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俺、器用貧乏なんですよ。  作者: さんまぐ
ラージポットまでの道程。(第1話~第16話)
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第2話 Rising to the Right。

とりあえずと言って小隊長は昼ごはんを差し入れてくれる。

「今日は車中で済まないな。どうしても初日は時間が足りなくてな。明日以降は昼食時には馬車から降ろしてやるよ」

昼ごはんはパンと干し肉と水。

これは小隊長も同じモノを食べていた。


「俺以外にその話はしない方がいいな?」

そう言った小隊長の言葉に同意したミチトは食事や睡眠時の休憩では聞かれたことに答えたりするだけでラージポットについては何も話さなかった。

トイレに関しても草むらに行く訳だが「見られたくないだろ?好意を台無しにしないでくれよな」とだけ言われて見送られる。


怪我の上に逃げた所で行き場のないミチトは3人の兵士に迷惑にならないようにキチンと戻ってくる。


「所で何の罪だか知ってんのかい?」

兵士の1人、無精髭の兵士が夕食中に聞いてきた。


「貴族の護衛兼移送を失敗した罪ですよね」

「ああ、そうなっているな。だがチームメンバーが全員で臨んだのに何で失敗したんだ?見た感じあのチームはお前さんを入れて13人居ただろう?何がダメだったんだ?」


ミチトが怖い顔で焚き火の中心を見る。


「言いたくなければ言わなくていい」

「ここでの発言は証拠になりますか?」


「いや、出がけに行ったがここでの証言は何にもならないさ」

その言葉を聞いて少しホッとした顔のミチトはゆっくりと話し始めた。


「…多分国勤めの兵達に説明したのはチームメンバー全員での出撃と言ったと思います。

ですが実際は末端の人間5人だけです」


「…残りは?」

「さあ、アリバイの事もありますから街を離れて何処かでのんびりと過ごしていたはずです。

俺の居たチーム、「Rising to the Right(R to R)=右肩上がり」は俺の知る限りずっとそうしてきましたから…」

そう言って自嘲気味に鼻で笑うミチト。


「なんだそれ?」

糸目の兵士が不思議そうに聞く。


「簡単です。失敗しても貴族なら各種保険に加入しています。仮に失敗しても保険が効きますよね?

だから申請書には13人での出撃ですが、実際は5人。

貴族には破格の8人分の代金しかR to Rは求めません。

そして貴族に勧める保険は雇用料すら保険から出すモノを勧めます」


「詐欺じゃないか…」

不精髭の兵士が驚きの表情でミチトを見る。


「ええ、そして保険には代理契約と言うものが存在します。保険会社の代わりに保険を獲得すると報酬の一部が支払われる契約です。

R to Rはその代理契約を請け負っています」


「お前さん、末端なのに何でそんなに詳しいんだよ?」

小隊長が唖然とした顔でミチトに質問をするとミチトは呆れながら「僕がその保険契約を覚えさせられたからですよ」と答える。


「…なんでそんなことまでしてんだ?」

無精髭の兵士が水を飲みながらミチトに質問をした。

ミチトは先ほどと同じ泣きそうな顔で「ああ、俺…器用貧乏なんで…」と言って笑った。



「まあいいや。続けてくれよ」

小隊長が難しい顔で聞く。


「それで出撃した5人で貴族とその荷物、今回は製粉前の小麦を運びました。

でも今回は山賊の襲撃に遭いました」

「じゃあ失敗したってのは…」

確かに貴族を守れなければこうもなる。糸目の兵士が暗い顔で聞いてくるのだがミチトの答えは違っていた。「ええ、積荷を守り切れませんでした」と言ったのだ。


「…え?貴族は?」

「俺が守りました。今回は荷物までは守れませんでした」

ミチトがお手上げのポーズでため息をつく。


「ん?今回は?」

「ちょっと待て所々変だぞ?」


「そうですか?」

「それにお前たちの損害ってどうだったんだ?」

「あ…、今朝も変だったんだよ。なんで怪我をしてるのはお前だけなんだよ?」

無精髭の兵士が何かに気がついた顔でミチトを指差しながら質問をする。


「R to Rの損害は俺の怪我以外はゼロです」

「ゼロ?だって貴族の荷物を守れなかったんだろ?」


「ええ、いつもなら俺が山賊を倒している間くらいは荷物を守ってくれるんですが4人ともとっとと荷物を山賊に渡して命乞いをして逃げてしまいました」


「あ?何だそれ?」

「どうせ調書には13人で貴族と積み荷を守っていたが俺だけ怪我をしてそこから連携が瓦解。

俺が周りに貴族を守るように言って独断で特攻をしてその間に荷物だけ盗まれてしまったと書いてあると思いますよ」


ミチトが遠い目で焚火を見つめる。


「ああ…そうなっている」

「でもそちらの上司さんも節穴じゃない。

すぐにおかしな事に気づく。

だからチームリーダーは俺の秘密を話してラージポットに売り付けたんですよ」


ここで小隊長は慌てたがミチトは違うことを言った。

「言いましたよね?俺、器用貧乏なんですよ。今までの護衛任務でも残りの4人は仕事らしい仕事なんてしませんよ。ただ後ろをくっついて酒を飲んで女を買っての観光気分です」

「…じゃあ…」


「ええ、敵を撃退していたのは全部俺です。

今回は運悪く背後のメンバーの更に後ろから魔術師のアイスブロックが飛んで来て後頭部に直撃したんです」

「それでお前さんが昏倒している間に仲間達は我先に荷物を山賊に渡して逃げ出したのか?」


「そうですよ。本人達は近くの街に援軍を求めに行ったなんて言ってますが実際は物陰に隠れて俺が勝てばそれはそれ。負ければ貴族も何も見捨てて逃げてますよ」

淡々と何のこともなく話すミチトに小隊長が辛そうな顔をする。


「なんだそれ?でもR to Rってダカンの街じゃ知名度こそないが昔から堅実にやってきたチームだった筈だろ?」


「だった…だったんですよ。

まあそれで荷物を渡して命乞いをして逃げたメンバーに激怒した貴族が訴えを起こし、チームは全責任を初手で不意打ちを喰らった俺が全部悪い事にした。

でもそれでも罪を被せ切れなかったから素直に今までの依頼全てを1人でこなしていたのは俺だとリーダーが白状した」

「1人?」


「そうですよ。遅くなってしまったからもう寝ましょうか?」

ミチトは牢に戻るとさっさと横になる。

何であれ、今は怪我をしている。

眠りたかった。


そして横になりながら「キチンと何も気にしないで眠れるのは久し振りだな」と呟くとあっという間に眠ってしまった。

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