愛する猫の嫁入り
『愛する猫の恋物語』に登場する主人公の娘が今回の主人公です。
よろしくお願いします。
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私は、ソフィア=ニャニャ。
十歳の時に授かった魔法は変身(猫)。
同じ魔法のお母様は、真っ赤な毛並みの手足が長い美しい猫に変身できるけれど、私は赤いマンチカンになれる。
私の両親は、貴族の皆が知ってるオシドリ夫婦で、年をとっても熱々だ。
「ルイーゼ、愛しているよ。」
「私も愛してるわ。」
朝起きた時も、夕方も、夜寝る時も、愛の言葉を頻繁に聞いていた。
お母様もお父様もお互いを大切にしていて、同じ位、私や弟の事も可愛がってくれる。
子供の頃から、両親にとても憧れていた。
だから、私も両親の様な、素敵な恋愛をすると思っていた。
「ごめん。他に好きな子が出来たんだ。婚約を破棄して欲しい。」
三年生の後一月で卒業と言う時、突然、婚約破棄の打診をされた。
相手は、六歳の時から十年婚約していた侯爵子息のトルカ=ミルーだ。
「何故、いきなりこの場所で言うの?」
ここは、魔法学園の食堂だ。
周りの生徒からの視線が凄い。
人の目が多い場所で、婚約破棄の打診。
理由は、他に好きな人ができたから。
しかも、婚約を決めた親にじゃなくて、私に言うとか、頭どうかしてるのかな?
「トルカ様は悪くないのです。全ては、ヒメカがトルカ様を好きになったのが悪いの。だから、トルカ様を責めないで下さい!」
トルカの腕を掴む、見覚えがない小さな女の子。
制服着てるけど、こんな子いたっけ?
と言うか、今大事な話をしているから間に入ってこないでほしい。
「ヒメカ、良いんだ。僕がヒメカを愛してしまったのが、行けないのだから。」
抱きしめ合う二人。
この時、私の中にあった理想の恋愛観は壊れた。
六歳の時から作り上げた信頼関係とか、少しは甘酸っぱい思い出もあった気がするけれど、吹き飛んだ。
どうやら、この場で邪魔をしているのは、ヒメカではなく、私だったらしい。
「あっそう。私にじゃなくて、お父様に言って頂戴。」
私は、その場を後にした。
食堂を出た途端、悔しくて涙がでそうになる。
婚約者として上手くやっていると思っていた。
お父様とお母様程とはいかなくても、その内、穏やかな愛が育つと思っていたのに、私だけの思い込みだった。
「お待ち下さい!」
後ろから、大きな声が聞こえてくる。
振り返るとそこには、金髪に黒い瞳の背の高い男性が立っていた。
「俺じゃなかった、私の名前は、タケル=ラプンです。同じ一クラスで、ラプン男爵の次期跡取りです。」
彼は大きな身体を屈めて、私の前で跪く。
「魔法学園に入学して、初めて見た時から、ニャニャ伯爵令嬢の事が好きです。どうか、私と結婚して下さい。」
彼のくろいまなざしが、私の赤い瞳をにがさない。
急な事で、私は戸惑った。
「いきなり、結婚してほしいと言われて驚きましたわ。私達、喋った事はあったかしら?」
「実はダンスの授業の時に何度か。それ以外は、ありません。私が貴方の事を好いて、見ていただけです。今まで貴方に婚約者がいたのを知っていましたから、声をかけてはいけないと自分を戒めていました。ただ、婚約者が居なくなるなら別です。是非、立候補させて頂きたいです。」
