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ルーナとレッド  作者: さくしゃ
22/26

お出かけ……影

 カネロの街で生活を始めて1週間が経った。


 「行ってきます。まだ、足が完全に良くなったわけじゃないんだから、安静にしてないとダメだよ?」

 「またお母さんみたいなこと言ってる。大丈夫よ。無理はしないから。それよりお仕事に遅刻しちゃうよ。いってらっしゃい」

 「そうだね。いってきます」


 ルーナの怪我は部屋の中なら立って歩けるまでに回復していた。


 僕もベスターさんの仕事を手伝って1週間経った。だいぶ仕事にもなれた。


 僕の主な仕事は、店番とベスターさんが仕入れてきた香辛料の荷運びと棚だし。


 そして、


 「おい!自分だけ香辛料を大量に手に入れるルートを独占するなんて卑怯だと思わねえのか?少しは俺たちにも分けやがれ!」


 とナイフを構えて脅しにくる人たちを捕まえて、憲兵に突き出す、用心棒のようなこともしている。


 「武器を持った大男たちを君1人でやっつけてしまったのか!」

 

 と驚かれることもあったが、今では、「いつもご苦労さん。この商会には君がいるから私たちも安心して向かうことができるよ」


 憲兵の人たちも慣れた様子で犯人たちを連れて行ってくれる。


 この街では、たまに商会が雇ったチンピラがライバルの商会を脅して、貶めようとすることが起こるそうで、その通報を受けた憲兵は直ちに向かわなければならないため大変らしい。


 中には、間に合わずに命を落としてしまう事案もあるそうだ。


 ベスターさんも僕が店にいるから、安心してミクさんといろんな商談に出かけている。


 なお、ミクさんはベスターさんがとんでもない取引をたまにしてしまうことがあるからと、暴走しないようについて行っているそう。


 商談がない時は、店番を手伝ってくれたり、店の奥で事務仕事をしたり、ルーナを可愛がったりしている。


 ルーナも歳はかなり離れているが、ミクさんは面倒見が良く「いいお姉さんができた」と喜んでいた。


 お店のお客さんは一般の人もいるが、高級そうな服を着た飲食店を経営してる人が来たりと様々だった。


 ベスターさんが扱う香辛料は種類が豊富で、村を出た後10年、世界を放浪した先で出会った塩職人などと仲良くなり、中には、他で手に入らない塩やスパイスと呼ばれる物を仕入れている。


 特にスパイスに関しては、ベスターさん以外では仕入れることができないらしい。


 何でも、取引をしないはずの民族国家連合と呼ばれるアルメリア王国の南にある国と唯一取引を許されているらしい。


 その為、ほかの香辛料を扱うお店からはとても嫉妬されている。


 お店が終わるとルーナが待っている部屋へと帰宅する。


 「おかえり」


 夕食を作って待ってくれている。


 部屋は2階部分を使わせてもらっている。一階ではミクさんとベスターさんが住んでいる。


 僕たちが使っている部屋は広く、キッチン、トイレ、リビング、2人部屋の寝室となっている。お風呂場は、1階にある。


 水は、家の屋上に大きなタンクがあり、週に1回、業者が水を補充してくれる。そこから家の中へと水が供給されるようになっており、蛇口?と呼ばれるものをひねると水が出る便利な仕組みとなっていた。


 最初見た時はとても驚いた。ルーナもアルメリア王都でもこんなものはない!と目を丸くしていた。


 「今日は久しぶりに野菜スープを作ってみたの」


 と、にっこり笑ってよそって持ってきてくれる。


 ああ。なんかいいな。村のみんながどうなったか心配だけど、仕事が終わって家に帰って、ルーナが笑顔で「おかえり」と迎えてくれると疲れなんて吹っ飛んでしまう。


 夕食を食べながら、その日にあった話をしながら一緒に食べるのも楽しい。


 ルーナはというと、街に来てから日記をつけるようになった。


 夕食の洗い物が終わり少しまったりする時間ができると、僕の前で楽しそうに書くときもある。


 どんなことを書いているのか聞いても「ひみつ」と教えてくれなかった。


 *********


 「王女を見失うとは!使えん奴らだ!何があっても探せ!王女と結婚しなければ、私が王になれないのだ!」

 

 1人の男が騒いでいた。


 男は、ダイヤの指輪などの宝飾品を体のあちこちにつけた黒い髪のぽっちゃりとした体型に、歳の頃合いは40を越えたばかりのに見える風貌。


 男の名をアルダ・サイ。


 謀反を起こし、国王を牢屋に閉じ込め、現在アルメリア王国を実質的に支配している宰相。


 そんな宰相は焦っていた。


 アルメリア王国を手に入れるのに必要な王女が捕まらないからである。


 彼はあと一歩で国を支配できるところまで来ていた。だが、王女を捕まえて結婚しないことには正式な王になることはできない。


 この国を統治して良いのは、王族のみという決まりがあり、王族は、現在の国王とルーナ、2人しかおらず、宰相が王族、さらに国王になるにはルーナと婚姻をするしかないのだ。


