襲撃 2
ふーん
それは、僕たちが苗を植えている時に、突然聞こえた……
「キャーーー!」「アリシアちゃん!」
「……何だ!?」
「今の声は、アリシアとフィーナさんの……」
突然の叫び声に驚いた僕とハウグスト。
だが、お互いに先程の声がただごとではないことはわかった僕たちは、頷きあい、急いでアリシア達の元に向かう。
時は少し遡り……
私とフィーナさんの前に宰相の追手である、黒装束の男が2人現れた。即座に私を王女と判断すると、逃げられないように捉えにかかってきた。
1人はフィーナさんの口を封じるために、ナイフを片手に襲い掛かる。
もう1人は、私を傷なく捕らえるように命令を受けているのかロープを手に襲い掛かってくる。
私は、咄嗟に村長達の存在を思い出して、頼むから聞こえて!と祈りながら、「きゃーーー!」と大きな声で叫ぶ。
その間に、私を捕らえようとした黒装束の男に、捕まってしまう。
私を捕まえた男は即座に私の腕をロープで縛り、声が出せないように口も布で縛られる。
「王女の捕獲は終わったぞ。そっちはまだか?」
私を捕らえた男は、フィーナさんに襲い掛かっている男に話しかける。
「いや。この女そこら辺の兵士なんかよりも強くてよ……もう少しだけ待っててくれ」
話終わるとフィーナさんにナイフを向けて襲い掛かる。
フィーナさんはナイフをすんでのところで交わし続けているが、体のあちこちに傷ができており、血を流していた。
時間が経つと、傷も増えていき、ふらふらになってしまうフィーナさん。
「手こずらせやがって!これで終わりだ!」
と、男がナイフをフィーナさんに向かって振り上げた時に、男の頭に拳大の石が「メズッ!」と聞いたこともないような音をたててめり込む。
男は、何も声を上げないまま、その場に倒れる。
「こんなことができるのはハウグストね!ちょっと!石を当てるのはいいけど、倒れた拍子にナイフが私に刺さったらどうするつもり!」
とハウグストさんがどこにいるかわからないが、大きな声で叫ぶフィーナさん。
どこからともなく、「すみませんでしたー!!」と謝るハウグストさんの声が木霊する。
「わかればよろしい!次から気をつけるよーに!」
「イエッサー!!」とハウグストさんの声が木霊する。
私を捕らえている男は仲間がやられたことをやっと理解したのか
「な!ヤンがやられた!」と動揺し始める。
男は、すぐに自分には人質がいることを思い出して、懐からナイフを取り出して私の首に当てる。
「おい!わかってんのか!俺には人質がいるんだぞ!こいつが殺されたくなかったら俺の言うことに従え!」
男は、任務のことも忘れて自分がこの場から助かることを最優先する。
「な!アリシアちゃん!」
石が飛んでこないこととフィーナさんが動揺したことで自分が相手よりも優位にたてたと安心した男は、すぐに余裕を取り戻す。
「よくわかったようだな!人質がいる限り、お前らは俺に逆らえないんだよ!いいか!まずは、石を投げた男出てこい!」
男の左側の森からガサガサと音がしてハウグストさんが出てきた。
ハウグストさんは、フィーナさんの怪我を見て、「フィーナ!大丈夫か!」と狼狽する。
それから、フィーナさんをこんな目に合わせた元凶の男を睨みつける。
「お前ら、よくもフィーナをこんな目に合わせてくれたな!」
男は、ハウグストさんの怒気に気圧される。
「うるせー!てめらの命なんて関係ねえんだよ!」
と、男は、私に向けていたナイフをハウグストさんに構える。
「背後にも気をつけた方がいいよ」
その声が聞こえた瞬間に、男の体から力が抜けていく。
「は?……」
男は、その言葉を最後に倒れて動かなくなる。
ローブで縛られて身動きの取れない私は、突然男が倒れたことでバランスを崩して地面に向かって倒れてしまう。
地面にぶつかりそうになる前に、レッドが私を抱き止めてくれる。
「もう大丈夫だよ。怪我はないかな?アリシア」
と、レッドは、笑顔を見せて安心させてくれる。
レッドの笑顔を見るのは、これで何度目かわからないが、私は、毎回何故かものすごく安心してしまう。
レッドの笑顔で緊張が解けた私は、泣き出してしまう。
しばらくして、私が落ち着いてからフィーナさんが、「アリシアちゃん、記憶がないって嘘ね」と私に聞いてくる。
フィーナさんには、何となくバレているような気はしていたけど、男達を見た時の私の反応を見て、かくしんしてしまったようだ。
優しくしてくれたみんなを巻き込みたくはなかったけど、こうして、男達に見つかったと言うことは遅かれ早かれ宰相の手のものがこの村にやってくるはず……いや、確実にやってくるわね
私の考えが甘かった!1ヶ月くらいなら大丈夫なんて……村のみんなを巻き込んでしまう結果になってしまった…こうなってしまっては、みんなに事情を話して、逃げてもらうしかない。私が捕まるかわりに、村人を見逃してなんて、してくれるわけがない!あの黒装束の男達が、フィーナさんを殺そうとしたのが、いい証だ。見ず知らずの私によくしてくれた村のみんなが死ぬのなんて絶対にやだわ!
意を決した私は、全てを話すことにした。
「はい。その通りです。私は記憶を失っていません」
「やっぱりね……」
「嘘をついてしまい、申し訳ありませんでした!」
フィーナさん達に向かって頭を下げる。
「うん!謝ってくれたから許すわ!素直が1番よ!」
「おう!嘘をつかれていたことはショックだが、お前は悪い奴じゃねえってことはよくわかってるからな!許す!」
「僕も特に気にしてないよ。何か事情があるんだよね?」
こんな優しい人たちに嘘をついていたことに改めて罪悪感が募る。胸がズキズキ痛む!
「それで、男達がアリシアちゃんを見て王女って言っていたけど、アリシアちゃんは王女なの?」
フィーナさんの言葉に、え!と驚くレッドとハウグストさん。
全てを話すと決めた私は、「はい。私はこの国、アルメリア王国の第一王女…ルーナ・アルメリアと言います。皆さんを政争に巻き込んでしまい申し訳ありません!」
それから、私は、3人になぜ王女の私が追われるようなことになったのかを説明するために忌まわしいあの日の出来事を話す……
「と、その前に、黒装束達の亡骸の片付けとフィーナさんの手当てを先にしなくちゃ」
つづく……
ゆーん