モンデル村
りーん
レッドたちとの朝食を終えると、フィーナさんが私の看病をしたいと申し出てくれた。まだ、起き上がることはできないが、手が動かせるため、申し訳なく思った私は、ベッドの近くに必要なものを置いてくれれば、あとは自分でできますと断った。
「アメリアちゃん!無理しないの!こういう時は、無理をせずに甘えて良いのよ!フィーナお母さんに任せなさい!」
「でも、畑仕事とかやることはいっぱいあるんじゃ?」
以前、お父様に無理を言って、一緒に農村の視察に行ったことがある。その時、村人に興味本位で1日をどう過ごしているのか聞いたことがある。
彼らは、日が昇る前に起きて、井戸に行って水を汲んで、家畜に餌を与える。それから、朝食を食べ、畑に行って、1日畑仕事をして、家に帰ってきて家畜の世話をして、夕飯を食べて、横になる。
ということは、この後は、畑仕事があるはず……
視察の時に少しだけ手伝わせてもらった時は、桑で土を耕すのは、腰を痛めるし、土に足を取られて動きづらいしで、大変だった。畑仕事は、とても大変なことを痛感した。
「大丈夫よ。今は、種を蒔いたばかりで、土を耕すこともないし、収穫期でもないからあまり人手はいらないの。だから、安心して甘えて良いのよ」
「そうだぜ!無理はすんな!今は、そんなに人手が必要な時でもねぇしよ!人手がいる時だとしても、俺とレッドでなんとかするから心配すんな!」
「そうそう。2人のいう通りだよ。今は、自分の心配をしてれば良いから。それでもっていうなら、体が良くなってから手伝ってくれれば良いからさ」と3人が優しい言葉をかけてくれる。
この人たちは、どうしてこんなに優しいのだろう……
「わかりました。体が良くなるまでは甘えさせていただきます。ですが、よくなったら手伝いますので」
「おう!そん時は遠慮なくこき使ってやるからな!」
それから、レッドとハウグストさんは畑に昼食を持って出かけた。
家には、フィーナさんと私だけになる。いざ、2人になると緊張してしまう。
おかしいな……いつもなら知らない人にでも平気で話しかけていたのに……
そう思っていると、フィーナさんから声が掛かる。
「ねぇ、アメリアちゃんの綺麗な髪を梳かしてもいいかしら?」
「え?」
「私、娘ができたら、髪を梳かしながらいろんな話をしてみたかったの……ダメかしら?」と上目遣いで私を見つめてくるフィーナさん。
本当に40歳なのか疑いたくなる可愛さだった。
「そうですね…」と自身の髪を触ると随分と手入れをしていなかったから荒れていた。
「髪も荒れてますし、お願いします」とフィーナさんにお願いする。
フィーナさんは「やったー!」と両手を上げて喜ぶ。
本当に可愛い人だ。
フィーナさんは懐から木でできたクシを取り出して、早速髪を梳かしてくれる。
「近くで見ると、本当に綺麗な髪をしているのね!」と私の白い髪を褒めてくれる。
私は、お父様に似ており、髪だけがお母様に唯一似ている。この白い髪は、私と亡くなったお母様とのつながりを証明する唯一の証。
そんなお母様とのつながりである髪を褒められると昔から嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
「ありがとうございます……私の自慢の髪なんです!」
そんな何処か嬉しそうにする私をみてフィーナさんも微笑む。
「ふふふ……じゃあ、なおさら綺麗にしないとね!」
そこから髪がサラサラするまで梳かしながらいろんな話をした。
レッドの恥ずかしい話やこの村の人たちのこと、フィーナさんやハウグストさんのこと。
特に、フィーナさんとハウグストさんの馴れ初めにはドキドキした。
昔から今のような関係だったハウグストさんとフィーナさんはお互いに結婚するならこいつしかいないと自覚していたそう。だが、この村では男の方から求婚するものとされており、勇気の出なかったハウグストさんはなかなか「一緒になってくれ」の一言が言えなかったらしい。
痺れを切らしたフィーナさんは、さりげなく「私は、あなたと結婚したい」とサインを送っていたそうだが、ことごとく気づかれなかったらしい。
鈍感なことは昔から知っていたが、あまりにも鈍感すぎたハウグストさんをみて、仲の良かったレッドの両親に協力してもらい、レッドの両親にそれとなくフィーナはお前がいいみたいよと伝えてもらったことがあるらしい。
それを聞いてハウグストさんは「そうなのか!」と嬉しそうにしていたそう。
その報告を受けたフィーナさんは、「やっと思いが届いた!」とハウグストさんからの告白を待っていたのだが、一向にフィーナさんの元に思いを伝えにこないハウグストさん。
さらに痺れを切らしたフィーナさんは直接本人に聞き入ったそう。
理由は、フィーナ本人から聞いたわけじゃないから振られる可能性がゼロになったわけじゃない。だから、まだ告白しないと本人に向かって言ったそう。
それを聞いたフィーナさんは、「へたれ!こんなにあんたと一緒になりたい!ってサインを送ってるんだから気づけよ!」と切れてしまったそう。
フィーナさんは切れながら、「もういい!私がいう!」とハウグストさんに向かって「私はあんたと一緒になりたいんだよ!旦那としてもらってやるから!グダグダ言ってないで、私の元に来い!」
なるほど、この時から尻に敷かれているわけだと2人の関係性に納得がいった。
話していると、髪が先ほどよりもサラサラになった。
「よし!完璧ね!やっぱり整えるとさらに綺麗ね。綺麗になった髪には……」とフィーナさんは懐から髪留めを取り出す。
それは、私が付けていたお父様からもらったお母様が使っていた髪留めだった。
他には見かけないワインレッド柄で、お母様の名前が彫られているからすぐにわかった。
「アメリアちゃんの髪を洗った時に無くさないように私が持ってたの」とフィーナさんは髪留めで後ろ髪を纏めてくれる。
「うん!とっても似合うわね!可愛いわ!」
その後は、髪を梳かし終わった後もフィーナさんといろんなことを話した。
わたしたちが時間も忘れて話しているとレッドとハウグストさんがただいまと畑仕事から帰ってきた。
レッドは、朝とは違う私の雰囲気を見て、ニッコリと笑う。
「2人で楽しく話してたみたいだけど、何を話してたの?」
私とフィーナさんは、「ひみつ!」と答えておいた。
私はフィーナさんから聞いた2人の馴れ初めを思い出しながら、ハウグストさんに一言。
「ハウグストさんはもうちょっといろんな事に敏感になった方がいいと思います」
私の突然の一言に、面食らったように「え?」と固まる。
私とレッド、フィーナさんはそんなハウグストさんを見て、「あははは!」と笑った。
つづく…
たーん