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無能勇者  作者: キリン
妖精の国編
7/86

無能勇者、聖剣を抜刀す

 山を越え、谷を越え、深い霧の中を掻い潜り……そこには天国だったはずの国があった。

 状況は想像を絶する程には凄惨な有様になっていた。咲き誇っていたはずの花々はヘドロに代わり、黒ずんだ紫色の川に流れ込んでいる……だがこれはまだマシなように思えた。俺が心底違和感と恐怖を覚えたのは、地上ではなくその空にあったのだ。


「……紫色の、暗い空」


 明るいはずなのに、暗闇の中にいるような空の色。太陽の光も歪んで地上に降り注ぎ、暗い場所と明るい場所が存在している……常識が常識ではない、そう思わせられるほどには、自然の摂理や法則などが歪められていた。


 これが、あの美しき妖精国ブルテンなのだろうか。俺は間違えて地獄に来たのではないのか? ――いいや、ここはブルテンだ……それを示す石碑が、俺たち勇者がやってきたことを記念する石碑が、視界に入った。


『勇者アーサーとその仲間たちに、永遠の感謝を』


 いいや、正確には石碑の『残骸』だった。根元からへし折れた石碑は、程よい大きさに砕け散り……ヘドロに塗れている。自然に折れたようには思えない、まるで、殴り折ったかのような拳の痕があった。


(これをやったのは、間違いなくベルグエルだ)


 何となくわかる。違うとは思えない……ただ、謎に確信を持った俺の勘が告げている。――まだ、近くにいると。


「ルファースさん、もしかしたらこの近くにあいつがいるかもしれません。危ないから俺の傍に―――」

「だってよ、ルファースさーん?」


 ――気が付けば、俺はヘドロの中に沈んでいた。意識を取り戻すのは三秒ぐらいかかっただろうか? 俺は、自分の顔面に拳を入れられたことを自覚した。


「……おまえは」

「俺か? 俺はベルグエル! 世界最強、邪竜殺しの大英雄様だ!」


 一瞬にして背筋が凍り付いた。これが、大英雄! 背中に背負う聖剣すらも玩具に見える……違う、何もかもが違う! 人間として、ではない。そもそも生物としての身体構造ではない!


(そんな事より、ルファースさんが捕まった! どうする、煙幕の魔法でも使うか? ……馬鹿野郎! そんな子供だまし、父さんにだって通じてなかったじゃないか!)

「……んん? お前のその背中。……――なぁるほどな! お前が、替え玉か!!」


 死が、死を呼び寄せる拳が再び顔面へと迫り来る。ああ、今度は死ぬ。確実に死ぬ。俺は、背中の聖剣の柄に手を添えた……抜けるはずもない、そんな事は、分かっていた。


「――()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 ルファースさんの声と同時。軽く、思っていた何倍よりも軽い聖剣の刀身が引き抜かれ、辺り一帯の暗さを打ち払うほどの光と共に放たれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大英雄様の小物感パネエ!(笑)
[良い点] rt企画ご参加ありがとうございますm(__)m キリンさんのrt企画にも参加させていただきました。 時間の都合でここまでしか閲覧出来ませんでしたがすごく読みやすく今後の展開が気になりました…
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