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無能勇者  作者: キリン
妖精の国編
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無能勇者、妖精国を救う

「ちょっと、父さんに何を……!」

「黙って見ていなさい!」


 声色に怒りは籠っていたが、魔力の流れを見るに、トドメを刺す気ではなさそうだった。助けようとしてくれている……のか? どの道、私の使える魔法では救えない。治療をするのであれば、私以外の存在に任せるほかなかった。


「……ふぅん!」


 周囲の魔力の流れが、大きく変化する。ゆったりと漂っていたそれらは、血だまりの中の父親の傷へと雪崩れ込んでいく。――傷が塞がる。薄緑色の光に包まれた屈強な体に、再び命が注ぎ込まれていく。


 魔力の流れがはゆったりと収まっていき、次第に薄緑色の光も和らいでいく……妖精の女の手が胸から離れると同時に、ベルグエルは息を吹き返した。


「どういうことだ、傷が……」

「――『竜刻のベルグエル』」


 妖精の女の、威厳のある声。私はすぐに、彼女がこの国の王族であることを理解した。そうなれば、かなりまずい事になっている……理由があったにしろベルグエルは、この妖精国ブルテンを恐怖に叩き落とした男であり、妖精の祝福を受けたにもかかわらず、王を殺そうとした男だ。――重罪は、免れない。


「王女サマ、俺はあんたたちの力を数多の暴力に使い、アンタたちから受けた恩を仇で返しまくった。――罰は受ける、だが娘の事は許してほしい」

「父さん……」


 親子愛でどうにかなる問題ではない。事実、父さんが率いた百竜軍団のドラゴンたちは、たくさんの妖精たちを殺したのだろうから……例え今を生きる存在全てが許したとしても、死後の世界で彼は、地獄の業火に焼かれてしまうだろう。


「良い度胸、流石は英雄と呼ばれただけはある。――判決を下します、貴方の罪は――」


 だが、王女の判断は、私の予想を大きく覆すものだった。


「――その余りある力を、今度こそこの国の為に使う事です」

「……あ?」

「あ? じゃないですよこの裏切り者。仮にも貴方は私たちの祝福を受けた勇者なんです、この程度の不祥事で殺せるわけないじゃないですか」

「それに、貴方もあなたの連れてきたドラゴン共も、誰も私たちの仲間を殺してはいません。せいぜい、ベロベロ舐めて遊ぶか、いたずらに追いかけたりする程度です。――正直言って、貴方を罰する理由があんまりないんですよ」

「――」


 腑抜けた顔をしている父がいる。たぶん、私の顔も腑抜けているだろう。許されるのか? 父は……これからも、英雄としての自分でいられるのか? 私の為に一度は捨てた矜持を、もう一度胸に抱えながら、戦ってもいいのか?


「……ありがとう」


 父が他人に頭を下げた所を見るのは、初めてだった。深く、深く……英雄にあるまじき、地面に頭を付けて行う土下座だった。


「ありがとう、ございます……!」


 懺悔、感謝、後悔。様々な思いが交差するその様は、やはり歪んだ紫色の空ではなく、勇者が切り開いた、何処までも広がる真っ直ぐな、青い空の中でこそあるべきだった。

 その様を、折れた聖剣を握った勇者が見ていた。宣言通り、自分が救った国の空を……美しき妖精国の姿を、しっかりと目に焼き付けているのだ。


 こうして、一度は危機に晒された妖精の国ブルテンは……無能で、どうしようもなく貧弱な、代用品の勇者によって救われたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 勇者になれなかった主人公が本物の勇者になるサクセスストーリーということで、自身の無力さを痛感しながらもかつての仲間や困っている人達の為に頑張る主人公はとても魅力的…
[良い点] 前回の続きから「妖精の国編」まで拝読しました。 ガドとベルグエルの戦いは、泥臭い戦いで始まり、主人公のピンチ、覚醒、強敵をやっとの思いで打ち取る、という、とても気持ちよく駆け抜けた決戦でし…
[良い点] 妖精の国話まで、読ませて頂きました。 ありきたりな裏切られたお話しではなく、主人公を守る為の逆パターンのお話の入りが新鮮で面白いなと思いました。 これからの主人公の成長が楽しみです。
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