勘違いしてはいけない、絶対にだ(戒め)
「今後は注意してね」
「「すみませんでしたっ!」」
イケメン駅員さんの優しい注意に、俺達は声を揃えて謝罪する。
「あはは、元気良いね。あと、昨日は災難だったね。ただ、できれば今後、もし同じような事が起きた場合は、落ち着いた後で良いから、近くにいる僕達職員に教えてね」
恥ずかしかったり怖かったりするかもしれないけど、勇気出してね。
力になれる事もあるかもしれないから。
駅構内の応接室から出る時に、そう声を掛けられ、心が温かくなる。
あの駅員さん見た目も中身も優しくてかっこいいな。
男の俺でも、ときめいてしまった。
・・・俺もあんな人になりたいな。
頑張ろう。
でも、まずは自分磨きよりも謝罪だ。
俺は無言で隣を歩く女子をちらりと見やる。
彼女が車内でへたりこんだ事でちょっとした騒ぎになり、途中の駅で降ろされた後、駅員さんに事情を説明していたのだ。
そして、その大元の原因が、俺がろくに確認もせす彼女の手を握った事であった。
今、俺に必要なのはイケメンスマイルでもイケメンスキルでもなく誠意ある謝罪だ。
「あの」
「っ!」
勇気を出して声を掛けると、ビクッとされた。
そりゃ警戒するよな・・・
急に声を掛けたとはいえ、ちょっと心が折れそう。
だが、次の瞬間、その憂いは吹き飛んだ。
「電車内では急に手を握ってすみませんでした」
「あ・・・あー!い、いえいえ!こ、こちらこそ驚いてしまってごめんなしゃっ!?あぅっ!」
意を決して謝罪すると、勢い良く謝り返された上に、ひたかんだー(舌噛んだー)、と涙目で小さな口を開けている彼女の姿に呆気にとられたのだ。
「っ!?だ、大丈夫ですか・・・?」
「だ、大丈夫れふ・・・うぅ・・・恥ずかしいよぉ」
ー ドクン ー
「っ!」
心配して声をかけるも、彼女の姿に対して心臓の鼓動が跳ねた気がして思わず胸を押さえる。
幸いにも彼女は、頬を手に当てて恥ずかしがっており、こちらの仕草には気付いていなかった為、変な人認定はされなさそうだ。
(これは・・・)
顔が少しずつ赤くなっていくのが分かる。
「あ、あの・・・大丈夫ですか??」
落ち着きを取り戻した彼女が、固まった俺を見て、首を少し傾けて逆に尋ねてくる。
「あ、あ、い、いや、何でもないです。大丈夫です」
「そうですか。良かったぁ」
「!」
安心からか、ふんわりと笑う彼女の笑顔を見た俺はまた鼓動が跳ねたのを感じた。
というか心拍数が上がっているのが我ながら面白いように分かる。
「あ、あの、改めてすみませんでした。急に手を掴んでしまって」
「いえいえ!こちらこそ、驚いちゃってごめんなさいでした!あ!この驚いたっていうのは、突然の事で驚いたのはもちろんですけど、それだけじゃなくて!」
「そ、そうなんですか・・・ふふ」
彼女を前に照れている事を隠そうと、平静を装って改めて謝罪したのだが、わちゃわちゃと慌てる彼女を見て、ついつい口元が緩んでしまった。
「むむ?あ、あれ?私なにか可笑しいこと言いました?」
それとも顔になにか付いちゃってます!?
そして、こちらの様子に怪訝な表情をしたかと思えば、今度は驚き慌てた表情をして、恥ずかしそうに顔をぺちぺち触る。
表情や仕草がくるくる変わる彼女を前にして俺は
「かわい・・・んん!」
『可愛いなーもう・・・』という言葉を漏らしかけるも、何とか押しとどめて咳払いをした。
ニヤけそうな頬も意識して無理やり立て直す。
「ちょっとした思い出し笑いなので気にしないで下さい。それと、手を掴んだ事もですけど、学校に遅れる事になってしまい、すみませんでした」
そのまま努めて真摯に謝罪する。
「あ、謝らないでくださいよぉ。私も悪いとこあったので、おあいこです。ね?」
こちらの冷静さに当てられてか、彼女も再び落ち着きを取り戻したようだ。
「そう言ってもらえると助かります。それじゃ、そろそろ学校に行こうと思いますので」
言霊とはちょっと違うかもしれないが、落ち着いた喋りを意識したら、頭も冷えたようで、冷静な判断ができるようになった。
そこから導き出された答えにより、そそくさと逃げるように立ち去ろうとした俺に対して、彼女は・・・
「あ、わ、私も学校に行きます!その、よ、良かったら一緒に行きませんか?なんて・・・」
少し恥ずかしげに、一緒に登校する事を提案する。
「あ、はい、ヨロシクオネガイシマス」
俺はぶっきらぼうに、無感情に同意する。
ニヤける頬を抑える為に
上がる心拍数を抑える為に
そう、俺は目の前のゆるふわで可愛い彼女に一目惚れをしたのだ。
ただ、同時に理性が問題を提起する。
一目惚れした。で?どうしたいの?
仲良くしたい。で?どうしたいの?
『何がしたいの?』
『どうしたいの?』
『どうなりたいの?』
そんな本能(一目惚れ)と理性(関係の具体的疑問)との間で葛藤している俺を他所に彼女は
「やったぁ。ふふ、こちらこそよろしくお願いしますねぇ。えへ」
ふんわりと嬉しそうに、誰もが魅了されるであろう笑顔を俺に向けるのであった。