追われる姫様と赤髪の少年 3
やーい
意識を取り戻した私を確認すると、赤い髪の少年は、「おはよう」と優しいそうな笑顔で声をかけてくれる。
どういう経緯でここで眠っていたのか分からず混乱する私だが、「おはよう」と反射的に返事をする。
目を覚ましたら、知らない建物のベッドで眠っていて、知らない少年におはようって言われた……これは、夢?……と混乱する私。
少年は、私が混乱していると、「まあ、落ち着いて」と水の入ったコップを渡してくれる。
私は、とりあえず差し出されたコップを受け取り、水を飲んで落ち着くことにした。
コップを口につけ、お水をいただく。
「美味しい……」と思わず声に出てしまう。
少年は、「良かった!普通の井戸の水だけど喜んでくれて」と微笑みながら私に話しかけてくれる。
見覚えのない人物だったが、少年の笑顔を見ていると自然と混乱する心が落ち着いた。
少し、心が落ち着くと、頭が冷静になってきた。冷静なった頭で覚えている限りのことを思い出してみることにした。
最後に覚えているのは、確か、お父様におやすみと声をかけて王城の自室で眠りについたことは覚えている……じゃあ、どうしてここにいるのだろう?と自室で眠りについた先が思い出せない。思い出そうとするとズキっと頭に痛みが走る。
私が頭痛に襲われて頭を抑えていると、少年が頭に手を置いて、「大丈夫だよ」と撫でてくれる。
急になぜ?と疑問に思ったが、お父様に頭を撫でられた時のように妙に安心する手つきだったので、すぐに疑問は消えた。
「落ち着いたかな?」と私に確認する少年。
私は、コクンと首で返事をする。
「よかった。まだ、ここがどこかわからずに混乱してると思うけど、その説明をする前に自己紹介をしてもいいかな?」と少年の問いにコクンと首で返事をする。
「僕の名前は、レッドって言うんだ。亡くなった僕の両親が髪が赤いからって理由でつけたんだ。安直すぎだと思わない。もっと!こう!スフィンクス!とかカッコいい感じの名前にしてほしかったな!」と自身の名前について真剣な顔で不満を口にする少年。
そんな真剣な顔でスフィンクスがかっこいい名前なんて言うもんだから、私は、「ぷっ!あははははは」とついつい笑ってしまった。
「あっ!僕の長年の真剣な悩みを!」
「ごめんなさい……でも、スフィンクスって名前は、ちょっとやめた方がいいわよ」
「え?なんで?かっこいいと思うんだけどなぁ……ずっと怖い顔でいたから、笑ってくれてよかったよ」と少年改め、レッドの言う通り、私は、目が覚めてから見知らぬベッドに眠っていたからずっと警戒していたようだ。なんだか、張り詰めていたものが取れたからか、体の強張りが取れた。
「で、君の名前は?」とレッドが問いかけてくる。
レッドに名前を聞かれた時に、なぜだが何も覚えていないと言うことにした方が良いと考えてしまった……なぜだろう?
だが、何かそうした方が自分とレッドのためのような気がした私は、「ごめんね。自分のことがよくわからなくて……」と嘘をついた。
「それは、困ったね……まあ、なぜここにいるのかだけでも説明させてもらってもいいかな?」とレッドが私に問いかける。
「ええ…お願いするわ」
「じゃあ、説明していくね」
それからレッドは自身が、川に魚を捕まえに来たところ、川向こうに倒れていた私を発見した。
川の上流は森の中にあるので、なんでこんな森の奥に人が?と思ったそうだが、すぐに駆けつけ、私を自分の家に運んで手当てをしてくれたとのこと。
説明を聞いて、私はなぜそんな森の奥で倒れていたのだろうか?と記憶をもう一度辿っていると激しい頭痛と共に衝撃的なことを思い出す。
それは、長年お父様を支えてくれた優しい宰相の裏切りによって、王城や王都を追われた記憶。
そうだ!すべて思い出した!あの日の忌まわしい出来事を……
あの時、無事に王都から脱出した私は、逃げている時に、宰相の放った追手に追いつかれてしまい、私の護衛の兵士であるアンナが身代わりとなり、私と反対方向に走って敵を引きつけてくれて、その隙に命からから倒れたあの場所まで走って逃げてきたんだ。
数日も飲まず食わずで移動し続けたから、体に力が入らなくなってしまいそのまま倒れたんだ。
私が、また頭を抑えたことにレッドは動揺したが、頭痛が治ったから大丈夫と伝えると、呼吸が落ち着くまで待ってくれる。
私が、完全に落ち着いたことを確認すると、
「さて、この家にいることの経緯はこんなところかな?」
「ええ。大体わかったわ」
「じゃあ、次にここがどこかだけど、ここは王国と都市国家連合の国境沿いの山間にあるモンデル村と言うところ。所属としては、アルテタって言う、この村から北にある大きな街の管轄になるかな?」
無我夢中だったから気づかなかったけど、国境沿いまで走って逃げてきてたんだ……宰相に捕まったお父様は無事かしら?追手を引きつけてくれたアンナは?生きていてほしい!
