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俺、器用貧乏なんですよ。  作者: さんまぐ
ダンジョンアタック前。(第34話~第47話)
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第43話 支給日。

ミチトがラージポットに来て最初の月末。

「ほら、行くよミチト」と朝になるとリナに起こされたミチトはリナを見る。


「今日は完全公休日なんだよ?」

「え?」


「お金の支給日なの。ほら、銀行に行くよ」

身支度を済ませると門の横にある銀行窓口に向かう。4つの窓口全てが空いているのをミチトは初めて見た。


黒鉄包丁を作ってもう半月が過ぎた。

この間もリナはミチトと共に寝て居て、朝の巡回も仕入れを兼ねて共にいる姿は夫婦にも見えないことはない。

そして明るく溌剌としていたリナの笑顔がこれまで以上に輝いていて周りも祝福ムードになっていた。

そんな事を知らないのは当のミチトだけで、ミチトは流刑地のラージポットなのに幸せを享受していた。


ミチトの翻訳はあっという間に終わりロキを驚かせつつ感謝された。

ロキに言わせると、前に有料で翻訳を頼んだ時は2ヶ月かかって更に高かったと文句を言っていた。

そして翻訳された二冊の写本を読み比べて「ミチト君の方が分かりやすいです。本当にメモ書きとしての翻訳でわかりやすい。それに比べてこちらは主観が入っていてわかりにくい」と言っていた。

特にオーバーフローに関する記述に関しては完全に間違っていて魔物の数を断定していて良くなかった。


ミチトはロキに「ありがとうございます。褒めてもらえると俺ではなく先生が正しかったと言ってもらえるみたいで嬉しいです」と感謝を告げた。


だが、ここで1つ問題が起きたのだ。

裏の家が中々手に入らなかったのだ。


先住民の冒険者に言わせれば、お金も貰えてリナの事やロキの事を考えれば渡したいが、代替えの家が西側だったり東側でも今より小さかったりと芳しくない内容でとても明け渡せないと言う。


そうなれば仕方ないと言うことでミチトは大鍋亭でリナと暮らしていて狼達は門の中で暮らしている。

ただそこに関してはロキも兵士達も誰も不満はなく、最悪はこのままここで住まわせてもいいかも知れないと言う事になっていた。


その狼と熊なのだが名付けをする事になった。

黒鉄包丁の後でスードが旅立つ前にスケジュールの件でロキの元に4人で集まった時に名付けの話になり、「ええぇぇぇ…俺、苦手ですよ」と言うミチトの名付けは無茶苦茶で2匹の狼は「オオ」と「カミ」にしようとしてリナやスード、果てにはロキからも不評だった。


