無能勇者、安堵に倒れる
(粘土、だと……!?)
いくらなんでも無茶苦茶すぎる! 粘土なんかでどうしろって言うんだ⁉ 駄目だ、少しも打開策が思いつかない……大体何なんだこれさっきから! もしかして、さっきのこんがり肉も、俺がただ機転を利かせただけだったのか⁉
(クソっ、どうすればいいんだよ!)
不幸中の幸いなのか、まだ見張り役のドラゴンは戻って来てない。速く、本当に早く何か考えなくては! ――せめて、鍵があれば! 俺はヤケクソ交じりに粘土を握り潰した。こんな事をしている場合じゃないのに……と、そんな俺は、信じられないモノを見た。
「これ……鍵!?」
――そうか。これは魔法の粘土だ! この粘土は欲しいものを念じながらこねると、わずかな間だけそれになってくれるのだ! 壊さずとも、鍵は手に入った。――そうと決まれば、やる事は一つだった。俺は鍵で牢を開け、再び粘土をこね回し、少女を縛る鎖を全て開錠することに成功した。
(やった! あとは……逃げるだけ!)
粘土まみれなんて気にも留めず、俺は少女を抱えて走り出した。とにかくこんがり肉が飛んでいった方向の逆、その方向に向かって、俺は走り出した。
(頼む、頼むから……来ないでくれよ……!)
ただただ祈り続ける俺は、とにかく走った。走って、走って、止まったら死ぬというような感情の中、走り続けた。
「……はぁ、はぁ」
とうとう走れなくなり、俺はその場に膝をついた。振り返っても、辺りを見渡しても……そこには、悪趣味な景色が広がっているだけだった。
(ドラゴンは、来ていない)
――助かった。安堵を全身で表現し、俺は少女を抱きかかえながらその場に倒れ込んだ。