 だが、いつまで経っても捕まらない王女……今まで自分の思い通りにしか行ったことのない人生を送ってきた宰相は、思い通りにいかないことにイライラしていた。


 そんな怒る宰相に、1人の男が情報をもたらす。


 「アルダ様。影にございます。王女の行方を掴みました」


 彼は、闇ギルドの頭をしている「影」と呼ばれる裏の業界に名を轟かせる暗殺者。暗殺者だが、それ以外にも密偵などにも長けている。


 「ほう。よくやった。すぐに連れて来い」

 「わかりました」


       ************


 カネロの街に来て、3週間。


 私は4日前からようやく普通に歩けるようになり、今は、夕食の買い物に来ていた。


 この街にもすっかりなれ、買い物の後によく行くお気に入りの場所もできた。


 そこは、街を一望できるところで、人もあまり来なくてゆっくりできる。


 一度、レッドの帰りが遅かったので、夕方に出かけてみたが、その光景に魅了されてしまった。


 夜の闇と夕日の紅が入り混じる空に、街には夕日の紅色が照らされ、白壁の家が赤色に染まる光景、街の外に広がる草原、夕方の少し冷たいような気持ちの良い風。


 まるで、絵画を見ているようで魅了されてしまった。


 そして、仕事から疲れて帰ってくるレッドを「おかえり」と迎える。


 その日の仕事での話を聞きながら食べるご飯は楽しい。


 お父様が、愛する人と送る生活は一緒にいるだけで、時間を忘れるほど楽しいと言っていたことを思い出す。


 うん。確かにその通りだわ。とっても楽しい!

 


 ー街に来て1ヶ月ー


 今日は、レッドがお給金をもらう日だから、夕食は外で食べようということになった。


 「何を着て行こうかしら?」


 レッドが仕事に出かけてから、とりあえず持ってきた服の中から少しでも可愛いものを選ぶ。


 「そうだわ!久しぶりにお父様からもらった髪止めをつけて行こう!」


 部屋の衣装ダンスの引き出しから、長い後ろ髪を束ねる金色の緑の綺麗なガラス細工の髪留めを取り出す。


 その髪留めは、ルーナの月のようにきれいな銀髪に合わせて作られた特注品で、髪留めには光に当たると見えるように「ルーナ」と名前が彫られている。


 「うん!今日の服はこれでいいわね!」


 服が決まったところで、外を見ると空が紅色に染まっていた。


 「いけない!洗濯物を取り込んでいなかった!」


 慌てて洗濯物を取り込み、服のしわ、髪のほつれなどを直して、最後にミクさんからもらった化粧品で肌の色をいつもよりも明るくする。


 お化粧が終わると、


 「ただいまー」


 レッドが帰ってくる。


 「おかえりー」


 と、レッドを迎える。


 レッドは、私を見ると固まってしまう。


 「どうしたの?」


 私が聞くと、「いや!何でもない!」と顔を赤く染めお風呂場へ走り去ってしまう。


 (変だったかしら?頑張ってみたんだけどな。せめて、何か言ってほしかったな)


 レッドが何も言ってくれなかったことにとても落ち込んでしまう。


 しかし、レッドは戻ってきて、「逃げるように走り去ってごめん。いつもと雰囲気が違ってすごく可愛かったから見とれちゃって……どう反応したらいいかわからなくて……すごく似合ってるよ」


 と言って、再びお風呂場へと行ってしまう。


 「……へへへ!可愛いだって!すごく似合ってるだって!」


 恥ずかしいけど、褒められたことに嬉しくて笑みが止まらなかった。


       ***********


 僕は、ルーナに言ったことを思い出して身悶える。


 (うぅ。恥ずかしい!……でも、すっごく可愛かったな)


 それから、汗を流して、新しい服に着替えてルーナと家を出た。


 いつもは普通に話せるのに、今日は何だが2人とも顔を赤くして無言で道を歩いた。


 僕が何を話せばいいか分からないでいると、


「レッド!ご飯を食べる前にあなたに見せたいものがあるの!」


 と、ルーナが僕の手を引っ張ってご飯を食べに行く途中の道を曲がって路地を進んでいく。


 「どこに行くの?」


 僕が聞いても、「ひみつ」と笑って誤魔化される。


 しばらく路地を歩くと、急に視界が開けた。


 そこには視界いっぱいに広がる夕焼けに染まる街が一望できた。


 その光景は神秘的で思わず、「きれい……」と見惚れてしまう。


 僕が見惚れているとルーナは嬉しそうに、「でしょ!」と笑う。


 僕は、風に揺れる月のような綺麗な髪と彼女の笑顔を見て、夕焼けに染まる街の光景以上に見惚れてしまった。


 (ああ。僕はこの素敵な笑顔をどんなことがあっても絶対に守ってみせる)


 ふと、村を出る時に誓った時以上に強く思った。


 しかし、油断していた僕はこの時のことを後悔することになる。


 「王女発見」


 その言葉を聞いた瞬間に、僕は視界が黒く染まった。 

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