表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能勇者  作者: キリン
大魔王エデン編
70/86

憤雷の長、走馬灯の果てに

 巡り続けた走馬灯はやがて擦り切れて、一気に現実へと引き戻されていく。最悪の気分、最悪の痛み、しかしそれら全てをひっくるめても尚、俺の為すべきことも、心の中に引っかかっている事も変わらない。


(結局、それが何だったのかは分かんなかったけどな)

「まだ、生きてるぞ」


 去ろうとする大魔王に、俺は煽りを入れる。脇腹は吹き飛ばされ、血は信じられないぐらい体から抜け落ちている。自分がまだ喋っているのか、立っているのか、それともとっくに死んでいるのか……曖昧な意識で、ちっぽけな覚悟で、どうしても守らなきゃいけない矜持を掲げる。


「……そのままじっとしていれば、愛する妻の元へ直ぐに逝けたろうに。なぜそこまでして立ち上がる? お前の戦う理由は、お前自身の手で突き放したじゃろうに」


 その通りだよ馬鹿野郎。俺はやっちまったんだ、あいつが伸ばしてきた手を振り払って、壊しちまったんだ。負けた悔しさなんて、自分だけが強い夢なんて捨ててしまえばよかった。もっといい方法があった、俺なんかよりもいい男にくっつける事だってできたはずなんだ。――ああ、そうか。


(なんだよ、単純な事だったじゃねぇか……)


 俺は、俺自身を嘲笑った。結局そういう事だったんだろう? 結局お前は、そういう気持ちになるのが恥ずかしかっただけなんだろう、だから彼女を傷つけて誤魔化したんだろう? 


「お前のその不死性、我が夢の為に捧げるが好い!」


 迫り来る徒手空拳が、酷く遅く見える。


 彼女の一撃は、もっと早かった。瞬きすら許されない一瞬に、信じられない回数の打撃を重ねられる。しかし俺にはもう、イーラより弱い存在に勝つことすらできなくなっていた。得られるはずだった愛を捨て、腹いせに一族を皆殺しにしてまで手に入れた「世界二位」は、今此処で崩れ去る。


(ほんと、捻くれた人生だったよな)


 そっと、瞼を閉じる。あっちに行けたら、まずは何を言おう? 謝って許してくれないだろうから、まずは何を云うべきなのだろう? 抵抗をやめ、首に巻いた忘れ形見……微かに彼女の匂いが残る、彼女のマフラーを握りしめながら。


 俺は、空間を裂く斬撃を見た。


 ぱっくり割れた裂け目、穿ち開いた斬撃はそのまま、俺を壊そうとしていたエデンに直撃する。即興で織り成された防御は何十二も重なっていたが、まるで紙切れのように他愛も無く破られた。一撃は大魔王の腕に深く刻まれ、俺へと放たれかけていた攻撃は消え失せた。


「なっ……!?」


 驚いたような大魔王の無様な表情、何が起きた、誰がやった? 茫然としたまま、その美しい切り口には見覚えがあった。太刀筋、流麗。努力と研鑽によって積み上げられ、決して自らの位置に慢心することなく……常に向上心を以て、希望を捨てず、ただ真っすぐに剣を握りしめる、アイツの剣。――そして。


「何なのだ、その青い赫雷は……!」


 縦横無尽に駆け巡る、美しき、青い雷。バチバチと音を立てながら肌を撫でるそれらは、俺の中の敗北の日々を、楽しくて、満たされてて、忘れたくても忘れたくなかった日々を思い出させてくれた。


「ぐっ、あっ……くっ、がぁああああああっっっっぅつ!!!!」


 青い雷は魔王を捕らえ、そのまま一気に雪崩れ込む。凄まじく強いそれは、恐ろしくもあり美しくもあった。そしてその青い赫雷を、操り、従え……自在に操る者の背中が、俺の前に現れる。在り得ない、ありえてはならない……でも、それなら、なんで!


「なんで、お前が。イーラっ……!」

「違うよ」


 伏せていた顔を上げると、そこには彼女ではない誰かが居た。躊躇もせずに俺に回復の魔法をかけ、そのまま、再び背を向ける。それは俺の事を、初めから敵としてみなしていない態度であった。――いいや違う、助ける対象として見ていたんだ。こいつも、あいつも! ああそうか、お前は……お前の、名は……!


「俺は、ガド。今世界からブーイングを受けまくってる、無能勇者だよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