳ないだろう!父上も貴様との婚約破棄に賛同して下さっている。」

「そうですか………。ですが、おかしいですね?私も養父(ちち)もそのようなお話は聞いておりません。もし養父が陛下からそのようなお話をお聞きになっていらっしゃったのであれば、私は既に養父からお叱りを受け謹慎させられて居るはずです。ですが、私は今この場におります。殿下、もう一度お聞きします。婚約破棄の事(このこと)については陛下から承諾を得ているのですよね?」

「う………うるさい!今は()()()()どうでもいいだろう!!王太子たる僕の言葉を疑うのか!?」


 セルミアが念を押すように問えば、王太子はまるで小さな子供が癇癪を起こすかの様に怒鳴った。それに対しセルミアは何処までも冷静に言葉を紡ぐ。


「いいえ、殿下。()()()()………ではございません。とても大事な事ですよ?なにせ今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「「…………は?」」


 完全に予想外だったのだろう。アイルヴァルトとハースフェルト子爵令嬢は驚いた様な表情で口を開けたまま固まってしまった。それはそうだろう。なにせ王太子は去年も一昨年も卒業記念パーティーの序盤のみ参加し、その後はハースフェルト子爵令嬢と共にパーティーを抜け出して戻って来なかったのだから。一応、国王陛下が卒業記念パーティーにいらっしゃるのは毎年の事なのだが………。去年も一昨年も表向きは公務の都合上、パーティーの中盤からしか参加出来ない事となっていた。その為入れ違いとなり、会うことなくパーティーが終わっていたのだろう。だが、この前招待された晩餐にて卒業記念パーティーの事は話題に上がっていた。アイルヴァルトもいた為、聞いているはずなのだが………。まさか、忘れていたのだろうか?


「……………アイルヴァルト、これはどういう事だ?説明しなさい。私はメーアルア公爵令嬢との婚約破棄など聞いていないが?」


 と、その時陛下が宰相たる養父を伴って皆の前に姿を現した。

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