「その様に好かれる理由が、私にはないですわ。可愛げのない女ですもの。」
「その様な事はありません!貴女のその悪役令嬢顔じゃなかった、少し吊り目な赤い瞳にぽってりとした赤い唇、赤髪の縦ロール、背の高い身長に抜群のスタイル、大好きです。それに、その魅惑的な色気のある声。しかも、猫耳までつくなんて、私の理想そのものです。」
「悪役令嬢顔とは何ですの?」
「何でもないです。そこだけは、忘れてください。とにかく、貴女の事を愛しています。大好きです。貴女の事を考えるだけで、胸が苦しくなります。どうか私と結婚して下さい。」
「急に私に言われても困りますわ。それに、結婚したいなら、お父様に言って貰わないとです。」
「わかっています。この後直ぐに、ラプン男爵から、ニャニャ伯爵宛に、婚約打診の手紙を送らせて頂きます。その前に、私は貴女に直接言葉を届けたかったのです。」
黒い瞳は、私をじっと見つめる。
顔をよく見ればハンサムだ。
それに背が高いし、筋肉も凄い。
段々思い出してきたが、ラプン男爵子息と言えば、魔法も身体強化で運動神経抜群の上、剣の腕も素晴らしい。
お父様と一緒の魔法か。
頭脳明晰でいつも学年五位以内、二年生ながら王宮からスカウトが来たとクラスの女子に騒がれていた気がする。
ラプン男爵領も悪い噂は聞かない。
それに、私に沢山の愛の言葉をくれる。
あれ、彼は随分良い男なのでは?
私は顔が赤くなってきた。
「そ、そうですね。考えさせて、欲しいですわ。」
私の手は、彼の差し出した手を取っていた。
「本当ですか?嬉しいです!」
彼は私を抱きしめると、抱き上げて回り始めた。
「ちょっと、まだ良いと言ってないですわよ!」
「失礼しました。嬉しすぎて、つい。」
彼はこほんと咳こむと、私を優しくおろした。
「何度でも口説かせて頂きますので、覚悟して下さい。」
にっかりと白い歯が見える。
私はその後、急いで部屋に帰ると、婚約破棄の打診と婚約の打診があった事を速達で、お父様に送った。
その次の朝には返事があった。
お父様から便箋で十枚、お母様からは、二十枚だ。
二人からの手紙の内容には、私を愛している事や心が傷ついてないか、ラプン男爵子息についてどう思っているのかが大半だ。
トルカについては一言、私の方で心から後悔させておくから心配しない様にとお父様からあった。
「ラプン男爵子息について、どう思っているかね。」
お父様からは、私がラプン男爵子息の事が好きなら、婚約を認める。
逆に好きではないなら、断るから安心しなさいと手紙に書いてあった。
彼の事を思い出す。
背が高く、筋肉がついていて顔もハンサム。
頭も良く、運動神経抜群で、学園卒業後は男爵を継ぐまで、王宮勤め。
私の事を好いてくれて、愛の言葉と態度で示してくれる。
先程、両親の手紙と一緒に、赤い薔薇が一輪、ラプン男爵子息から届いた。
一目惚れです。
愛を込めて、貴女へとのメッセージカードつきだ。
惚れた。
惚れた気がする。
私、ちょろいのかな。
いや、ラプン男爵子息のスペックが高すぎる。
ダメな所が見つからない。
これ、婚約して良いのでは?
