モンデル村へ
ひよーう
「王女発見」
その言葉がしたと思ったら、急にレッドが倒れてしまった。
「え?」
突然のことに状況は分からなかったが、レッドが倒れたことを認識すると自然と体が動いた。
「レッド!」
レッドを抱き寄せると、息をしていた。どうやら、気を失っているだけのようだった。
「よかった」
心から安堵する。
すると、目の前にいきなり全身黒尽くめの男が現れる。
「ルーナ・アルメリアで間違えないか?」
男は私に聞いてくる。
男の言動といい、格好といい、いやでもわかってしまう。あの男の手のものだと。
「宰相の手のもの?」
「そうだ」
「私を連れ戻しにきましたか」
「話が早くて助かる。その男は随分あなたにとって大切な人だとお見受けする。抵抗するなら……ここまで言えばわかるな?」
私は、レッドの顔を見つめて、(ごめんね)と謝る。
「ついてゆきます。だから、この人の命だけは」
「いいだろう」
私は髪留めを外し、レッドの手に握らせる。
「レッド。ごめんなさい。可愛いって言ってくれて嬉しかったよ」
頬に口づけをする。
「挨拶はそこまでにしてゆくぞ」
私は男によく分からない薬を飲まされて、意識を失う。
薄れゆく意識の中で「レッ……ど」
**************
「うっ……」
僕は、首に痛みを感じながら意識を取り戻す。
「レッド!大丈夫か!」
「レッド君。大丈夫?」
目を覚ますと、ベスターさんとミクさんが、ベッドの脇にいた。
2人は心配そうにしていたので、
「特に問題ありません」
と伝える。
2人は、「よかった」と安堵する。
それから「憲兵の人たちが倒れているあなたをここまで抱えてきてくれたの。聞けば、市場に行く途中のところで倒れてたって言ってたけど、どうしてそんなところで倒れていたの?それにルーナちゃんが見当たらないから、憲兵の人たちが町中探してるけど全然見つからないの。一体何があったの?」
と、ミクさんが僕に聞いてくる。
僕は、はっきりしない頭を必死で動かす。
確か、一緒に家を出て、夕食に行く途中で夕焼けの見える景色の良いところに行って、そこで2人で話して……そこからどうしたんだっけ?……「王女発見」……そうだ!
その声がしたと思ったら気を失ってしまったんだ。
ルーナを王女と知っているのは、この街ではベスターさんとミクさんだけ。
ということは、連れ去られた……
「くそ!くそ!くそ!くそ!」
僕は、自分の不甲斐なさに怒りが止まらずベッドを何度も殴る。
「くそ!何があっても守ると誓ったのに!くそ!」
と、そこでベスターさんが、「連れ去られたってことか?」と聞いてくる。
僕は、怒りを鎮めるために深呼吸して、「はい」と答える。
「……レッド。お前の親父であるリックは昔から大事なものを取り戻す時はどんな無茶だってしたもんだ。ナターシャがゴロツキどもに連れ去られた時は、相手は60人いるってのに1人で乗り込んで連れ戻してきた」
「……」
「モンデルの村でも、村人を守るためにブラックベアの群れと戦い命を落とした。リックはいつも言っていた。大切なものは自分の命を賭しても絶対に守る!と」
「……」
「お前はどうなんだ?ルーナはお前にとってどんな存在だ?」
僕は風に揺れる月のように綺麗な髪、夕焼けに染まる街よりも綺麗な彼女の笑顔を思い出す。そして、その笑顔を見て、改めて強く誓った思いを。
「ルーナは何があっても僕が絶対に守ります!守り抜きます!なので、これからアルメリア王国に乗り込みます!」
その言葉を聞いたベスターさんは、「よく言った!じゃあ、すぐに出発するぞ!」と準備に取り掛かる。
「え?ついてきてくれるんですか?」
「当たり前だろ?お前は俺の家族同然だ。そして、ルーナもすでに家族同然!その家族に手を出す奴には目に物を見せてやる!ミク!お前は店番を頼むぞ!失礼なやつは全て叩き出していいからな!」
「任せな!」
「レッド!さっさと準備をしろ!これから一度モンデル村に行ってハウグストたちと合流したら、サウスポートの街に向かうぞ」
「え?何でサウスポートなんですか?」
「訳は向かいながら話す」
それから、僕とベスターさんは、準備を整えてモンデル村へと走って向かった。
