夏休みの終わり
僕たちは、村人たちに気づかれないように、その場を
離れた。そして、途中でアバンと合流して、ミロクに
消える魔法をかけてもらい、洞窟まで戻った。そして、
結界をはり洞窟の中に入った。
「あーー。疲れたね」
とアバンが言う。
「そうだよね。アバン、大活躍だったもんね!!」
と、僕が言うと、アバンは嬉しそうにしている。そして
僕は続けて言った。
「ねぇ。僕が、あの時の咄嗟に、ミロクにアバンを
【守り神】にして、契約するのあり? って聞いたら
ミロクがうなずいてくれたから、話をしたけど、ふたりは
本当に、村人たちと契約してよかったの? 自由が
きかなくなるんじゃないの?」
と言うと、ミロクが
「いや、大丈夫だよ。ボクらに危害を加えれば、あの村は
消滅してしまう。でも、ボクらは、危害を加えるつもりは
無いから。それにこれからも、本当の姿のまま、ボクは
村に行くことはしないし、アバンと一緒の時は消える魔法
を使えばいい。ただ、このドラゴン騒ぎの便乗で勇者や
魔法使いたちには気をつけないといけないけど」
「【守り神】なんて、ぼく、カッコいいじゃん!!」
とアバンも言った。
でも、僕はもう一つは気になっている事を聞いた。
「もし、村人たちが、勇者や魔法使いに退治をこっそり
依頼していたら?」
「ああ、大丈夫。それもちゃんと契約書に書いてある」
とミロクは言い、契約書を見せてくれたが、僕には
読めない。
「あっ、ごめん、ごめん。そうだった。ミヤは、こっちの
文字、読めなかったんだね。もしも、勇者や魔法使いが
ボクたちを捕獲しに来たとしても、もしここの村人たちが
関わっていたら当然、村は消滅してしまう。あっちの
契約書にもそう書いてある」
とミロクは言った。そして僕は聞いた。
「どうやってわかるの?」
「ボクたちが、不審な動きを村にしたら村の契約書が
黄色く光る。そしてその反対に村人たちが不審な動きを
したらボクたちの契約書が黄色く光る。で、その時点で
止めればいいんだけど。もし、そのまま危害を加えれば
赤く光って危害を加えた方が消滅する」
とミロクは教えてくれた。
「便利だね」
と僕は言った。警報機みたいだと思った。
するとミロクが
「まあね、でも、ボクたちは今まで通りだけどね」
「じゃあ、勇者や魔法使いが心配だね?」
と僕が言うと、ミロクは
「それには、ボクにちょっと考えがあるんだ」
と含笑いをしながら言った。僕は
「そうなんだ。どうするの?」
「それは、秘密だ」
とミロクが言う。
「ケチ、いいじゃないか」
と、僕が言うと、ミロクは
「お前と何でもないことを話してた時にヒントを
もらった。お前のアイデアには本当に助けられた。お前を
連れてきて良かったよ」
とミロクがいい、僕が照れていると、アバンが
「ありがとう。ミヤのおかげで、ぼくも、すごくいろんな
こと気づかされたよ。勇気ももらったし、自分でいいんだ
って思えたんだ」
と言われ、僕は感極まってウルウルしていたら、ミロクに
散々からかわれた。
そして僕は、アバンにお別れを告げると、バラのアーチ
をくぐり僕の世界へミロクと戻った。
僕たちは、無事に戻ることができた。やはり戻ると夕方
だった。おばあちゃん家に帰ると
「ただいま」
といい、家の中に入った。
「おかえり。あら、ミロクも一緒なのね。ご飯できてる
けど、まずお風呂に入っておいで」
とおばあちゃんに言われ、僕はお風呂に入った。湯船に
つかると一気に、疲れが取れる気がした。そして、急に
思い出した。もう一人の僕って何だったんだ? あの後
出てこなかった……。あっ、あの提案、僕があんなの
考えれる訳がない。あいつの仕業かぁ……。
『バレちゃったか。もう、オレたちは一体化してる。
もう離れれないから覚悟しとけよ』
と言い、また意識から消えていった。えっ、こっちの
世界でも……と少し心配になる。だって、あんな10歳
いないだろうと。でも、まぁいいか。どんな10歳でも、