お母様宛へどうしたら良いと思うか手紙を書いて速達で送った。
「おはようございます!一緒に教室まで行きましょう。」
女子寮をでると、ラプン男爵子息がいた。
「何故ここにいるの?」
「ニャニャ伯爵令嬢と一緒に教室に行きたくて、待っていました。いつも大体同じ時間に教室に来ているのは、同じクラスで知っていたので、この位で寮をでるかなと。」
「そ、そうなのね。」
私の事、本当に見てたのね。
「ニャニャ伯爵令嬢は、今日もお美しいですね。」
「ありがとうございます。褒められて、悪い気はしないですわ。」
「良かったです。私と結婚してくれませんか?」
「両親の返事次第ですわ。」
「これは、厳しいですね。でも、私は口説くのはやめません。この白魚の様な手を取って歩いても良いですか?」
「手を握ってから、断りを入れるのはやめて下さい。まだ、私達はその様な仲ではないですわ。」
「まだですか。では、今後はその様な関係になるかもしれないという事ですね。楽しみにしています。」
握られた手は、離された。
ゴツゴツした手をしていたわ。
女性ではない手に、ドキドキした。
教室についてからは、周りの視線とひそひそ声を感じる。
「ソフィア、噂は本当ですの?」
親友のハルカ=アンダギー子爵令嬢に話しかけられる。
「何の噂ですの?」
「勿論、婚約破棄からのスピード婚約ですわ!」
「違います!婚約破棄の打診と婚約の打診です。まだ、両方とも進んでいません。」
やっぱり、場所が食堂とそのドア辺りじゃ、噂が広がったのね……。
「聞いたところによると、ニャニャ伯爵夫妻は、公衆の面前で愛しの娘を婚約破棄するなど言語両断。婚約は相手の望み通りに行い、今後の付き合い方も考えさせてもらうと昨日の夜会でミルー侯爵に言い放ったそうよ。ミルー侯爵は、その場ですぐ謝ったけれど、ルイーゼ=ニャニャ伯爵夫人の兄で、カタール国王陛下が出てきて、婚約破棄もミルー侯爵子息とヒメカ=ニギリ男爵令嬢の婚約もその場で認められたわ。ミルー侯爵はその場で土下座して、トルカ=ミルー侯爵子息を廃嫡。トルカは平民として、ニギリ男爵に婿入りになったそうよ。」
「何故、娘の私よりも詳しいのよ。」
「外交官の娘の情報収集力を舐めてもらっては困るわ。」
「そうなの。お父様達ったら、その様な事を夜会でしていたのね。驚いたわ……。」
「カタール国王陛下までノリノリだったらしいから、事前の打ち合わせがあったと見ているわ。」
「伯父様まで……。」
何故、知らせてくれなかったのか。
かなり驚いたわ。
お父様とお母様だけじゃなく、伯父様も私のために動いてくれたのね。
「ソフィアは本当に愛されてるわね。しかも、今度の婚約候補は、イケメンで文武両道なタケル=ラプン男爵子息でしょう?ファンクラブもあるみたいだし、宙ぶらりんだと、後ろから刺されちゃうかもよ?早く婚約して守ってもらうのが吉ね。」
「怖い事言わないでよ。ファンクラブの会員は、物騒な人が多いの?」
「男爵令嬢や子爵令嬢だけじゃなくて、婚約者がいるはずの公爵令嬢とか侯爵令嬢も会員らしいからね。怒らせたら、怖いわ。」
「受けるにしても、断るにしても早い方がいいのね……。」
「勿論よ。でも、この話お受けするのでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「ソフィア、さっきから恋する乙女の顔してるから。」
「ど、どういう顔よ。」
「頬が赤く、瞳は潤んで、いかにも、あの人の事を考えてます。そういう顔よ。」
「私、そんな顔してるの?」
頬に両手を当てる。
確かに、ほっぺは熱いけど、瞳も潤んでたのか……。
恥ずかしい。
「しかも、トルカと違って、ラプン男爵子息はソフィアの事を大事にしてくれそうだし、悪い所がないわね。申し出のタイミングもバッチリだし、多少の爵位差はあっても、ご両親も運命の相手だと喜んでもらえそうよね。」
「そうなの。私の好きにすればいいって言ってもらえたわ。」
「羨ましいわ。あんな優良物件いないわ。絶対婚約するべきよ。」
「私も、実は良いなと思い始めてて……。」
「おめでとう!ソフィアのお母様と二代続けて大恋愛ね。」