「俺、器用貧乏でも本当に生きる事に直結しない事は苦手なんですよ」

困ったミチトが言うと「ミチト、じゃあ私達が名付けてもいい?」とリナが言う。


そしてリナが1匹の狼、ロキがもう1匹の狼。スードが熊に名前をつける事になった。


ミチトは「よろしくお願いします」と何の事もなく丸投げをする。


リナは「狼ってウルフだからウルフくんでウルクンにするわ」と言っていつも撫でている小柄で目の大きい方の狼をウルクンと名付けた。


ロキは「濃い灰色が特徴なのでグレイです」と大柄で毛色の濃い狼をグレイと名付けた。

これに関してはミチトもリナもスードも「同レベルじゃないか」と思ったのだが権力者には何も言えず、さらに名付けたロキ自身が気に入っていたので何も言えなかった。


スードは東の方から来た冒険者に会った時に話した内容を思い出して「前に会った東から来た冒険者の名前に近づけてクマキチだな」と熊の名前を付けていた。


そのスードはミチトが翻訳の仕事をしている間にリナからスティエット村の話や剣術道場、飲食店の話を聞いていてそちらの方を少し調べる話になっていた。

もうミチトに関して聞きたい話があるわけでは無いがロキの指示で少しでも足跡を追ってミチトのためになる事をしたいと言う話になっていた。


そんな事を思っていればあっという間にミチトとリナの番になる。

「ミチトは私に見られたら困る?」

ミチトが「いえ」と答えると「お兄さん、私とミチトはセットね」と言いながら窓口に立つ。


「リナ・ミント」とリナが名乗りながら身分証を見せる。それを見たミチトも真似をして「ミチト・スティエット」と言いながら身分証を出す。


「はい。ありがとうございます。リナさんの残高はこちら、今回の支給分が入ってコレです。今回も売り上げを収めますか?」


「はい。これをお願いね」

リナがそう言うと大きな袋を渡す。


「今回は多いですね」

「そりゃあミチトが来てくれて売上倍増だもん。半分をレート換算して実家に送金で残りは加算してね」


そう言うと中から係の人が出てきて袋の中のロキシーをすべて数える。


「リナさん、あれの中身って、全部ロキシーなんですか?」

「うん。そうだよ。ミチトのおかげでだいぶ稼げたよ。ありがとう」


そうして待っている時に窓口の向こうに見えた名簿に「リナ・ミント」「スード・デコ」と名前が見えたその横に月が書いてあってレ点が着いている。


「ミチト?ああ名簿?私達は最初期メンバーだからね」そう言って下を追うと「シューザ・エシュー」の名前があり、レ点は1つもなくて端に正の字が書かれていた。正の字は4つでその横に小さく11と書かれていた。

「リナさん、名簿の横の正の字は何?」

「ああ、受け取っていない数だよ。12回で正の字が1つついて、横に1〜11までの数字が付くんだよ」

そうなると59回受け取って居なくて、今回分で60回受け取っていない事になる。


「お待たせしました。4,080ロキシーありましたので2,040ロキシー入れますか?」

「わ、凄いね。じゃあ2,000ロキシーを口座に入れて残りを送金して」

そう言われてリナの残高証明に男が丁寧に文字を書き。出納履歴を付けてから「どうぞ」と渡す。

リナは金額を見て改めて「ミチトありがとう」と感謝を告げる。


「お待たせしましたミチトさん」

そう言われたミチトの残高は2,000ロキシーだった。

計算では1,700ロキシーだったのに多い理由を男に聞くと「ああ、工房のエクシィさんから入金がありました。科目は「お礼」になってますね」と言われる。


黒鉄トカゲの引き取り価格は1匹300ロキシーで10匹なので3,000ロキシー、そこに解体指南料として300ロキシーが振り込まれていた。

ちなみに外で売ると1匹400ゴールドなのでかなりの貴重品だ。


この部分は帰りに会ったエクシィに聞いたら「安かったか?スードの奴がミチトは遠慮するから少な目にして、代わりに無茶に付き合ってやってくれって言ったんだよ。それで?そろそろ来るんだろ?」と言われた。

「はい。そろそろ伺います」



その帰り道、ミチトはリナから今後の予定を聞かれた。

「んー、早ければ半月後にはアタックを始めますよ。

半月でどれだけの装備を作れるかが肝ですね」


「そんなに早く行くのかい?」

「これでもゆっくりです。

後は装備がどこまで整うかが問題ですね。

ダンジョンの話を今度ロキさんに聞きに行くつもりです。その先はちょっとわかりませんが今の予定はこんな感じです」

ミチトは今の暮らしの良さ、名残惜しさから慎重さを理由に装備が揃わなければアタックしないつもりでいた。


それはR to Rではあり得なかった事だ。

あの頃は着の身着のまま不眠不休でファイヤーサラマンダーと戦わされた事もあった。


あの時から考えたら今は夢のような話だ。


だからこそつい今に甘えてしまっている。

そしてその中でもまだアタックを意識しているのはオーバーフローを防ぐ為、知り合ってしまった人達、そのすべてを守り切るのは自信がない。

リナだけならオーバーフローからでも守り切る自信がある。

7日間全てを使って戦い抜いてステイブルでもバニシングでも構わないから守り切る。

全霊を用いてそれを行う。


それを考えれば武器を作り続けてラージポットの中で全方向から魔物達に狙われない攻撃方向を限定できる場所を探して位置取りさえ誤らなければ今の日々を過ごす事も可能だが、スード、ネズナやシルゲ達、ロキやヨシ、ライドゥ、ヤァホィ、エクシィ、ウルクン、グレイ、クマキチを犠牲にしたくなかった。

失いたく無かった。


「寂しいな」

「大丈夫。最初のうちは比較的に早く帰ってくるつもりですから、流石に仕込みは手伝えないけどお店と片付けは手伝いますよ」


「無理してない?」

「無理してないですよ」


「ありがとう。じゃあ今日は2人で美味しいものを作って食べようよ」

「昨日の鶏肉が少し余っていたから肉団子のトマトスープみたいなお鍋にしてパンと食べるかパスタと食べましょうか?」


そんな事を言いながらミチトとリナは大鍋亭に帰って行った。

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