僕は僕だもんな。大いに助けてもらおうと僕は思った。
そして僕は、夕飯の時に、おばあちゃんに聞いてみた。
「おばあちゃん、もしドラゴンがいたらどうする?」
「ドラゴンって、弥哉が前、来た時に見せてくれたアニメ
のかい?」
「うん。そうだよ」
「ちょっと見て見たいかな。大きくてびっくりするかも
しれないけど、話せるんなら話してみたいね」
と言った。横で、ミロクが夕飯を食べている。
「じゃあ、ミロクが喋ったらどうする?」
「そりゃあ、有り難いね。おばあちゃん1人だからミロク
が話し相手になってくれたら最高だね」
と言った。ミロクを見ると、ミロクも僕を見ていた。
でもミロクは、おばあちゃんに話しかけることもなく、
僕に話しかけることもなかった。
それから父が迎えにくるまで、僕は、ミロクとアバンに
会いに行ったり、こっちで釣りや虫とりをしたり、
本を読んだり、おばあちゃんの畑を手伝ったり、
おばあちゃんに料理を教えてもらったり、毎日色々なこと
をした。
そして少しずつ、アバンに会いに行く回数が減って
いった。その頃になると少し離れた所に住んでいる
子供たちと遊ぶようになっていたのだ。
そして、これはミロクとアバンに会いに行った時に
聞いた話。
村人たちとの関係は良好らしく、何の問題もなく、
暮らせているらしい。勇者や魔法使いの件も、村に来て
聞かれたら、もう、ドラゴンはいなくなったと村人たちが
言ってくれているらしく、アバンとミロクは穏やかに
暮らせていると。村人たちには、一週間に一度、回復薬を
持って行くのだと。その時にはミロクはあの時の旅商人の
格好で行っているらしい。そして、村人たちからも良く
してもらっているという。でも、慎重派のミロクは、
村人たちとの距離感を、間違えないようにしていると
言っていた。でも、村人たちが、連絡を取りたい時には、
どうしたらいいと聞かれて、本を使って連絡を取るように
したのだと言った。本に魔法をかけ、対の本を作り、その
本にメモを挟むと相手の本にそのメモが移動するという。
それはまた便利なことで。
さすが!!ミロクくん。才能、豊かだなぁと感心した。
そして、僕は明日、父が迎えに来て帰ることになった。
当日、僕はミロクを探したがいない。もう、父も来て
いて家を出なくてはいけない。おばあちゃんにミロクは?
と聞いたら、今朝は、いたけどね。と言われた。
僕はミロクに会えないまま、おばあちゃんとお別れを
して、おばあちゃん家を後にした。
行きに通った、けもの道のような細い道を通って、
バス停に向かって歩いていると、友達になった子たちが、
お別れの挨拶に来てくれた。
「また、来いよ!!」
「うん。ありがとう!!」
と、言って別れた。そして、またバス停に向かって歩き
出した。もう少しで森を抜ける。そのとき、
「ニャーー」
と鳴き声がした。僕が、その鳴き声の方に振り向くと、
そこには二本足で立ったミロクと、その横に、手のひら
サイズのアバンがいた。
「えっ」
と僕は驚いて声が出た。その声に、
「どうした?」
と父が言う。でも、父はもうバテているので振り返る
元気もないらしくふたりには気がつかない。助かったと
胸をなでおろす。父は気にせず先に進む。
僕はふたりの元に駆け寄った。小声で
「なんで、なんでアバンもいるの?」
「へへ。ビックリしたでしょう!!」
と嬉しそうにアバンが言った。
「また、来年もこいよ。その時に教えてやるよ」
とミロクは言った。
「元気でな」
「元気でね」
とミロクとアバンが僕に言った。
「ふたりもね。また来年、会いに来るからね!!」
と言い、しばらくふたりの方を向いたまま手を振り、
後ろ向きで歩いていた。すると、父に呼ばれたので最後に
大きく手を振って、僕は父の元に走っていった。
来年への期待と楽しみを胸に、僕の10歳の夏休みは
終わった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
楽しんで頂けていたら幸いです。