そこから、授業は身に入らなかった。
「ニャニャ伯爵令嬢、良かったら、一緒に食堂へ如何ですか?」
タケルが誘いに来てくれた。
「是非、行ってきなさい。後で詳しく教えてね。」
ハルカにウインクで送り出される。
「喜んで行きますわ。」
「良かったです。」
また手を取られたけれど、今度は何も言わずに私も握り返した。
「まだが終わったと判断しても良いですか?」
にっこりといわれる。
「……ええ。」
「もう離しませんよ。」
「もう離さないで。」
ぎゅっと抱きしめられる。
周りからの視線が凄い。
だけど、婚約破棄の時と違って、とても居心地が良かった。
「好きよ。」
「私も好きです。」
そこからは、早かった。
お父様もお母様も喜んで婚約をお祝いしてくれた。
卒業したら半年後には、結婚する予定だ。
今から楽しみだ。
〜半年後〜
「新郎タケル。貴方は病める時も健やかなる時も、貧しい時も豊かな時も、新婦ソフィアを助け、守り、一緒に生きていく事を誓いますか?」
「貴女の事を愛しています。貴女は俺の世界中でただ1人の女性です。病める時も健やかなる時も貧しい時も豊かな時も、いつでもどんな時でもお守りします。どうか俺の事を愛していると言ってください。」
あれから半年たって、ついに結婚式だ。
白いウェディングドレスにタキシード。
結婚式の定番である神父から聞かれて、はいと答える形式美の結婚の誓い。
私ははいと答えただけなのに、目の前のタケルは長文で喋りだした。
神父無視して、私に話しかけてるよね。
神父まで私を見ているし、これ私が答えないと次に進めない感じなのね。
「私はタケルを愛しています。」
タケルは歓喜しすぎたのか、ウェディングドレスの私を抱き上げて、そのままきつく抱きしめた。
痛くはないけれど、衣装が皺になる。
「それでは、誓いのキスをお願い致します。」
タケルからのキスは、長いディープキスだった。
会場から黄色い悲鳴が上がる。
待って、タケル止まって。
恥ずかしすぎる。
「誓いのキスが終わり、2人は神の下、夫婦と認められました。新しい夫婦に盛大な拍手をお願いします。」
神父さんがもう終わりだと言っているのに、タケルまだキスしてるんだけど。
お願い、もうやめて。
恥ずかしすぎる。
結局、長すぎるディープキスで次の日の新聞の写真付きのトップニュースとなった。
「貴女のお母様にもこうして、取材の申し込みをさせて頂いたのですが、時が経つのは早いですね。お子さんの貴女の恋愛話もこうして本にさせて頂けるのが嬉しいです。」
「お母様の本を書いてくださったのも貴女だったのですね。安心してお任せできますわ。」
「ありがとうございます。是非、お任せ下さい。」
自信満々な女性作家を見る。
お母様の本は私も大好きで、よく読んだ。
私とタケルの事も同じ様に本になるんだろうな。
私は目線を自分の膨らんだお腹に向ける。
「私のお腹にいるこの子も私やお母様の様な恋愛をするのでしょうか。」
「きっとそうですよ。その時も私に是非取材させて下さいね。お子さんの名前はもう決まっているのですか?」
「ええ。ベルと名付けようと思っていますわ。」
「素敵なお名前ですね。さて、色々お話を聞かせて頂いたお陰で良い本が書けそうです。書き上がったら、送らせていただきますね。これからもよろしくお願いします。」
「ええ。お待ちしていますわ。」
私達の本はどんな感じになるのだろうか。
期待と不安がある。
お母様の本も素敵だったし、きっと素敵になるわよね。
私はお腹を撫でる。
この子の恋愛も素敵な物になりますように。
私達の後はきっとこの子が素敵なお話を作ってくれるわね。
愛する猫の嫁入り、私達のお話はこれでおしまい。
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読んで頂き、ありがとうございます。
今回の主人公、ソフィアの娘が登場している話が『せっかくヒロインに転生したから、攻略してハーレム作る気満々だったのに、まさかの隠しキャラの宰相に溺愛された』になります。
そちらも是非、よろしくお願い致します。