追われる姫と赤髪の少年 2
ダァー
僕の名前はレッド。14歳。アルメリア王国の南東の国境沿いの山間にあるモンベル村と言う20人くらいしかいない、小さな村で小作人をしながら1人で暮らしている。
僕の両親は、母は肥立ちが悪く、僕を産んだ時になくなってしまい、父は、僕が6歳の時に、山で猟をしていた、村人がクマに襲われてしまい、襲われた村人を助ける為に熊に立ち向かって重傷を負い、その2日後に息を引き取った。
それからは、他の村人に支えられながら、なんとか生きてくることができた。
特に、僕の家の唯一の近所と呼べる、ハウグスト夫妻には息子のように助けてもらった。
ハウグスト夫妻は、僕の両親の幼馴染。両親とハウグスト夫妻を含めた5人組で昔から仲が良かった。5人組のもう1人は、15歳の時に、外の世界が見てみたいと村を出て行ったそう。
現在は、カルロと呼ばれる街に住んで、商会を立ち上げて四苦八苦していると数年前に手紙が来たらしい。
そんな僕の日常は、朝起きて、村の見回りから始まる。
モンデルの村は、山間にあるので、たまに村の中に熊や猪が食料を求めて、夜中にやってくることがある。
村は、老人が多く、日が昇る前から畑仕事をする人もいる。その人たちが、運悪く襲われないように、また、襲われていたとしても、助けられるように朝早くから見回りをしている。
見回りが終わると、ハウグストとの鍛錬が待っている。
僕は、このハウグストとの鍛錬がとても苦手だ。
ハウグストは、40になるおじさんなのに、木こりや畑仕事で鍛えられて、未だに筋肉がムキムキで1人で丸太を持ち上げて運ぶほどの力自慢。
この前なんて、小さかったとはいえ、大人になりたての熊を投げ飛ばして追い返していた。
兵士になった方が良かったのでは?と思ってしまう。
そのハウグストとの鍛錬は、1時間の組手。組手と呼んでいるが、思いっきり拳をぶつけ合う、喧嘩のような鍛錬をしている。
側から見たら、組手というよりも、取っ組み合いの方が正しいかもしれない。
1時間の鍛錬が終わると、ハウグストの奥さんのフィーナさんが作ってくれた朝食を3人で食べる。
フィーナさんも両親の幼馴染の1人。
2人には、子供ができなかったため、僕を本当の息子のように育ててくれた。
そんな2人と僕は一緒の家には暮らしていない。
父が亡くなった時に、両親の大切にした家を守りたいと僕がお願いしたから。
僕の意を汲んでくれた2人は、食事や農作業は一緒にすること、何かあった時は遠慮せずに甘えること、2日に一回はハウグスト家に泊まりにくることを条件に許してくれた。
現在、14歳と大きくなった今もこの約束は継続。一つ変わったことは、農作業は1人でするようになったこと。
両親の残した土地は、長い間手入れができなかったところもあったので、畑として使える土地が少ない。そこで、ハウグストが土地を一部貸してくれた。
現在僕は、両親の残してくれたわずかな土地とハウグストから借りた土地を使って1人で作物を育てている。
2人と朝食を食べた後は、フィーナさんの作ってくれたお弁当とくわなどの道具を持って、畑に向かうか、弓を持って狩りに出かける。
日によって違うが、今日は、畑の手入れ。
今日は、作物の間に生えた雑草と畑周りに生えている雑草をきれいに取る。
時間があったら、作物についた虫を一つずつ取っていく作業。
今日は、作業がスムーズに進み、日が沈む前に作業を終えることができた。
夕食まで時間があったので、畑近くの川に行ってみることにした。
夕食用に魚でも捕まえるかと思い、河原の石の上を歩き、上流を目指す。
辺りの景色を楽しみながら10分くらい歩いていると、川向こうに人がうつ伏せで倒れているのが見えた。
なぜ、こんなところに人が?と一瞬疑問に思ったが、倒れている人が無事なのか気になった僕は、急いで川を渡る。
川を渡る中で、倒れている人が白い長い髪をした女性だと確認できた。
女性に駆け寄ると、肩が規則正しく動いているのが確認できた。
女性が息をしていることに一安心した僕は、他に異常がないか確認する。
女性というより少女かな?よく見てみると、僕と歳が変わらないくらいの少女だった。
少女は、外套などの旅の格好や道具は何も身につけておらず、この辺の人が着る服よりも上等な素材でできたフリフリした足首まであるスカートの服を着ていた。
そんな少女の服は、よっぽど慌てて森の中を走っていたのか、所々が枝によってボロボロになっていた。
お金持ちの娘さんかな?盗賊に襲われた?でも、この辺は、あまり人が来るようなところではないから盗賊もいないはずだけど?
そんなことを思いながらも、怪我の確認を続ける。
目で見た感じは、四肢の擦り傷が酷そうなことくらいだった。
外相の確認が終わると、僕は、少女を背負い、直ちに家に向かった。
少女は、ひどく軽かった。頬がこけて、目の下は、クマがひどい。
何日も飲まず食わずで森を彷徨っていたのが、少女の状態から、すぐに分かった。
家に着いた僕は、少女をベッドに寝かすと、まずは、擦り傷が化膿しないように、手ぬぐいを濡らし、汚れている傷口をきれいに拭いていく。
傷口がきれいにし終わると、包帯などの高価な品はないため、きれいに洗って乾いたばかりの布に、自分で作った傷薬を塗り、傷のある手足をくすりを塗った布で覆う。
次に、口の中が乾燥していたので、布を湿らせ口の中を少しだけ湿らせる。
少女を発見した時は、傷と息の有無しか確認していないことを思い出し、熱がないか確認すると、酷くおでこが熱かった。
すぐに、水を汲んできて、布を湿らせ、額に湿らせた布を当てる。
一応の手当てが終わると、汚れてボロボロになった服でいるのは、よくないのと服の中は怪我をしているのか確認していないと思い、すぐにフィーナさんを呼びに行った。
フィーナさんに事情を説明して、家に来てもらい、少女をきれいに拭いてもらい、怪我の確認をして、服を着替えさせてもらう。
フィーナさんによれば、擦り傷と熱以外は、異常は見られなかったとのこと。
それから、少女が起きた時に、着替えがないのでは困るからとフィーナさんが着なくなった古着を3点くらいもらった。
そこから、2日かけてやっと少女の熱が下がった。
熱が下がるまでの間、何かにうなされる時もあって心配したが、なんとかなって良かった。
安心した僕は、水を汲みに外に出て、戻ってくると少女が目を覚ましていた。
ドーン!