朝ごはん
ぶーん
私は、今、レッドの家でフィーナさんが作ってきてくれた朝食を食べている。
つい、長年の癖で朝食の前の祈りを始めるとレッドたちはいただきますの一言で食べ始める。
私が固まっていると、レッドがこの村では、いただきますとの一言に「命をいただく事に感謝します」と言う思いを込めるのだそう。
色々な食前の祈りがあるのだと思い、私もこの村の風習に習い、いただきますと言ってから食べる。
フィーナさんが作ってきてくれた食事は、芋から作った粉で作ったパン、野菜と干し肉のスープ、蒸した芋だった。
王城で食べていた食事に比べれば質素だったが、これまで食べてきたどの料理よりも美味しかった。
独特な登場の仕方をしたハウグストさんとフィーナさんとは、最初はぎこちなかったが、朝食を共にするうちに打ち解けることができた。
「そうなの……自分のことを何一つ覚えていないの……」とフィーナさんは悲しそうに私を見る。
朝食の話題は、私が今後、体が癒えてから村を出るのか、しばらくは村で過ごすのかという話になり、レッドが、私は自分のことに関して何一つ記憶がないとフィーナさんに説明して、フィーナさんが悲しそうな表情になってしまったところ。
ベッドの近くのテーブルで食事を食べていたフィーナさんは立ち上がり、私の側まで来ると、優しく私を抱きしめてくれる。
「大丈夫よ。今は、自分が何者だったか分からなくて不安だろうけど、そのうちきっと思い出すわよ!」
「そうだぜ!フィーナの言う通りだ!今は、親子喧嘩した娘が家を飛び出しちまっただけで、そのうち仲直りするためにすぐに戻ってくるのと同じさ!絶対に大丈夫だ!」とフィーナさんとハウグストさんが励ましてくれる。
ハウグストさんの例えはちょっと分からなかったけど……
そんな優しい2人に、嘘をつくのは申し訳ないけど、私事にこんなに優しくしてくれる2人を巻き込みたくない!
「ありがとうございます。私も、少しずつ思い出していけたらと思っています」
「そうよ。少しずつで良いの。記憶が戻るまではここでゆっくりすれば良いわ!その後のことはそれから考えれば良いんだから」
私は、フィーナさんの言葉に甘えるか迷っていた。この人たちを巻き込みたくないが、今は、王国中で宰相の追手が私を探しているはず。こんな状態で逃げたとしても捕まってしまう。でも、この人たちを巻き込みたくない。どうしよう?
「まあ、そのことは今すぐに答えを出さなくて良いんじゃねえか?傷が癒えてから考えようぜ!な!」
とのハウグストの言葉に、確かレッドが言うには、アルメリア王国でも、都市国家連合寄りの国境沿いにある村って言ってたわね……それが確かなら、すくなくとも王城で見た、この国の地域が細かく書かれた地図には、モンデル村と言う名前はなかった。と言うことは、宰相もこの村の存在は、把握していないはず……それでも、いつか村の存在が知られるとしても1ヶ月はここに止まっても大丈夫かしらね……どのみち、しばらくはまともに動けそうにないし……傷が癒えてから、村を出て情報を集めながらアンナを探そう!その後のことは、アンナと合流してから考えよう。
と判断した私は、「ご迷惑でなければ、傷が癒えるまでよろしくお願いします」と頭を下げる。
「そんなにかしこまらなくて良いよ!困った時はお互い様だよ!」
「そうよ!レッドの言う通りよ!なんだったら記憶が戻らなかったら私の娘になっても良いしね!」
「おいおい!それは話が飛躍し過ぎじゃねえか!」
「良いじゃない!こんな礼儀正しくて良い子はなかなかいないわよ?私は、娘だったらアメリアちゃんのような子が夢だったの!」と興奮するフィーナさん
そんなフィーナさんを見て、ハウグストさんは……
「ごめんな!どうやら、相当アメリアのことを気に入ったみたいだ!すまんが、ここにいる間だけでも付き合ってやってくれ!」とフィーナさんをフォローする。
「いえいえ。私もこんな可愛らしいお母さんができて嬉しいです!」と笑顔で答える。
お父様が私の小さい時に話してくれた、お母様の性格にフィーナさんはそっくりだった。
王妃だって言うのに、嬉しいことがあると飛び跳ねるように喜び、悲しい時は誰よりも大きな声で泣いたと話してくれた。
お父様の話を聞き、王城にあったお母様の肖像画を見ながら、そんな母の姿をよく想像して過ごした。
そんな、想像の母と同じ性格のフィーナさんみたいなお母さんがずっと欲しかった私は、本当に嬉しかった。
「やったー♪私にこんな可愛い娘ができたわ!今日からよろしくね!アメリアちゃん!困ったことがあったら、フィーナお母さんになんでも言ってね!」と胸をドンと叩くフィーナさん。
本当に可愛い人だな。これでハウグストさんと同い年の40歳だなんて思えない。年齢を言われなければ、20代半ばと言った若さだ。顔が童顔なだけではなく、肌も水々しくキメが細かい。
「はい!よろしくお願いします!」
それから、傷が癒えるまでの間、私は、モンデル村でお世話になる事になった。
つづく……
おーりー