私は、自身がどこまで逃げてきたのか大体の地理を確認すると、私を流すために命をかけてくれた2人のことが心配になった。
私が暗い顔で、下を向いていると、
「また暗い顔になった!大丈夫だよ!今までの記憶がなくなったって、また、これから楽しい記憶を刻んでいけばいいだけなんだからさ。記憶がなくなってしまったものはしょうがないよ」とレッドが笑顔で励ましてくれる。
レッドに言われたように、今の私にできることは、お父様とアンナが別れる前に私に言った、「生きてほしい」と言う願いを叶えることだけ。
「レッドさん!お礼が遅くなってしまいごめんなさい。救っていただき本当にありがとうございます」とレッドに向かって頭を下げて、感謝を伝える。
「そんな…大したことはしてないって!困ってる人や怪我してる人がいたら助ける。そんな当たり前のことをしただけだから」
「それでも、本当にありがとう」
レッドは照れたように頬をポリポリかきながら、「どういたしまして!この話はこれでおしまいね!」と話題を変える。
「記憶がないってことは名前もわからないってことだよね?」
とのレッドの一言に、自分の名前を答えそうになるが、記憶がないと嘘をついたことを思い出した私は、罪悪感を覚えながらも「ごめんなさい」と謝る。
「そうだよね……なんて呼べば良いかな?」と頭を悩ませ始めるレッド。
「う〜ん……そうだ!月のような綺麗な白い髪が特徴的だから、ムーンなんてどう?」とレッドが提案する。
「それだけは遠慮したいわね」
「ええ〜可愛い名前だと思ったんだけどなぁ」
このままでは、変な名前をつけられてしまうと、咄嗟に、「アメリアはどうかしら?」と私を産んでなくなったお母様の名前を名乗る。
「アメリアね…呼びやすくて良いや!じゃあ、記憶を思い出すまでは、アメリアって呼ぶね!」
「ええ。よろしくね」と私の呼び名が決まったところで、ドアを開けてムキムキの大男が家の中に入ってきた。
「よう!レッド!朝ごはん持ってきてやったぜ!」と大男は右手に持っているバケットを掲げた。
「ハウグスト!怪我人がいるんだから静かに入ってきてって言っておいたよね!」とレッドが、バケットを掲げた大男に注意をする。
大男の名前は、ハウグストというらしい。大男改めハウグストは、180を超える身長に王国で1番強いと噂の兵士長よりもガッチリとした体格をしていた。
顔はがっちりした体格に似合わず、鼻筋の通った整った顔をしていた。よく笑う人物なのか、目尻のしわが特徴的だ。
そんなハウグストは、「悪いな!ついな!いつもの癖でよ!」とガハハハ笑いながら謝る。
「で、ベッドにいるのが、お前が川から拾ってきたっていうお前の嫁か?」とハウグストの問いに、
「違うよ!川で倒れていたのを助けただけ!」と顔を赤くしながら言い返す。
「よ!俺は、ハウグストってんだ!よろしくな!」と私に話しかけてくる。
あまりの距離感の近さに戸惑うが悪い人物ではなさそうと安心した私は、「すみません。記憶がなく仮の名前なのですがアメリアって呼んでください」と騙して本当にごめんなさい!と心で謝りながら、名乗る。
「記憶がねえのか……そいつは良いな!俺も記憶を無くしていきなおしてえなぁ……そうすれば、俺をこき使う鬼嫁ともおさらばできるな……」とハウグストが独り言を言っていると入口の方から「誰が誰をこき使う鬼嫁だって?」と可愛らしい小柄な女性が額に青筋を作り、笑っていた
それを見たハウグストは、「ひっ!フィーナ!」と顔を青くしながらガクガク震える。
「誰が鬼嫁だって!」とフィーナと呼ばれた女性がハウグストに詰め寄りえりを掴む。
「ちょっ!聞き間違いだって!俺が言ったのは、この世で誰よりも美しくて優しい自慢の嫁って言ったんだよ!なぁ、レッド!アメリア!」と私たちに話を振ってくるハウグスト。
話を振られたレッドとアメリアを般若のような笑顔で見るフィーナ。
その迫力に気圧された私は、ライオンに睨まれているのでは?と思って体が震え出す。
「あんたたち!こいつの言ってることは本当?」と笑いながら首を傾げる。
「はっ!はい!この世で1番美しい自慢の妻だと言っておりましたぁ!」とレッドの言葉に全力でブンブンと首を振る。全力で振りすぎて、首を寝違えたように痛めてしまった。
私たちの答えを聞いて、「やだわ!世界一だなんて!」と照れながらハウグストの肩をバシバシ叩く。
上機嫌になったフィーナを見て安心するハウグスト。
フィーナに見えないように、2人にサムズアップ。
それから、フィーナは目を覚ましたアメリアを確認すると、「良かったわぁ!ひどい熱だったからどうなるかと思ったけど、レッドの看病が良かった証拠ね!元気になって良かったわ!」と先程の笑顔とは違い、母親のような暖かな笑顔で私に話しかけてくれる。
「はい。本当に助かることができて本当によかったです!ありがとうございます」とハウグストとフィーナに向かって感謝の気持ちを伝える。
「私たちは、そんな大したことはしてないわ」というフィーナ。
「でも、レッドからは、私の体を綺麗にして着替えさせてくれたって聞きました。本当にありがとうございました。」
「ふふふ……それくらいお安い御用よ。さて、その話はここまでにして、お腹すいたでしょ?朝ごはん作ってきたから、みんなで食べましょう!」とのフィーナさんの一言で、みんなで朝ごはんを食べることになった。
つづく……
なーん