途中にある樹海を抜けていくから馬車ではなく徒歩で向かう。
「ベスターさん。大丈夫ですか?歩きでもいいですよ」
「なめんな!俺だってリックたちと訓練してたことあるし、今でもたまに隠れて鍛錬はしてたから衰えてはいねぇよ」
「では、全力で走ります」
そこから休憩は取らずにベスターさんと1日全力で走り続け、樹海の前に到着。
木々の幅が狭く、生物の侵入を拒むような樹海も僕たちには関係ない。
速度を緩めず、木々の間を縫うように進んでいく。
途中で、ブラックベアの群れと出くわしたが、出会い頭にリーダー格と思われる熊を仕留めたら、群れは逃げていった。
カネロの街を出て3日して懐かしい景色が見えた。
ついたのが夕方だったので皆家の中で夕食を食べていた。
「懐かしいな」
と、ベスターさんは、感慨深そうにしていたが、
「時間がないので急ぎますよ」
僕はベスターさんを促して、ハウグストたちの元へ向う。
しかし、内心村が無事だったことに僕は安堵していた。
ハウグストたちの家に向かうと2人は変わらずに過ごしていた。
「フィーナ!ごめん!」
「ごめんじゃないわよ!肉をとってくるのはいいけど、毎回毎回服を汚して帰ってこられても困るのよ!綺麗に洗うのも大変なんだからね!」
ハウグストが、フィーナさんに怒られている声が聞こえた。
それを聞いたベスターさんは「相変わらずだな」と懐かしそうにしていた。
「本当ですね」
変わらぬ2人にどこか肩の力が抜けた気がした。
僕たちは、ハウグストとフィーナさんの家の扉を叩く。
フィーナさんが「はーい」と言いながら扉を開ける。
「……え?レッド?どうしたの?それにベスターじゃない!何年ぶりよ!そんなところにいないで早く入って入って!」
僕とベスターさんは招かれるままに中へと入る。
僕とベスターさんを見たハウグストも「どうした!」と驚いていた。
「あら?2人だけ?ルーナちゃんは?」とフィーナさんが聞いてくる。
フィーナさんは質問した後に、僕たちの顔が険しくなったことで、状況を察したようで、「連れ去られたのね?」と聞いてくる。
僕は、こくりと頷く。
ハウグストも「そうか」
その場の空気が重いものとなる。
でも、僕は諦めていない。モンデル村に来る道中で聞いたベスターさんの話を思い出す。
「でも、取り返すチャンスはあるよ!」
「「どうやって?」」
僕はベスターさんから聞いた話を2人にする。
「ベスターさんがいうには、今アルメリア王国は宰相が実質的に支配している。裏の組織である「闇ギルド」と呼ばれる1000人規模の組織を使って、各街の部隊長の家族を人質に取って兵士も宰相が支配している。さらに、宰相の実家のサイ家が裏から多額の支援をしているという噂もある。だから、状況は絶望的だけど、王を慕うものたちが王と国を救うべく立ち上げたレジスタンスが存在するらしい。少しずつではあるが、闇ギルドの兵力を削っているらしい。そのレジスタンスのメンバーにはルーナが話していた「アンナ」という人物もいるらしい。その「アンナ」と思われる人物はサウスポートで飲み屋をやりながら情報を集めているらしい。その人に」
僕は、懐からルーナがつけていた髪留めを取り出す。
「このルーナの髪留めを見せ、事情を説明すれば、協力してくれるかもしれない。という可能性がある。可能性があるだけで協力してくれるかは分からない。完全に賭けになってしまう。でも、僕は何があってもルーナを取り戻したい!みんなできることなら力をかしてほしい!」
僕の話を聞き終えたフィーナさんとハウグストは、「「そんなの当然。行くに決まってる」」と、即答する。
「私の大事な娘に手を出したことを後悔させてやるわ!」
「そんなクソ野郎は俺がぶっ飛ばしてやる!」
と2人は意気込む。
「あ。レッドにも話してないことなんだけど。この国の商人協会は俺1人で何とかするから任せてくれ。ここで一旦別れることになるけど、すぐにサイ家を潰して、合流するよ」
「わかったわ。そっちはベスターに任せるわ」
「なら、すぐに準備してサウスポートに向かおう」
「うん!」
準備を終えたら、僕とフィーナさんとハウグストはサウスポートへ。ベスターさんは王都へと向かった。