ようこそ 異世界へ
楽しんで頂けたら嬉しいです
ミロクは、僕の事は気にせず、のんびりとした足取りで
森へ入っていく。僕はミロクを見失わないように、
必死でついていく。気がつくとかなり森の奥深くまで、
来ているように思い、一瞬、後ろを振り返った。
ヤバイ、帰れるかなぁと不安になる。
慌てて前を見るとすぐ前にミロクがいた。僕がミロクを
見たのを確認するかのように、またミロクが
歩きはじめた。しばらく歩いていると、目の前に野生の
つるバラでアーチが出来ている。小さくて可愛い薄い
ピンクの花が咲いている。それは、子供1人が通れる
くらいの大きさのアーチを、猫のミロクは余裕で通って
行っている。しかし僕が通るには、少し勇気がいる。
バラの棘が気になり少し躊躇したが、ミロクがスタスタと
通っていくのを見て、追いかける事にした。
やはり、バラの棘がチクチクとして痛い。
途中で止まって腕を見ると切り傷になっている。
服も穴が開いている。
一瞬たじろぐが、前を見ると抜け出たミロクが、こちらを
ジッと見ていた。僕は、チクチクして痛いのを我慢して
ミロクの所へ急いだ。やっとのことでバラのアーチを
抜けるとそこに、ミロクはいなかった。しかし目の前に
大きな洞窟の入り口があった。
「なにこれ!!」
と言う自分の声にびっくりする。僕が発しているのに
僕の知っている僕の声ではない。もう一度、
「どういうことだよ!!」
と、言ってみるがその声は声変わりをした青年の声が
する。えっ、こんな一瞬で声変わりってするものなの?
と思い、のどを触るとそこには、今までなかったのど仏が
飛び出している。手や足元をよく見ると、僕の知っている
ものではないし、そういえば、目線の高さが明らかに
違った。
何か、自分の姿が見れる物が無いか、辺りをキョロキョロ
していると、洞窟の中から誰かが出てきた。
「ようこそ、我、世界へ」
と言いその人は、僕の方に近づいてくる。その人は、
グリーンの瞳をした、金髪のよく、異世界系のアニメに
出てくるような昔のヨーロッパ系の服を着て、腰に剣を
さしている青年だった。
「やっぱり、ボクが誰かわからないか?」
と言うとその青年は、
「だったら」
と言い、指をパチンと鳴らした。すると目の前にいた
青年は、次の瞬間、ミロクになった。そしてミロクは、
二足歩行で歩いてくると僕の目の前で止まった。
「僕だよ、ミロクだよ。驚いた?」
と今度は猫のミロクが喋っている。僕は固まって、
目をパチパチさせていると、ミロクは前方に一回転した。
するとまた、グリーンの瞳の金髪の青年に戻った。
そして僕の目の前で両手をパンと叩いた。その音で僕の
意識が戻ってきた。僕はこれは、夢なんだと思い自分の頰
をつねってみた。痛い!!リアルに痛い!
「何してるの、夢じゃないよ。僕が君をこの世界に連れて
きたんだ。頼みたい事があってね」
「頼みたいこと?」
「うん、ちょっとついて来て」
といい、僕を洞窟の奥へと連れていった。洞窟の中は
薄暗いけど、なぜか足元は見える。不思議に思いながら
ついていくととても広い空間に出てきた。ミロクは、
「今から君にボクの友達に会ってもらいたい。でも、
驚かないであげて欲しい。彼はとても優しい奴なんだ」
「うん、わかった」
「おーーい、出て来ていいぞ」
と、ミロクが言うと、その奥にある穴からドンドンと
とても大きな何か歩いてくる音がする。目を凝らして
じっと見ているとなんと、これこそ異世界アニメに、
登場する定番のドラゴンというものが、僕の目の前に
現れた。でも、どうしてだろう、僕はそのドラゴンを、
見ても怖くない。なんでだろうと思っていると
気がついた。
そのドラゴンからは、威圧感を感じない。怒りのオーラも
放たれていない。よく、犬が怯えると、自分を強くみせる
ため怒りや怯えでワンワンといったり、人でも相手より
自分を優位に立たせるためマウンティングをとったり
するけど、このドラゴンは、それをしていない。
本当に強い人は、何をしていなくてもそこにいるだけで
大きな 存在感がある。そして、優しく包んでくれる
あたたかいオーラを感じる。そう、そんな感じなんだ。
そこに いてくれるだけで優しい気持ちになれる。
不思議な感じ。僕はそのドラゴンに優しさを感じていた。
するとミロクが、
「こいつの名前はアバンゲード。ボクはアバンって
呼んでる。ボクはミロク。そのままサ。こっちの世界でも
ミロクと言われていた。おばあちゃんにミロクと
つけられた時はびっくりしたよ。で、アバンとボクは
この洞窟で出会ったんだ。アバンは怪我をしていたんだ。
それでボクが手当てをした」
とミロクは言った。その後、怪我が治ったアバンは、
帰るところがないといい、またミロクも同じだったので、
一緒にこの洞窟で暮らすことになったのだと言う。
アバンと出会った頃と同じ頃、ミロクは僕の世界への移動
ができてしまった。そしておばあちゃんと出会い、一緒に
暮らすこととなった。こっちで何日過ごしても僕の世界
へ戻ると、来た日の夕方になるのだと言う。そして僕の世界で
何日か過ごして、こっちに帰ってきたら少し時が進んで
いたりするのだと言う。ミロクにも、どうしてかは
わからない。ただ、ミロクは僕の世界では、確実に
年をとっているが、こっちの世界ではアバンもミロクも
出会った頃と変わらないらしい。こっちの世界での、
ミロクもアバンも誕生してから成猫、成ドラゴン(?)に
なるまでは早いのにそれからは、自分の1番パワーのある頃
のままなのだと言った。で、僕は今1番気になっている事を
聞いた。
「僕、中身は僕のままなのに体が僕じゃないのは
どうして?」
「うん、それはわからない。だってボクは猫だから。
人間じゃないしね」
と言い、そして
「でも、そのくらいの見た目の方がこれからボク達が、
頼む事には、丁度いいと思ってる。向こうの君のままだと
ちょっと、厳しいなって思ってたから、ボク的には助かるよ」
と、ミロクは言った。
なんだよ、それ!自分の都合だけじゃん!
と僕は思ったが口にはしなかった。